月光条例オリジナルストーリー
「月光条例施行規則
 〜附則 呑舟の新たな伝説〜

 

むかしむかし あるところに はちかづきという

おとぎばなしの とうじょうじんぶつが くらしてました。

はちかづきは げっこーじょーれーという おとぎばなしのくにの ほうりつで

むーんすとらっくされて ねじれた おとぎばなしを ただすために

のみこんだ ものに へんしんする じゅつを みにつけて

おにのかなぼうや くるまや ひこうきを のみこんで

げっこーじょーれーの しっこうしゃの たすけに なってました。

そのために よみてのせかいに やってきて いまは

しっこうしゃである いわさきげっこうの おさななじみの

えんげきぶという じょしこうせいのいえに いそうろうして

げっこうの いえの らーめんいわさきで あるばいと してました。

 

ある おしょうがつの ことです。

せっかく はっちゃんが こっちのせかいに きたんだし

げっこうのみせで みんなで しんねんかいやろーよ と

えんげきぶが いいだして みんなに こえをかけて

はちかづきをつれて らーめんいわさきへ いきました。

みせへ いくと おもてのとに

 

謹賀新年

 正月休みのため五日から営業いたします。 

ラーメンいわさき 

 

という はりがみが してありました。

おめでとうございまーす と とをあけて

えんげきぶと はちかづきは みせのなかへ はいりました。

すると みせのなかには がんこそうなかおをした げっこうの おやじさんが

おう あけましておめでとう と あいさつを かえしました。

そのわきで げっこうが よお と いいますと

いきなり おやじさんが げっこうのことを なぐりました。

てめーはしんねんのあいさつもまともにできねーのか と いってから

えんげきぶと はちかづきのほうを ふりかえると

おっなんだ きょうはいつもいじょうに きれいじゃねえか と おどろきました。

えんげきぶも はちかづきも おしょうがつなので

きれいな はれぎを きていたのです。

おやじさんが それをみて いやー

きょうは やすみにすんじゃ なかったな

こんなかわいいじょうちゃんたちが みせにいたら

きゃくがいっぱいはいってきて おおもうけ できんのにな とわらいました。

 

やだそんなおやじさんほんとのことを と えんげきぶが てれて

はっちゃんとふたりで きつけしてきたんだよ と いいました。

すると よこにいた げっこうが ぼそりと

そうだな しょうがつといえば かそうたいしょうだもんな

きんちゃんも びっくりして まんてんぐぐぐぐ と

いいかけてたくちに こしょういれを ねじこんで おやじさんが

しょうがつそうそうすまねえな おっ そうだ

すくねえけどよ これで なにかうまいもんでも くってくれや と

ぽけっとから ぽちぶくろにはいった おとしだまを くばりました。

 

そんな おやじさん あたしもうこどもじゃないし

などといって ふたりは かえそうと しましたが

なに ほんのちょっとだし それに

いつも うちのばかが めいわくかけてるからよ と

おやじさんが いったので ふたりとも うけとることにしました。

すると ふたりのよこにいた げっこうが

けっ つぶれかけたびんぼーなみせが みえはりやがって と

はきすてるように いったので

ちょっとなによあんた せっかくのおやじさんのきもちを と

えんげきぶが はんろんしかけたのですが

それを おやじさんが とめました。

まあまあ こいつはよ じつは おとしだまがもらえなくて すねてんだ

おめーもそうだな これで うまいもんでも くってくれよと いって

かうんたーのうえのはしたてから わりばしを にさんぜん つかんで

げっこうの むねぽけっとに おしこみました。

なんだよこれは この くそじじい

これが こどもにたいする おやのあつかいか と げっこうが いいました。

てゆーか うしとらでやったねたをぱくってんじゃねえ と つづけたので

これをかいてる ひっしゃは ちょっとどっきりして しまいました。

 

そのとき みせの とが ひらくと

げっこうの けんかともだちで ばんちょうの

くちびるのぶあつい てんどうが はいってきました。

てんどうは みせにいた えんげきぶを みて

おっ まいすいーとはーと はっぴーにゅーいやー と さけびかけましたが

おやじさんが みせにいるのに きがついて れいぎただしく

あけましておめでとうございます と あいさつしました。

おやじさんは あけましておめでとう おめーは くちびるは ぶあついが

そういうれいぎは しっかりしてんだな かんしんかんしん と いいながら

てんどうにも おとしだまを あげました。

げっこうは もう なんにもいわないで

くちに わりばしを くわえて そっぽをむいてました。

 

さあて みんながきたんだから おせちとぞうにを ださなきゃな と

おやじさんが げっこうをてつだわせて ちゅうぼうから

じゅうばこにつめられた おせちりょうりを だしました。

すごいじゃない なによこれ この ごうかなおせちは と

えんげきぶが いいますと おやじさんが

ははは これか きょねんのくれから はちこうが と

はちかづきのことを あごでしゃくってから

じょうちゃんが じぶんのために しんねんかいを してくださります

その おきもちに すこしでも むくいるために

みんなでめしあがる おせちりょうりは わたくしが ごよういしますって

こっそりと けんめいに つくってたんだぜ てえしたもんだ と

せつめいしますと えんげきぶが みを のりだして

おねがい およめさんになってー と はちかづきに だきつきました。

きゃっえんげきぶさま な なにをなさいます と

はちかづきは ほほをそめて たいそうこまってました。

わきで そのようすをみていた てんどうも つい ほほをそめましたが

げっこうは そんなようすもきにせずに

ひとりで ぱくぱく おせちを ほおばりはじめました。

 

おいがっつくな おせちといや ぞうにが つきものだろう

いわさきとくせいの おりじなる ぞうにを よういしてるんだぜ と

おやじさんが かうんたーに どんぶりを ならべ

つぎつぎと おぞうにを よそいはじめました。

ほら とりと ぶたのせあぶらを だしにした しょうゆふうみで

ぐには はくさいと ねぎと やきぶたと やきのりを つかってあるぜ

あと うちの おりじなりてぃとして

もちの かわりに てうちの ちぢれめんを たっぷり いれたからよ

おこのみで こしょうをかけて めしあがってくれい と いいました。

わあ いただきます と えんげきぶが はしで ひとくち たべて

うーんいいわ いわさきのおりじなるおぞうに

いつもたべてるみたいな なつかしいあじがするのよねえ と いってから

これってようするにいつものらーめんじゃないのおやじさん と

じかんさで つっこみを いれました。

 

えっ そうか おかしいな と おやじさんが ひとくち たべてみて

ほんとだしまったらーめんじゃったわい と あたまを かかえました。

えっ これって ぞうにじゃなかったのか

がきんころからくってたから ぜんぜんきがつかなかったよ と

げっこうが たいそう おどろきましたので てんどうが

おめえ いままでなにくってきてたんだよ と どなりました。

それではわたくしがおぞうにもつくりますわ と

はちかづきが たちかけたのを えんげきぶが とめて

いいわよ もう ことしは

おせちとらーめんで しんねんを むかえましょう と いったので

みんなして ずるずると らーめんを たべはじめました。 

 

どお らーめんはともかく

はっちゃんてづくりの おせちりょうりは と いいながら

えんげきぶは じぶんで じゅうばこから くろまめを つまんで たべました。

こ こ これは

いや〜ん おいしくて ほっぺが おっこっちゃうわぁ と

はしをおいて えんげきぶが りょうの ほっぺを おさえました。

それから はちかづきの りょうの てを つかんでから

おねがいはっちゃん やっぱりあたしの およめさんになってー と

いきなり からだを だきしめましたので

はちかづきは ななななにをおたわむれをえんげきぶさま と

さっきいじょうに ほほを まっかにして どうようしました。

ほんとだ こいつはうめえな と てんどうも いってから

おいげっこう おめーはどうなんだ と ききました。

ところが たずねられた げっこうは つまらなさそうな かおで

ふん まずい と そっけなく へんじをしたので

おいこら はっちゃんのおせちに けちつけようってのか と

てんどうが げっこうのほほを ひっぱったので

まけじと げっこうも てんどうのくちびるを のばしました。

くちびるはやめろー と てんどうがどなるのを みて

あーあ こいつらはしんねんそうそうと えんげきぶが あきれました。

 

まいどすまねえな うちのばかが と おやじさんが いってから

こりゃあれだな こいつも おせちりょうりだけに

りょうりにおせじくらいいえれば いいのにな

これがほんとの おせじりょうりだ わははははは と

さむい おやじさんぎゃぐを とばしました。

これには まわりも たちまち さむくなって

なぐりあってた げっこうも てんどうも たちまち こおりつきました。

そのなかで はちかづきだけは

まあ おせちと おせじを かけあわせたのでございますね

さすがごしゅじん しんねんから とんちがきいて ございますわ と

わらうつぼが どこかずれてる てんねんぶりを はっきして

ひとりで うけてしまって おりました。

 

それじゃそろそろ おとなは おとそを いただこうか と

おやじさんが ちゅうぼうから にほんしゅを もってきて

ちょっとだけですが さかずきに いれて のみました。

あーあ じぶんだけのみやがってよ と げっこうが いいますと

あら みせいねんがおさけをのんじゃ いけないでしょ と

いってから えんげきぶが にやりとわらって こう つづけました。

だいたいあんた えらそうなこといって ぜんぜん げこじゃない

わすれたの しょうがっこうさんねんのとき おとそをぬすみのみして

ひとくちでまっかになって よっぱらって

このおみせで なにしてたかぐもがががががが と

しゃべってたくちを げっこうに おさえつけられました。

そう こんなげこには もう ひとくちも やれはせん

そこのくちびる おまえはどうだ いっぱい と

てんどうに おやじさんが すすめましたが

いや おれは かえりがくるまだし

そもそも みせいねんだから さけは だめなんすよ と ことわりました。

みせいねん といわれて おやじさんは おどろいたようですが

それを おさえて それじゃはちこう おまえはどうだ と いいました。

 

そういえばそうね はっちゃんて みせいねんなのかしら と

えんげきぶが はちかづきを ふりかえって いいました。

わたくしのものがたりのじだいでは わたくしも おとなあつかいですが と

はちかづきが くちごもりながら いいますと

じゃ ちょっとだけ のんでみろよ と おやじさんが すすめました。

あっですが わたくし おさけは のんだことが ございませんので と

はちかづきは ことわったのですが

なーによはっちゃん なにごともけいけんよ け い け ん と

いいながら えんげきぶが ちょっとだけ おさけをいれた さかづきを

はちかづきの まえに さしだしました。

そ そうでございますね それでは おためしに と いって

はちかづきは ひとくちだけ おさけをくちに ふくんで のみこみました。

 

すると たちまち

はちかづきの ほほが まっかに そまり

いきが おおきく なってきました。

えっ もしかしたら もう まわっちゃったの と

えんげきぶが ききましたが はちかづきは

へんじもしないで たちあがって

あしもとを ふらふらとさせながら あるいて

これが おさけという もので ございます か

わたくし なんだか とても きもちよく なってまいりました

ですが どうやら ここは たいそう おあつうございます ね

しつれいして すこし らくなすがたに ならせていただきますわ と

いってから はちかづきは いきなり おびを ほどきはじめました。

 

ちょ ちょっ ちょっとまってよはっちゃん と えんげきぶが

おびをはずして かたはだを さらしはじめた はちかづきを とめました。

ゆるんだえりから おおきくさらけだされた

かたから ゆたかなむなもとへといたる きょくせんを かくしてやって

こんなところでぬいじゃだめでしょー と さけびました。

すると はちかづきは とろんとした ひょうじょうで

あらあら これはえんげきぶさま ありがとうございます

わたくしすっかり よってしまい

みなさまに おはずかしいところを おめにかけて しまいました

ですが えんげきぶさまの おかげをもちまして

これいじょうの はじを さらさずに すみましてございます

えんげきぶさまの このごおんは いっしょう わすれません と

ふかぶかと あたまを さげました。

 

いや あたし そんなおおげさなことしてないし と

えんげきぶが いいましたが はちかづきは

いいえ おとぎばなしの とうじょうじんぶつとしては

おうけした ごおんは かならず おかえししないと なりませぬ

では さきほどの えんげきぶさまの おのぞみのとおり

わたくし あなたさまの およめにまいらせて いただきます と いうと

えんげきぶのからだを いきなり だきしめて

てーぶるのうえにと おしたおしました。

 

きゃっ ちょっ だめ やん と いいながら

えんげきぶが なんとかして はちかづきを ふりほどこうと しました。

いまや はちかづきは りょうかたから せなかまで あらわにして

はずかしがらないでくださいませ わたくしたちは すでに

いっしょに おふろにも はいった み

じつは わたくしも まえまえから

えんげきぶさまのことを おしたいもうしあげていたのですよ と

えんげきぶの くびすじに その くちびるを はわせながら いいました。

からみあう ふたりの あしの きもののすそが みだれ

はちかづきの まっしろな ふとももが あらわに なりました。

いつものせんとうで みなれた ふとももの はずなのですが

こうしてみると なんか みてはならないものを みてしまった おもいで

もはや げっこうも そして てんどうも

かたずをのんで みまもるしか できませんでした。

そのうち てんどうの はなのあなから

ひとすじの あかい はなぢが たれて おちました。

おいおめーら こどもがみるもんじゃねえ と おやじさんが さけんで

げっこうたちのことを ひっつかんで ひっこめようと しましたが

そっちよりこっちをなんとかし ひゃっ み みみはだめぇ と

えんげきぶが おやじさんに いったので われにかえり

あわてて どうにか はちかづきを ひきはなしました。

 

ああっ まだ こ これはらでごらいますのに と

なんだか ろれつがまわらなくなってきた はちかづきが いいました。

そのすそと えりもとを なおしてやりながら えんげきぶは

まだ ちょっぴり ほほを そめたままでしたが

まさかこのこが こんな げっこうよりも おさけが のめないなんてね と

あきれたようにして いいました。

い いや こういうのなら まあ と

てんどうが つい くちをすべらせたので

えんげきぶは おもいきり にらみつけました。

 

そのとき

ふいに はちかづきの のどのあたりから

えご おげ お おぐっ と いう

こえとも おととも つかないものが きこえてはじめました。

みなが どうじに はちかづきへ ふりかえりますと

かのじょは あおいかおに あぶらあせを いっぱい うかばせて

かたく くちを くいしばって おりました。

げっ こりゃやばい と おやじさんが いいました。

はやくといれへつれてって と えんげきぶも いいますと

おやじさんがとびだして はちかづきを つれていこうと しました。

けれども それは まにあわず

はちかづきの ほほが おおきく ふくらんだかと おもいますと

まえにたってた おやじさんに むけて

がばっと くちを ひらきました。

 

つぎのしゅんかん

はちかづきの のどの おくから

くろくて かたくて いぼのついた てつのぼうが とびだして

おやじさんの がんめんを ちょくげきしました。

めごっ という にぶい おとを ひびかせて

おやじさんのからだは そのままうしろへ のけぞって たおれました。

 

のこされたみんなのめが はちかづきのはきだしたものに あつまりました。

それが いっすんぼうしの おにの かなぼうと きづいたげっこうは

はちかづきが げっこーじょーれーを しっこうするために

かなぼうや くるまや ひこうきを のみこんでいたのを おもいだして

きぜつしてた おやじさんの えりくびを はんしゃてきに つかむと

あぜんとしている えんげきぶたちに ひとこと にげろとさけんで

みせの でぐちへと かけだしました。

ちょ いきなりなに と えんげきぶが いったので

もういちど いいからにげろ と さけびました。

えんげきぶが てんどうと いっしょに かけだした うしろで

えっ えっ うぐ おご と はちかづきが うめいてました。

 

みせの おもてどをあけて よにんが とびだしたちょくご

にかいのまどを つきやぶって ひこうきの つばさが とびだしました。

どうろにとびだして ころがった げっこうと

それから えんげきぶと てんどうが ふりかえったとき

みせが がらがらと くずれおちていくのが みえたそうです。

 

謹賀新年

 店舗工事のため二月二十一日
 正月休みのため五日から営業いたします。 

ラーメンいわさき 

 

めでたしめでたし。

 

(fin)

(H21.1.4 R.YASUOKA
(Based on comic,
('Moonlight Act'
(by Kazuhiro Fujita)

おことわり:
 本作は藤田和日郎氏作「月光条例」をモチーフとしたフィクションです。
 作中登場する、あるいは想起されるいかなる人物・場所・団体・事件その他も
 実在のものとはまったく無関係です。
 ……てゆーか、原作とも無関係ということにしておいてください。