月光条例オリジナルストーリー
「月光条例施行規則
 〜第六編 一休禅師頓知咄〜

 

 

 むかし むかし きょうの みやこに

 いっきゅうさんという とんちこぞうが おりました。

 あるとき いっきゅうさんは あおくひかる つきのひかりに

 むうんすとらっくされたために おかしくなってしまい

 にんげんたちに とんちしょうぶを いどもうと

 ほんのせかいから とびだして しまいました。

 

 まちに あらわれた いっきゅうさんは

 こぞうさんの かっこでは めだつと きづいて きがえました。

 れいぼん とかいう ちゅうごくせいの さんぐらすを かけ

 ぼうずあたまに ぞうりむしのがらの ばんだなを まいて

 さいしんの ひっぷほっぷふぁっしょんに みを かためると

 すっかり みためは とおりすがりの らっぱーで

 だれがみても いっきゅうさんとは わからなく なりました。

 さて まずはだれを とんちで ぎゃふんと いわせてやろうかyoと

 ごびに yoとか ちぇけらとかを つけながら あるいてますと

 ゆくてに らーめん いわさきが みえました。

 いっきゅうさんは その らーめんやが

 げっこーじょーれーしっこうしゃの いえだと しってたので

 それじゃまずは しっこうしゃたちから とんちで

 ぎゃふんと いわせて みせるぜ ちぇけらと いいながら

 みせの いりぐちの とをあけると なかを のぞきました。

 

 すると なかには げっこうと なかまたちが いて

 そのうち げっこうと それからてんどうの ふたりが

 あーうめえと いいながら らーめんを すすって たべてました。

 ふたりが あんまり おいしそうに たべてるので

 いっきゅうさんも なんだか おなかが すいてきて

 まずは らーめんを たべようと みせへ あしを ふみいれました。

 

 ところが はちかづきが いっきゅうさんに むかって

 あら もうしわけございません せっかくですが

 きょうは あたらしいめにゅーを かいはつするため

 りんじきゅうぎょうと させて いただきます

 もうしわけございませんが またの おこしを おまちしてます と

 ふかぶかと あたまをさげて いいました。

 じゃ つまり みせにはいっちゃ いけないのかyo と

 いっきゅうさんが たずねますと

 えんげきぶが そうなのよ ごめんねぼうやと こたえました。

 

 そこで いっきゅうさんは とんちを つかって はいることに しました。

 くるりと みせに せをむけ うしろむきの まま

 あっぷてんぽな むーんうぉーくを きめながら

 みせのなかに はいりました。

 おいおめー と てんどうが いいましたが いっきゅうさんは

 いえ わたしは おみせに はいっては いませんyo

 このとおり せをむけて ちぇけら たちさろうと してたのですが

 どうやら このみせが わたしのことを おいかけて きてしまったのですyo

 と いうと みんな あっけなく いいくるめられて

 しょうがないわね とくべつよ と いって いっきゅうさんを むかえいれました。

 

 いっきゅうさんは みせのなかに はいってから

 げっこうと てんどうが たべていた らーめんを ゆびさすと

 それでは そのらーめんを たのみますyoと いいました。

 すると えんげきぶと はちかづきが くちぐちに

 だめ だめよ ぼうや あのらーめんは どく なんだから

 そうでございます あれを こどもが めしあがると

 いのちに かかわります どうか おやめください と

 ふたりして いっきゅうさんを とめました。

 

 それをきいて げっこうが かおをあげ

 なんだと おれの りきさくの しんめにゅーが

 どくだなんて ひでーこと いってんじゃねえ

 と はんろんしますと てんどうが とめて

 まあまあ たしかに この おれたちが かんがえた

 おりじなる しんさく かれーらーめんは どくかも しれねえ

 そのしょうこに いったん たべだすと

 うまくて うまくて やみつきになっちまう

 おそるべき まりょくを もってるからなと いうと

 あーたまらんぜ このうまさはよと うなりながら すーぷを のみました。

 

 そうだなと うなずいて げっこうは めんを つまんで すすりますと

 う ああ あ だめだ し しぬ しんでしまいそうだ

 おれは おれの りょうりにんとしてのさいのうが こわくて

 おそろしさの あまりに しにそうだと よろめきながら いいました。

 てんどうは どんぶりの つゆを いってきのこらず のみほすと

 おらげっこう もういっぱい おかわりだ と いいました。

 

 いわれて げっこうが ちゅうぼうに いきますと てんどうは

 ああ だめだ もう まちきれねえ

 つぎのがくるまで おめえの らーめんで まにあわせとくか と

 げっこうが たべかけてた らーめんを うばいとりました。

 それに きづいて げっこうは ちゅうぼうから とびだすと

 てめーなにくってんだ と さけびながら

 てんどうの かおに とびひざげりを くらわしました。

 なにしやがんだと てんどうが なぐりかえしたので

 ふたりは らーめんも そっちのけで らんとうを はじめました。

 

 さて いっきゅうさんはと いいますと

 めのまえで ふたりが おいしそうに らーめんを たべたせいで

 ますます おなかがすいて しまったので

 げっこうたちが なぐりあっている そのすきに

 とんちで らーめんを わがものに しようと かんがえついて

 そばにあった からのどんぶりを てにしたかと おもうと

 わざと ゆかに おとして わりました。

 それから えーん えーんと うそなきして

 このおみせの たかそうなおわんを わってしまいましたyo

 だから どくをたべて しんで おわびしますちぇけらと いいながら

 げっこうの らーめんを ひったくりました。

 それに てんどうが きがついて

 あっこら おれのらーめん と とびかかろうと しましたが

 ばか あれはおれのらーめんだと げっこうに おさえられました。

 ふたりが からみあってるうちにと いっきゅうさんは

 のこってた めんやら すーぷやらを いっきに かきこみました。

 

 ところが いっきゅうさんは きゅうに

 かおを あおくしたり あかくしたり しながら

 みみとか くちから けむりを ふいて

 ゆかに そっとうして しまいました。

 いっきに のみこんだはずの らーめんが

 ねばっこく のどのおくに からみついたかと おもうと

 すーぷにしては おもくるしく いような あまったるさが

 したぜんぶに のしかかるように いすわって

 しかも あまみの なかから つきささるような からみが いえ

 からいと いうには きょうれつな しげきが もはや いたみとかして

 いっきゅうさんの のどといわず はなといわずに おそいかかって きたのです。

 こきゅうするたびに はなのおくから はいにかけて

 すっぱいにおいを ともなった やけつくようなあつさが ひろがり

 のうてんまで きりをつらぬいたような いたみが つきあげて

 あせと はなみずと なみだが いっきに あふれだしました。

 

 ああっだいじょうぶですかおきをたしかに

 と さけぶ はちかづきの よこで えんげきぶが

 ほら だからどくっていったじゃないの と あたまを かかえました。

 するとげっこうが なんだよ おれたちの かんがえた

 むーんあんどさんすぺしゃるおりじなるかれーらーめんが どくだってのかよ

(むーんあんどさんとは つまり げっこうとてんどうの ことの ようです)

 かれーのなかに あおとんがらしや わさびや さんしょうとかを いれて

 どくとくの からみを ていすとした よんじゅうばいげきからかれーの

 これのどこがどくだってんだ と もんくを いいました。

 そうだぜまいはにー と てんどうも どうちょうして

 しかも かれーの かくしあじに よーぐるとと りんごと はちみつと

 みるふぃーゆと ゆきみだいふくと ばにらあいすを ぶれんどして

 からとうと あまとうの りょうほうに うける あじにしたのは

 この おれの あいであなんだぜと むねをはって えらそうにいいました。

 

 ばか たこ あんぽんたん

 そんなのたべたら おきゃくさんがしんじゃうでしょー と

 えんげきぶが げっこうの みみを ひねくりながら いいますと

 いて いててて なにすんだ

 おめーのかんがえた さっきの のろいの らーめんよか

 ひゃくばいましじゃねーか いてててて はなせ ぼうりょくおんな

 と げっこうが はんろんしたので えんげきぶは

 しつれいね あたしの さんまーめんのどこが のろいだってのよ

 あ ちょうどいいわ せっかくだから このぼうやに

 だれの おりじなるめにゅーが いちばん おいしいか

 たべくらべて もらいましょうよ と いいながら

 たおれてた いっきゅうさんを ひきおこし せきに つかせました。

 いすにすえられて われにかえった いっきゅうさんは

 あ そろそろ おてらに かえらなくっちゃyo と いったのですが

 それが きこえなかったのか きこえても むししたのか

 えんげきぶは いっきゅうさんが にげないように

 いすのうしろに まわりこみながら りょうりを もちだしました。

 

 じゃ まずは あたしからね じゃんじゃじゃーん

 げんえきじょしこうせいえんげきぶとくせい さんさんまーめんよ

 ふつうの さんまーめんは めんと やさいとかで つくるけど

 あたしのは さかなの さんまを さんびきも

 まるまる つかった もじどおりの さんさんまーめんなのよ

 しかも そざいのふうみを そのまま あじわってもらえるように

 さんまは なまのまま つかってるんだから すごいでしょ

 さあ めしあがれ と じしんたっぷりに さしだした どんぶりには

 ちなまぐさい においを させた さんまの しがいが

 ぶつぎりに なって らーめんに うかべられてました。

 さかなのちと あぶらが すーぷに まざって あかぐろく てりかえり

 にごっためだまが はんとうめいになって いっきゅうさんを にらんでます。

 どうやら まだ しにきれてないのか

 しっぽのさきと せびれとが ぴくり ぴくりと うごいてて

 めんを なみたて どんぶりに はもんを ひろげていました。

 

 いいわすれてましたが いっきゅうさんが うまれた じだいは

 なんぼくちょうの あらそいが まだ おを ひいていて

 せいさんないくさが くりひろげられて あちこちに

 おちむしゃなどの しがいが ころがってたり してたのです。

 それを いっきゅうさんは おもいだしてしまい

 つい われをわすれて ひめいを あげました。

 

 やめやめい よくみろおまえ おきゃくが がたがた ふるえながら

 てをあわせて おきょうみたいなのを となえだしたでは ないか

 こんな ほらーな らーめんなど だしてはならんと

 なんどもいうておるではないか と いっすんぼうしが

 えんげきぶを おしのけて じぶんの りょうりを さしだしました。

 ほれ くちなおしじゃ それがしの じしんさく

 そのなも まーぼーあんにんどうふどん じゃ

 どうじゃ このとおり ごはんのうえに まーぼーどうふと

 あんにんどうふが のっておって

 ごはんと おかずと でざーとが いっしょにあじわえるという

 ちゅうかりょうりのれきしをぬりかえる あらたな すぐれもの なのだ

 そら そのほうも あらたなれきしの たんじょうする しゅんかんに

 たちあわせてやるから ぜひに あじわうがよい と

 どんぶりの ふたをとって いっきゅうさんに むけましたが

 えんげきぶが そんなきもちわるいもん たべさすんじゃないわよ と

 どんぶりのふたを おしかぶせたので いっすんぼうしが おこって

 やかましい さかなもおろせぬ りょうりおんちのくせにと いいますと

 なによしつれいね あたしだって さかなをおろすくらい

 おろしがねさえあれば できるわよ と えんげきぶが はんろんし

 ふたりは いいあらそいを はじめました。

 

 ふたりの さわぎを よそにして つぎは はちかづきが

 いっきゅうさんの まえに あらわれました。

 あ あの わたくしは このとおり かにたまちゃーはんを つくりました

 おかげさまで あじのほうは みなさま おいしいと ほめてくださってます

 ですが げっこうさまや えんげきぶさまが

 あのなあ はちかづき こーゆーのは みためのいんぱくとが だいじなんだよ

 そーよはっちゃん ぱっとみで おきゃくさんを びっくりさせなくっちゃね

 と おおせに なりましたので

 それでわたくし かんがえまして おきゃくさまを おどかすために

 かにということで いきた かにさんを おのせしようと おもいつき

 ですが おさかなやさんには おいてませんでしたので やむなく

 さるかにがっせんの せかいから こがにに おいで いただいたのですが

 どういうわけだか このこは わたくしの いうことしか きかなくて

 さきほども ほうしさまが ああああああ

 いってるそばから こら はなれなさい このかたは おきゃくさまです

 あなたの かたきの にっくきおさるさんでは ありません

 だから そんなふうに あしで めを つついたり

 はさみで くびを ちょんぎろうとしては いけません と

 うろたえながら いっきゅうさんの かおから こがにを ひきはがしました。

 こがにが くびをねらった はさみの いっせんが

 いっきゅうさんの みみもとを あやうく かすめて

 あぶなく みみなしいっきゅうさんに なる ところでした。

 

 だめだだめだ おめーら ぜんぜん なっちゃいねえ と

 てんどうが あきれて くびを ふりますと それから

 おっまだのこってんなと いって いっきゅうさんが たべのこしてた

 あの かれーらーめんの どんぶりを ひきよせました。

 すると げっこうが それをみとがめて

 あっ てめー おれのらーめん と さけぶと

 てんどうに まわしげりを いれた ものですから

 ふたりは また なぐりあいを さいかいしました。

 

 すると とつぜん ふたりを めがけ

 なべやら どんぶりや いろんなものが たいりょうに とんできました。

 よりあいから かえってきた おやじさんが

 みせや ちゅうぼうの さんじょうに きがつくと

 またおめーらか くいものを そまつに すんじゃねえ

 しかも おきゃくさんに くわせやがって

 このみせを えいぎょうていしに するつもりかと げきどして

 そして なぜか げっこうと てんどうの ふたりだけを ねらい

 てあたりしだいに いろんなものを なげつけたのです。

 げっこうは らーゆの ぎょうむよういちりっとるいりぼとる

 てんどうは ぶたの ちょきんばこが それぞれ かおに めいちゅうして

 それぞれ きぜつして ぶったおれました。

 そんなにらーめんがすきなら おめーら らーめんになっちまえ と

 おやじさんが たおれたふたりの あたまから

 ずんどうなべを かぶせて しまいました。

 

 それをみていた はちかづきが ふと おもいだして

 いっきゅうさんの すわっていた せきを ふりかえりますと

 もう そこには かげも かたちも なくて

 いつのまにか いっきゅうさんは すがたを けして しまいました。

 

 さて いっきゅうさんはと いいますと

 あまりの しょっくで むうんすとらっくも とけてしまい

 その くちびるが てんどうみたいに はれあがってしまったまま

 ひーん もう とんちは こりごりだよお と なきながら

 ほんのせかいへ にげかえっていったと いうことです。

 

  * *

 

「……禅師様」

 誰かの呼ぶ声で、一休は我に返った。

 日だまりの中で、うたた寝をしていたらしい。

 全身をほどよい心地よさが包んでいる。

「なにかな」声を掛けた弟子僧を見やり、彼は応えた。

「そろそろ御支度を」

「うむ」

 立ち上がった。

「着替えを」

「いや、このままでよい」

「ですが、今宵は上様も御出座あそばしま……」

「さよう、相手はたかだか将軍じゃ。これでよい」

 伸びをする。

 そして、云った。「小僧の頃の夢を、見ておったわ」

「は? 子供の頃の……ですか」

「そうじゃ。頓知小僧と呼ばれておったころのな」

 弟子僧は黙してうなずき、それから、首をもたげて訊ねた。

「実は上様から、禅師様に頓知勝負を挑みたいとの御言伝がありまして」

 一休は、少し考えた。

 体があたたかい。

 汗が、一筋、流れた。

 そして、応えた。「もう、よいわ」

「えっ?」

「頓知はもうよい。この一休宗純、今は一介の糞坊主に過ぎぬからの」

 彼は呵呵と笑った。

 

  * *

 

 たぶんきっと ひとは こうやって

 おとなに なっていくもの なのでしょう。

 だからまあ ここは とにかく、

 めでたし めでたし。

 

(fin)

 

(H21.11.15_R.YASUOKA
(Based_on_Comic,
('MoonLight Act'
(By_Kazuhiro_Fujita)

 

おことわり:
本作は藤田和日郎原作「月光条例」を基にしたフィクションです。
登場する、あるいは想起される一切の人物・団体・事件その他は実在の物と無関係です。