ぼくのパパのこと

チャーリーぐみ リチャード=ロッケンフィールド

 

ぼくのパパは、だいがくで、

おいしゃさんのせんせいをしています。

とてもやさしいので、ぼくもママもお兄ちゃんも、

みんな、パパが大すきです。

パパも、みんなが大すきだっていいます。

でもパパは、ぼくたちとおなじくらいに

サッカーがとても大すきで、

しあいのときだけは、ひとがかわって、フーリガンになります。

国さいじあいでイングランドがまけると、パパは、すごくおこって、

ドイツのトーアおじちゃんや、ノルウェーのダールおじちゃんと

口げんかになったり、なぐりあいになったりしてました。

それがこわくて、ぼくが小さいころないてしまったので、

いまはパパははんせいして、サッカーのしあいのときは、

ひとりだけで、書さいにこもって見ています。

 

しあいのまえにパパは、ママにみおくられながら、

小がたテレビをもちこんで、書さいにいきます。

「いつもすまないね、メアリ(ママのなまえです)。」

とパパがいいますと、するとママは、

「いいのよ、あなたのたのしみなんだから。イングランドかつといいわね。」

といって、パパにキスをします。

それからママは、書さいのドアをしめて、

パパがこうふんして、とびだしたりしないように、

外からかぎをかけてとじこめました。

そこでパパは、ひとりぼっちでサッカーを見るのです。

 

ひとりぼっちだと、パパがさみしいかとおもって、

「町にいって、ほかのフーリガンといっしょに見たら。」

と、ぼくは聞きました。

すると、パパは、

「ずっとまえの大かいを、ロンドンのパブでかんせんしたら、

かったうれしさに、みんなでテムズ川にとびこんでしまったんだ。

おかげでなんにんか、おぼれじんでしまってね、

けいさつや、ルシールせんせいにいっぱいちゅういされたから、

だからパパは、外でサッカーは見ないことにしてるんだよ。」

といって、はずかしそうにあたまをかきました。

だからパパは、いえでひとりでサッカーを見るのだそうです。

 

ぼくとお兄ちゃんとママは、リビングでいっしょに見て、

みんなで、イングランドをおうえんします。

パパといっしょじゃなくてさみしいけど、

でも、書さいから、パパのこえが、

いけーとか、やったーとか、同てんゴーーーーールとかいうこえが

すごく大きくきこえてくるので、

なんだか、パパがとなりで見ているようなきがします。

でも、ときどきテレビのおとのじゃまになるのが、

ちょっといやだとおもいます。

 

イングランドがまけると、

ママは、ぼくとお兄ちゃんに耳せんをくれます。

ひとばんじゅうパパのさけびごえがうるさいので、

耳せんがないと、ねむれないからです。

でも、耳せんをしていても、

パパが、ドアやかべをどんどんたたくおとが、うるさいです。

パパが、まるでダールおじちゃんみたいに、

うおーとか、がおーとか、おのれアルゼンチンめーとかさけぶのが、

はじめはちょっとこわかったですけど、

ママがいっしょにねてくれるから、いまはもうなれて、へいきです。

それに、パパがひとばんじゅうさけんでくれるおかげで、

のらいぬやどろぼうが、おびえてちかよらなくなったと、

きんじょのひとたちもよろこんでくれるので、うれしいです。 

 

パパがおやすみといってくれないのが、ほんとはさみしいけど、

かわりにママが、ぼくたちをきゅっとだきしめてくれるから、

とってもいいにおいがして、いいきぶんになります。

パパがおちつくまでのあいだ、2かか3かくらい、

ママはそうやって、いっしょにねてくれます。

お兄ちゃんは、もう大きいから、はずかしがってるけど、

ぼくは、ママにきゅってしてもらえるのがうれしいから

イングランドがまけて、よかったなって、ちょっとおもいました。

 

でも、イングランドがかつと、もっとうれしいです。

しあいがおわると、ぼくとママとお兄ちゃんは、

大いそぎで書さいにいって、

かぎをはずして、ドアをあけます。

すると、なかでパパは、大きなへんな人ぎょうと、

ダンスをおどって、大よろこびしています。

ぼくたちにきづくと、パパは、

かおいっぱいにかいたイングランドのはたを、ごしごしふきとってから、

「やったよメアリ、PKせんをせいしたよ!」とかいって、

力いっぱいママをだきしめて、キスをします。

それからこんどは、ぼくと、お兄ちゃんをだきしめて、

「かったかったよ、イングランドさいこう!」っていって、

キスしてくれたり、ほおずりしたりします。

パパがほおずりすると、パパのかおのはたのペイントのあとが、

ぼくのほっぺにひっついて、ちょっといやです。

でも、パパがとても大よろこびなので、

なんだか、ぼくたちもうれしくなります。

 

それに、ごきげんになったパパは、

ぼくたちにいっぱいほしいものをかってくれます。

お兄ちゃんは、じてんしゃを3だいと、

サッカーボールを4こかってもらいました。

ぼくは、くまさんのぬいぐるみを10ぴきかってもらいました。

ママは、「いらないのに。」っていったけど、

ダイヤのゆびわや、たかいようふくを、いっぱいかってもらいました。

だけどママは、パパになにかをかってもらうよりも、

パパがいっぱいキスしてくれるのが

どんなものよりも、すっごくうれしいみたいです。

 

だからぼくは、やさしいパパが大すきです。

ママもお兄ちゃんも、パパが大すきです。

 

だから、ぼくも大人になったら、

パパみたいなフーリガンになりたいな、とおもいました。

だけども、ママは、

ぼくがそういったら、すごくおこって、

ぼくのおしりをいっぱいたたきました。

おしりがとてもいたかったです。

 

おわり

(2000年6月第3日曜日
(父の日参観授業の作文発表より)

 

(H14.6.11_R.YASUOKA
(Based on comic,
('Le Cirque de KARAKURI',
(by Kazuhiro Fujita)

 

おことわり:
 本作はフィクションです。
 登場する、あるいは想起されるいかなる人物・団体・作品・事件及び英国紳士も、実在のものとはいっさい無関係です。