からくりサーカス23巻発売記念
一撃離脱オリジナルおまけ企画
「炎の減量戦士・ナルミ!」

 

(体重計に乗るナルミ。

(デジタル体重計、120.4kgと表示している。

(息をのむナルミ。

(阿紫花、ジョージ、ミンシアの三人、ナルミを囲んで体重計をのぞき込んでいる)

 

阿紫花「……すんげぇ数字ですね、こりゃ」

ミンシア「ミンハイ……あんた、太ったわねぇ……

ナルミ「太ったわけじゃねぇ! これだよ、これ!(と人形の両手両足を見せる)」

ミンシア「(胴を叩いて)本体だってすごいじゃない。ちょっとはダイエットしたらどうなの?」

ナルミ「ダイエット? どうしてオレがそんなものを!」

ミンシア「このままじゃあんた、重量オーバーで飛行機乗れなくなるわよ!」

ナルミ「んなワケねぇだろ!」

ジョージ「そうでないとしても、
お前
運賃というのは納得がいかんぞ」

阿紫花「そうですぜ兄さん……、
隣の席で
窮屈な思いしてる身にもなってくだせぇ

ミンシア「(阿紫花に)
そうでしょ、
そう思うでしょ!

阿紫花「そうですって。それに姐さんまでこんな、
ぶくぶくぶくぶく太っちまって可哀想に
……兄さん、これだってあんたの影響ですぜ!」

ミンシア「そうでしょっ、
この体見てると緊張感なくなっちゃってねぇ……(間)……!?」

 

(阿紫花、ミンシアの回旋蹴りが顔面に直撃)

 

阿紫花「……(かくんかくん)……」

ジョージ「(阿紫花に)おまえはどうしてよけーなコトを……

ミンシア「と、(ナルミに)とにかく、
ダイエットしなさい!
 わかってるのミンハイ!?」

ナルミ「あのな……」

ミンシア「はーん、さてはあんた……
ダイエットする根性もないのね?」

ナルミ「わ……わかったよチキショウ! やってやる、やってやるよダイエット」

阿紫花「へぇ……
さっすが兄さん、オトコだねぇ

ナルミ「くっ……見てろよおめーら、
誰にも文句言わせないほど
スリムになってやるからな!」

 

(ナルミ、減量を始める。

(他の三人は食事中。ナルミ、コマ背を向け空腹を我慢している)

 

阿紫花「はははーっ、このフランス料理はうめーですね♪」

ナルミ「……(生唾を飲み込む)……」

ミンシア「ミンハーイ、
我慢できなくなったら、
いつでも
したっていいのよー!

ジョージ「大丈夫だ。あのカトウにかぎって、そんな中途半端なマネはするまい」

ミンシア「そうよねぇ♪ さあ、みんなでいただきましょう♪」

阿紫花「あー、うめぇ♪」

 

(ナルミ、減量中。体重109.4kg)

 

(ナルミ、減量続行中。

(他の三人は食事中。ナルミ、一人背を向け空腹に耐えている)

 

ミンシア「お待たせー。
ファティマさんに教えてもらった本場シシカバブーよ♪」

阿紫花「おおっ、うまそうですねぇ! 肉汁がしたたり落ちて、香りがいっぱいに広がりやすねぇ」

ナルミ「……(ぐぅぅ〜)……」

ジョージ「どうだカトウ、こっちに来て一口食べたら?」

ミンシア「だめよジョージさん! 
こんな脂っこいの食べたら、すぐ
太っちゃうわよねー♪」

阿紫花「そぉですねぇ、
ダイエットは
リバウンドが一番怖ぇですからね……」

ジョージ「……そうだな。
それに、よもや天下カトウが、こんな程度でネを上げるわけもないしな」

阿紫花「(ナルミむけて掌いで
ほら兄さん、香りだけでもおすそわけ〜」

ミンシア「さ〜あ皆さん、召し上がれ♪」

阿紫花「あーっ、うめぇ♪」

 

(ナルミ、減量続行中。体重101.2kg)

 

(ナルミ、減量を続ける。

(他の三人は食事中。ナルミ、一人背を向け空腹と闘っている)

 

ミンシア「さぁどーぞ♪ ミンシア姉さん特製
本格四川風麻婆豆腐よん♪」

阿紫花「おおっ、待ってやした! う〜ん、
この赤みが食欲をそそりやすねぇ!」

ナルミ「……(ぐぅ〜〜)……(きゅるる〜〜)……」

ジョージ「わっ、これは辛いな……!」

阿紫花「この辛さがいーんですって♪ ほら、
 汗がーっと出て、
気分が爽快になりやすでしょ?」

ミンシア「辛みにあわせて食べるご飯が美味しいのよ♪

 あ〜、しあわせ……♪」

阿紫花「豆腐の切り具合も絶品ですねぇ……姐さん、いい嫁さんになれやすぜ」

ミンシア「やだぁ、アシハナさんったら♪
(お約束、阿紫花一撃)

ジョージ「どうだカトウ、
ダイエットなんて無理はやめて、一緒に食べないか?」

ミンシア「そうよミンハイ。
無理しないでもいいのよ。
あなたこと、根性なしだなんて笑ったりしないから♪」

阿紫花「そうそう、
兄さんは立派に頑張ったんです。
根性無しだなんて絶対言やしやせんよぉ……でも、思うのはいーんですよね?

ジョージ「それは、個人の自由というものだからな」

阿紫花「そうですよね。
安心してくんな、(ナルミに)口には出しやせんからね!
……あーっ、うめぇ♪

 

(ナルミ、減量続行中。体重98.5kg)

 

(ナルミ、減量を続ける。

(他の三人は食事中。ナルミ、一人背を向け空腹に苦しんでいる)

 

ジョージ「ほう、これがスキヤキというものか」

阿紫花「へっへっへ♪ 
いっつも御馳走になりっぱなしじゃ悪ぃですから、
今日あたしが腕をふるいましょ、とね♪」

ジョージ「って……確かスキヤキは、
みんながそれぞれ調理するものではないのか?」

阿紫花「わかってねぇなぁジョージさん、日本にはね、鍋奉行ってのがいやしてね……」

ジョージ「ナベ……ブギョー?」

ミンシア「スキヤキってジューシーよね♪ あたし、だーい好き!」

阿紫花「さんっ、最初は肉から焼くんですって!
……ジョージさんも! 肉に火が通ってから野菜を入れてってくだせぇよ」

ジョージ「ナベブギョー……さしずめナベ・コマンダント(司令)だな……」

阿紫花「ごたごた言わねぇの……さァできた。
んじゃ姐さん、よそったげやしょう……こうやってね、生卵からめるとうめぇんですぜ」

ミンシア「あら、ありがとう……(間)……おいしーっ!」

阿紫花「そんじゃジョージさんも」

ジョージ「……(間)……うん、スープが実にテイスティだ」

阿紫花「ありがとさんです……割り下はね、羽佐間の特製なんですよ♪
 みりん醤油わせこれまた絶妙でね……
わざわざ取り寄せたんですぜ」

ミンシア「お肉がやわらかーい!」

阿紫花「そりゃそうでしょう、なんたって
最上級の松阪牛ですからね。
そぉれ、菜にもダシが染みてきた……
こいつがうめぇんです、どんどん食べてくんな♪」

ナルミ「……(ぐるぐるぐるきゅぅ〜〜)……(ぐぅぅぅ〜〜)……(きゅるきゅるきゅるぅ〜〜)……」

ミンシア「ミンハーイっ!
 ミンハイもこっちで一緒に食べたら? 美味しいわよぉ!」

ジョージ「おいミンシア、ナルミはダイエット中だぞ。忘れたのか」

ミンシア「あら、すっかり忘れてたわ。
ミンシア
……お・ば・か・さ・ん!
 てへ♪

阿紫花「さぁ、肉はいっぱいありやすから、じゃんじゃん食べてくだせぇよ」

ミンシア「はーい!」

阿紫花「んじゃあたしも…………あ〜、うめぇ!
 羽佐間ぁ、あんたの
シタ世界一ですぜ

ナルミ「……(ぐるきゅるるぅ〜〜)……(ぐ〜〜)……(きゅるきゅるきゅるぅ〜〜)……」

 

(ナルミ、減量続行中。体重91.2kg)

 

(ナルミ、減量を続ける。

(他の三人は食事中。ナルミ、一人背を向け空腹を力ずくで抑えつけている)

 

ジョージ「ほら、今日は私が作ってやったぞ」

阿紫花「おおっ、オーストリア名物ウインナーソーセージですね!」

ミンシア「あらぁっ、なんかすっごく豪華じゃない!」

ジョージ「そうとも、ラローシュ家秘伝のレシピを
宮廷料理風にアレンジしてみたからな。
ハプスブルグ王家伝統の味を、たっぷり堪能してくれ給え」

三人「いっただきまーすっ!」

ナルミ「……(ぐぅぅ〜)……(きゅるるる〜〜)……(きゅるきゅるきゅるぅ〜〜)

ミンシア「いやぁぁぁっ!
もうダメっ、……おいしくって、ほっぺが落っこちそう!」

阿紫花「このスープのコク、色、香り! 
なかなか出せるもんじゃねぇですよ」

ミンシア「ソーセージがしてるのー!」

阿紫花「たいしたもんです、野菜の甘みがよく出てますねぇ……
 ねぇジョージさん、
『しろがね』なんざすぐやめちまって、料理人になんなせぇよ」

ジョージ「ば、ばかをいうなアシハナ……♪」

ミンシア「ジョージさんがお店出したら、あたし毎日通っちゃう!」

阿紫花「そうですよねぇ。だって……こんなにうめぇんですから」

ジョージ「そ、そうか……♪」

阿紫花「(ナルミに)うですさん、兄さんもこっちで一口?」

ミンシア「あ〜ら♪
アシハナさんいけないわ、
ダイエットに苦しんでるミンハイ誘惑しちゃあ

阿紫花「そっかぁ、兄さんはダイエット中だったんですよねぇ」

ジョージ「気の毒だなカトウ、せっかく君の分も用意してやったのに」

阿紫花「……んじゃしょうがねぇ、兄さんの分もみんなで食べやしょうぜ♪」

ミンシア「や〜ん! あたしダイエットしなきゃ〜
……こ〜んな美味しい料理をいっぱい食べてたら、ミンハイみたいに太っちゃう♪」

ナルミ「……(ぐぅぅ〜)……(きゅるるる〜〜)……(きゅるきゅるきゅるぅ〜〜)……(ぐるぐるぐるぐぅぅぅ〜〜〜)」

 

(ナルミ、減量続行中。空腹に苦しみつづけている。

(それを全く気にとめず、食事に盛り上がる三人。

(阿紫花、とつぜん何を思ったかウインナーを箸でつまんで、

(そのまま隅のナルミのそばに走り寄る)

 

阿紫花「このままじゃ、あんまり兄さんが可哀想ですから……」

ナルミ「……(阿紫花を凝視)……」

 

(阿紫花、ナルミの耳元で、

(手にしたウインナーを噛み折る。
ぽりっ

 

阿紫花「ほ〜ら兄さん、(ナルミに)音だけでも、おすそわけ〜♪……
(食べて)
あー、うめぇ〜♪

 

(その瞬間、)

 

ナルミ「うおおおおおっっっ!」

阿紫花「ひっ……!」

 

(眼と歯を引ん剥きデモン化したナルミ、
三人の前に仁王立ち。

(ナルミの背後になぜか突然、えさかる炎。

(ナルミ、左腕から聖ジョルジュの剣を引っ張り出し、
鎖付きの刃を口にくわえる)

 

ミンシア「きゃーっ、ミンハイ!

ナルミ「てめーらっ、何が減量だ! 何がダイエットだ!!」

 

(阿紫花・ジョージ・ミンシアの三人、
腰を抜かして身を寄せ合う。

(その体の上に、ナルミの黒い影が覆いかぶさっている)

 

ジョージ「落ち着けカトウ、冷静に……!」

ミンシア「ごめんなさいっ、ごめんなさいミンハイ!」

阿紫花「すまねぇ! 待ってくんな兄さんっ……
あ、あたしは可哀想って言ったんですぜ。それをこの二人が……」

ミンシア「なっ、なんてことを……んたが一番楽しんでたじゃない!」

ジョージ「責任転嫁はよさんかアシハナーっ!」

ナルミ「うるせぇっっっ!」

 

(ナルミ、聖ジョルジュの剣を振り上げる。

(一瞬、まるで斬●剣のごとく走る光芒)

 

 

 

 

(そののち、

(ナルミの体躯から、ぽろり、ぽろりと、

(人形の手足の外板、飾り、武装等々が、
ことごとく切断され、剥ぎ取られる。

 

手足のパーツを極限までこそぎとした
ナルミスケルトンモデル
(限定バージョン)、
三人に駆け寄ると、
骨組だけの腕で料理をむさぼり喰い始める)

 

ナルミ「……(がつがつがつがつがつ)……どーだ、
これだけくなったら文句ねぇだろ!(がつがつがつ)

ジョージ「……ば、バルカン300……」

ミンシア「……(ずいぶん長い、間)……ま、あんたがそれでいいのなら……」

阿紫花「いっぱい食べてくんなせぇ、兄さん♪」

 

(ナルミ、減量大成功!
 体重79.1kg、
おめでとう!!!)

 

(コマの外からダール
ロッケンフィールド
ティンババティ、
そして
トーア
あきれ顔でそれを見守っている)

 

ダール「……おめーって奴は……」

 

(fin)

 

(H14.6.18_R.YASUOKA
(based on comic,
('Le cirque de Karakuri'
(by Kazuhiro Fujita)

 

おことわり:
 本作は藤田和日郎原作「からくりサーカス」を題材にしたフィクションです。
 作中登場する、あるいは想起されるいかなる人物、団体、事件、おまけまんがその他も
実在のものとはいっさい無関係です。
 それから……ナルミファンの方、減量中の方……ほんとうに、ごめんなさい。