月光条例オリジナルストーリー
「月光条例施行規則〜第一編 瘤取〜

 

むかしむかし あるところに てんどうという

くちびるの ぶあつい ばんちょうが すんでました。

 

てんどうは たいそうな すぴーどきょうで

まいばん くるまやばいくで でかけては

まるで いにしゃるでーのように かっこよく はしり

ときには ぱとかーから すぴーどいはんや

ちょさくけんいはんなどで おわれるのを ふりきって

すりるに あふれた まいにちを すごしてました。

 

あるひ てんどうは やまへ はしりにでかけました。

ぎゃらりーの まえで とうげのみちを せめて

ふふっ なんぴとたりとも おれのまえは はしらせねえぜ と

またひとつ ちょさくけんに いはん していたら 

とつぜん みちの うしろから おおきな かぼちゃの ばしゃが

ぶぶぶうー がたがたがた ききききき と はしってきました。

 

てんどうは おどろき あくせるを ふかしましたが

ばしゃは あっというまに てんどうを ぬかし

おいこしざまに ばしゃにのっていた しんでれらが

てんどうの くるまの えんじんを たたきこわしました。

 

くるまは こんとろーるを うしなって

そくへきに ぶつかって たちまち うごかなくなりました。

てんどうはというと しょっくで くるまから ふっとび

やまのなかへと なげだされ きぜつして しまいました。

 

それから しばらく じかんがたって

てんどうは もりのなかで めを さましました。

そこは みぎも ひだりも わからない ふかいもりでした。

てあしや こしに うちみが ありましたが

きたえかたが ちがうので おおきなけがは ありません。

てんどうは あてもなく もりを さまよいますと

おくのほうに あかりが ともっているのが みえました。

やった きゅうじょたいがきたな らっきー と はしりますと

そこには たきびをかこんで おにたちが すわっていました。

あかおにや くろおにや あおおにが いっぱいいました。

 

うげっ なんじゃこりゃーと てんどうが のけぞりますと

そのこえに きづいて おにたちが よってきました。

てんどうをかこみながら おにたちは くちぐちに

おお げっこうじょうれいの しっこうしゃさまじゃ

わしらをたすけに きて くださったのじゃ

ありがたやありがたや などと はなしかけてきました。

 

もう よいこの どくしゃの みんなには

わかったと おもうけど この おにたちは

こぶとりじいさんの はなしにでてくる おにたちです。

 

どうして おにたちが こんなところに いるかというと

ほんのせかいの じいさんが むうんすとらっくされて

こぶとりが おおぶとりに なってしまい

だいえっとに ねっちゅうし ひきこもって しまったのです。

 

そればかりではなく おにたちに めいれいし

××××× や ×××××××の ような

よみてのせかいの つうはんばんぐみに でてた

さまざまな だいえっとしょうひんを かってこい

さもなければ となりのせかいの ももたろうを よんできて

いっぴきのこらず おにたいじをしてやるじゃ と おどすので

こまって そとへ にげてきて

ここで げんじつとうひに えんかいを ひらいてたのです。

 

そういうじじょうを おにたちは せつめいしましたが

てんどうは げっこうじょうれいとか しらないので

まったく りかい できませんでした。

だから てんどうは おにたちに むかって うるせえてめえら

げっこうじょうれいだか べっこうあめちょうだいだか しらねーが

おれには なんの かんけいも ねえんだよと いいました。

 

そういわれて おにたちは まじまじと てんどうを みて

あっ ほんとだ

かおつきが きょうあくなので しっこうしゃさまと まちがえた

だいたい よく かんがえてみると

しっこうしゃさまには ほんのせかいの ししゃの

はちかづきひめちゃんが ついてるはずでは ないか

そうじゃった こんな おんなにえんの なさそうな かおを

あの きゅーとな はちかづきひめちゃんが

しっこうしゃさまに えらぶ わけなど ないわ

それにしても はちかづきちゃんは ほんに かわいいのう

うーん まじで はちかづきもえじゃのう

える おー ぶい いー はちかづき いえい と

みんなで いっせいに はやしたてました。

 

ふざけるなこのやろうと てんどうが かえろうと すると

おにたちが それを ひきとめて

まあまあ せっかくきたんじゃから ゆっくりしてけ

ここで わしらと いっしょに たきびを かこみ

げんじつとうひをして さかもりしようじゃないかと いいました。

どうせ そのかおで おんなに もてなくて

いやけがさして にげて きたんじゃろう きのどくにのう と

さけをのみながら おには おいおい なきだしました。

 

し し しつれいな ふざけんじゃねえ

おれには えんげきぶという すてきな はにーが と いいかけて

その えんげきぶに すてられたと いう

かなしく つらい かこを おもいだしてしまい

てんどうは ぶあついくちびるを かみしめて

そのばに うずくまって しまいました。

 

すまぬすまぬ じょうだんじゃ

よなかに やまのなかを うろつくのは きけんなので

よが あけるまで ここで ゆるりと やすまれると いいぞと

おにの ちょうろうらしいのが いったので

なるほどと おもって とりあえず てんどうは なみだを ぬぐい

たきびをかこむ おにたちのわに くわわりました。

 

すぐに てんどうは おにたちと うちとけました。

きょうあくな かおどうしで たちまち わかりあえたのです。

おには しきりに てんどうに おさけを すすめたのですが

てんどうは まだ みせいねんだからと ことわりました。

このあたりは しょうねんしらしい きくばりを しないと

あとで いろいろ もんだいに なるからです。

 

おにたちは いがいそうな かおをして

えっそのかおでこうこうせいと ひそかに つぶやきながら

それでは まあ せっかくきたんじゃから

なにか おどりをおどってくれんかな

こぶとりじいさんみたく うまく おどってくれたならば

その かおについてるこぶを とってやろうじゃないか と

てんどうの ぶあついくちびるを ゆびさして いいました。

 

ふざけんなこれはこぶなんかじゃねえぞ と おこってから

てんどうは ふと きづくと おにに むかって

おい おまえ いま これをとると いったのか と ききました。

そうじゃと おにたちは うなずいて

どうやら にんげんは かおに ちえのふくろを もってるようじゃ

それが おどりのさいのうの つまった ふくろなら

わしらも ぜひとも ほしいからのう と こたえました。

 

きいて おもわず てんどうは くちびるを なでました。

この ぶあついくちびるが ひとなみていどに なって

じぶんの わいるどな みりょくに みがきがかかり

そのけっか えんげきぶ はじめ おんなが めろめろになって

じぶんに よりあつまってくるようすを そうぞうしたのです。

よしわかった いまからおどってやるから はやくくちびるをとれ と

てんどうは にたにたしながら たちあがりました。

わおー まってました と おにたちは

てを たたきながら はやしたてました。

 

そして てんどうは おどりました。

ところが てんどうは はしりや けんかは すごくても

おどる さいのうは まったく ありませんでした。

なんだか まるで えちぜんくらげが らじおたいそうしてる みたいで

おにたちは たちまち しらけて しまいました。

 

やめろやめろ このへたくそめ

それじゃ よくばりじいさんの おどりいかじゃないか

と おにが いったので てんどうは

ちょ ちょっとまってくれ いきなりなんで きんちょうしたんだ

じゅっぷんほど れんしゅうじかんを くれないか と

くいさがりましたが おにたちは きかないで

おまえのような へたくそには この

となりのせかいの うるせいやつらの ほんから もってきた

くちびるばんちょうの くちびるを くっつけてやる それ と

てんどうを おさえつけ かれの ぶあつい くちびるに

もっと ぶあつい くちびるを くっつけました。

ちなみに くちびるどうしの ぷににちゃっとした かんしょくは

てんどうにとって ふぁーすと きす でした。

そして てんどうの くちびるは

もともとの さんばいくらいに ふくれあがって しまいましたとさ。

 

めでたし めでたし。

 

     *          *

 

首筋が、冷たい。

全身が、汗に濡れているのがわかった。

ベッドの上で上半身を起こし、天道は息をついた。

動悸が、まだ早い。

寝具も寝巻も、自宅のものではない。

体に巻かれた包帯。

電気を消された広い部屋には、いくつものベッドが並んでいる。

病院か。

腕と脚に痛みを感じた。

と同時に、彼は急に両掌で顔をまさぐる。

唇。

何度も、何度も撫でる。

鏡を探した。

ベッドの脇の手鏡を取る。

暗さに眼が慣れるまで、呼吸ができなかった。

窓の向こうの仄かな灯りに照らされて、
そこに、見慣れた自分の顔がある。

深呼吸。

起こした上体を戻し、ベッドに四肢を投げ出す。

額を拭う。

そして、やっと口にした。

「……夢に決まってんだろが」

この、天道が。

手にしたままの鏡を、放るように戻す。

狙いが外れ、床に落ちる。

割れたか、と思い、床を覗き込んだ。

腕を、床上に伸ばす。

指先が何かに触れた。掴む。

手鏡の感触ではなかった。

一冊の、本。

ベッドに引きあげると、

それが、子どもの絵本というのがわかった。

こぶとりじいさん。

タイトルの下には、おどる老人と鬼たちがかかれている。

そのかたすみに、一匹だけ、おどらずに立っている鬼がいた。

外の光に本をかざす。

見まちがいではなかった。

鬼は、たしかに、天道を、つめていた。

その手には、何 にくのかたまりを にぎっている。

ると、

本から にゅーっと てが てきて

その ゆびさきが んどうの くちびるに ふれました。

どう ぎゃあああっと ひめを あげて

ほんを おもいきり なげつけたと いうそうです。

 

     *          *

 

それからと いうもの てんどうは ひまさえ あれば

おどりの れんしゅうを するように なりました。

こうえんや えきまえとかで すとりーとだんすを おどるうち

もう すっかり ひっぷほっぷそだちに なってしまい

ときには ごびに Yoをつけて しゃべるように なりました。

げっこうや えんげきぶが ぶきみにおもって わけを たずねても

なんにも こたえずに ただ おどりました。

いっしょうけんめい がんばった その おかげで

ちょっとは うまく おどれるように なったと いうことです。

 

めでたし めでたし。 

 

 

(fin)

 

(H20.7.27_R.YASUOKA
(Besed_on_Comic
('Moonlight Act'
(by_Kazuhiro_Fujita)

 

おことわり:
 本作は藤田和日郎原作「月光条例」に着想したフィクションです。
 文中登場する、あるいは想起されるいかなる人物、団体、事件、作品、ダイエット用品その他も、
 実在のものとはまったく無関係です。

 

 

 

 


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