看護婦「加藤さーん、加藤鳴海さーん」

患者「はい」

看護婦「あちらの5番の診察室にお入りください」

 

からくりサーカスオリジナルストーリー
【サハラだョ! 全員集合】より
もしも・・・こんな医者がいたらシリーズ番外編
「もしも……った医者がいたら

 

患者「(入室し)失礼しまーす」

 

(無人の診察室。患者、あたりをうかがう。

(患者、傍らの閉じられた仕切カーテンに気づく。

(おそるおそる開くと、中にいたのは

(ベッドの上で半裸白衣羽織ったギイ=クリストフ=レッシュ、
全裸女性二人を従えワイングラスを傾けている)

 

医者「……さだめし僕は、生に倦んだバラードを唄うあるるかん……
(患者に気づいてベッドから起きつつ)そして
道化を邪魔するものは、いかなる愚者

患者「愚者じゃねえ、患者! 患者だよ!」

医者「なんだ患者か……」

患者「そうだよ(椅子にかける)」

医者「その患者が、僕に何の用だ」

患者「決まってんだろ、診察だよ診察!」

医者「え? 診察って

 

 

……おまえ、バカは治らんぞ」

患者「誰がバカだと!」

医者「シェイクスピア曰く、『バカにつける薬はなし』と
……んー、違ったかな」

患者「ヒトのハナシを聞けよ!
……あああ、ますますクラクラしてきやがったじゃねぇか」

医者「どうしたナルミ、なんだか具合が悪いようだが」

患者「……だから来たんだろーが……

医者「本当に病気だったのか。
珍しいな、健康だけが唯一とりえのおまえが」

患者「ああ、なんか貧血みてぇでよぅ……」

医者「手遅れだな」

患者「なっ……!」

医者「保って三ヶ月」

患者「ウソつけ、てめー!
 だいたいロクに診もしてねーじゃねぇかよ!」

医者「わかったわかった、それじゃ脈でも見てやろう」

 

(医者、患者の左手首をつかみ、腕時計を見ながら脈をはかる)

 

医者「……脈がないな……(そのまま時計を見て)10時12分、ご臨終だ

患者「こらおいギイっ、
オレは生きてんだろーが!」

医者「こら、
素人が勝手な見立てをするものじゃない」

患者「ふざけんな! 生きてるっつってんだろーが」

医者「生きてる……? おかしいな、だって脈が」

患者「こっちは義手! なんてもともとねーよ

医者「あ、そうか。これは気がつかなかった……」

患者「おめーがつけた腕だろが!」

医者「冗談だ。(今度は右手首をつかみ)正常だな……つまらん」

患者「つまらんって、
どういう意味だよ」

医者「いやいや、お前のことだから
三三七拍子くらいで脈打ってるかと期待したのだが……案外普通なものだな」

患者「んなワケねーだろ!」

医者「悪かった、なにぶん獣医は専門外のことでな」

患者「てめぇっ、いい加減にしろよ!」

 

(患者、医者を殴り倒す。

(医者、派手なアクションで床に転げる)

 

患者「しまった!(医者を抱き起こして)加減しねぇでやっちまった……
おいギイ、しっかりしろ!

医者「……マ、ママン……」

患者「大丈夫かよっ!」

医者「(独語)……ママン……恩知らずがいるよ〜……。
これから病気を治してやろうというのに、
軽いエスプリも理解できないで暴力を振るう、
恩知らずの
チョンマゲイノシシマンがいるよ……」

患者「……誰がイノシシマンだよ!?……お、おいギイ……? 」

医者「こほこほ……ああ、血だ……
うう、医者の不養生とはよく言ったものだ。
病魔にむしばまれた体に
鞭打って治療に尽くすこの善良なる僕に、
イノシシマンが暴力を振るうよ〜



……ふっ。でもいいのさ……





このギイ・クリストフ・レッシュの、
病魔に立ち向かう
清廉天才医師ギイ・クリストフ・レッシュの高潔な使命感と清らかな魂は、
相手がどんな野蛮人であろうとも、
けしてくじけはしないのさ。
……いつかはあのチョンマゲも、きっとわかってくれるよね。ママン……」

患者「あーっ、
わかったよ!
 悪かった!
 オレが悪かったよ! 殴って悪かったな、ギイ……」

医者「(すっくと立ち上がり)反省したらそれでいい。
ほらナルミ、診察してやるからありがたく思えよ……
まぁ僕寛容だから、
べつに涙を流してひざまずいて己の粗暴と不明を詫びろとまでは言わないがな」

患者「てめえ……」

医者「次は体温でも測ろうか。ほら(体温計を渡して)口にくわえろ」

 

(患者、不承不承ながらもおとなしく、体温計をくわえる。

(ノックとともに看護婦、ドアから顔をのぞかせる)

 

看護婦「アノ先生……
ドラムの直腸検温用の体温計、知りマせんか?」

医者「ああすまない、いま使ってる」

 

(患者、くわえた体温計をブーと噴き出す)

 

医者「(患者に)汚いなぁナルミ。お食事中の読者もいるんだぞ、そんなことだとPTAに嫌われ……」

患者「どっち汚ねーんだよ!
 それはこっちのセリフだろっ」

医者「まあまあ。カッカしてると貧血によくない。少しはおとなしくしたらどうだ」

患者「誰のせいだと思ってるんだよ! マジメに診ろよ!」

医者「わかったわかった。体温はいいから今度は舌を見よう。ほら、ベロを出せ」

 

(患者、舌を出す)

 

医者「うん……特に問題はないな。次はシャツをまくって」

 

(患者、シャツをまくる)

 

医者「静かに息を吸って……触診も……大丈夫だな。シャツを戻して」

 

(患者、シャツを戻す)

 

医者「四肢の様子は……ナルミ、手首を軽く振ってみろ」

 

(患者、手首を軽く振る)

 

医者「立って軽く屈伸してみな」

 

(患者、軽く屈伸する)

 

医者「今度は腕立てだ」

 

(患者、腕立てする)

 

医者「椅子の上に立ってみろ」

 

(患者、椅子に乗って立つ)

 

医者「そこから飛び降りて」

 

(患者、椅子から飛び降りる)

 

医者「もう一度だ。もっと、仮■ライダーみたいにかっこよく」

 

(患者、椅子からかっこよく飛び降りる)

 

医者「もう一度椅子に乗って」

 

(患者、もう一度椅子に乗る)

 

医者「立ったままシャツをまくって。へそを出してみろ」

 

(患者、立ったままシャツをまくる)

 

医者「よし。そのまま腹踊りを踊れ」

 

(患者、そのまま腹踊りを

 

患者「おいちょっと待て! なんでオレが腹踊りをしなくちゃなんねーんだよ!」

医者「大事診察だよ、黙って踊るんだ」

患者「ふざけんなっ、もうダマされねぇぞ!」

医者「失敬だな、ウソだと……

 

 

 

 

 

 

 

そうか。さすがに……バレるよな」

患者「やっぱりそうかぁ! てめー、よくもヒトを……!」

医者「あははは。いくらなんでも途中で気がつくかと思ったんだが。これだけ遊べたのはイワノフ以来……お、どうしたナルミ? 顔色が悪いぞ、病気か?……そうか、だから診察に来てるんだよな。うっかりした♪」

患者「あああああチキショウめアタマに血が……もぉ限界だ……

 

(患者、倒れる)

 

医者「しっかりするんだナルミ、しっかり!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……(時計を見て)10時32分、
ダメ
こりゃ

患者「おめーが言うなぁっ!!」

 

(fin)

(H13.9.26_R.YASUOKA)

おことわり:
本作はフィクションです。
登場する、あるいは想起される人物・団体・作品・ギャグはすべて架空で、実在のものとはまったく無関係です。


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