こりゃどーも、あたしは阿紫花英良と申しやす。

 あ〜っ!・・・誰です、あたしが喋りはじめるからって「あ〜あ、またアダルトかよ」なんてため息ついてなさんのは? いえね・・・それならばと思いやして今日は、心がなごむおとぎ話なんぞをしてみやしょうね。

 

てなわけで、

からくりサーカスオリジナルストーリー

「おとぎ話をいたしやしょう」

 

 ええと、昔々のことでした。

 ある所に、銀色の髪の毛をしたそれはそれはべっぴんな娘さんがおりやした。

 ところがそのべっぴんさんはと言いやすと、幼い頃に両親を亡くしやして・・・可哀想に、意地悪な兄3人の継母に毎日のようにいじめられていたそうなんです。・・・ほら、今日も厳しい継母たちに叱られてるみたいですぜ。

 「手首が固い! 何度言ったらわかるのよ」

 「ふんっ、本当におまえは人形繰りが下手だな。ぼくのオリンピアに比べたら・・・」

 「いいですか、お前はエレオノールという名前を捨てなければならないのです」

 そうなんです。べっぴんさんは、本当の名前をエレオノールというんですが、意地悪な兄と継母たちは、けしてその名前で呼ぼうとはしやせん。べっぴんさんはいつも暖炉の脇で寝かされていたもんですから、灰かぶり・・・つまりシンデレラと呼ばれていたんです。

 毎日いじめられていても、シンデレラは心根がとっても優しかったので、けしてくじけたりはしやせんでした。つらいときにはいつも、大事にしていた人形のあるるかんを抱きしめて、いつか幸せになれる日を夢見ていたそうでした。・・・ですがね、大きな声じゃいえねえんですが・・・やっぱいじめられている影響は強くて、ちょっと性格が暗くなってるようなんですが・・・いえ、ひとりごとです。

 ある日、お城の王様から舞踏会のお触れが届きやした。美男と評判の王子様も出席なさるってことで、継母たちと意地悪な兄は大喜びで出かけて行ったんですが、シンデレラはたったひとりで留守番を命じられやした。かわいそうに、ひとりぼっちで水くみをさせられることになったんで、重い水桶を抱えて、井戸と家との往復です。

 なにしろ寒い夜中のこってす。吐く息は白く、手足はかじかんで動かなくなりやす。我慢ができなくなったシンデレラは、町で売るようにと持たされていたマッチに火をつけやした。すると、火は家に燃え移って、あたりはたちまち火の海に・・・すんません、間違えやした・・・すると、あーら不思議なことにマッチの火の中に、大好きだったおじいさんの姿が浮かんできたじゃありやせんか。

 シンデレラは自分の目を疑い、それから信じられねえようにこう叫んだのです「まあ・・・ジャン=バルジャンおじさま!」

 「おお、コゼットよ・・・違う! 私はおじいさんだ」火の中に浮かび上がったおじいさんは答えやした。「かわいそうなシンデレラよ・・・まるで、人形のようにされてしまったのだね」

 それからおじいさんは、重々しくこう告げたのでした。「いいかい・・・人間になりたかったら、日本に行って勝という子を守ってごらん・・・あれ?

 ・・・すいやせん、また間違えやした。

 それからおじいさんは、重々しくこう告げたのでした。「いいかい・・・幸せになりたかったら、お城の舞踏会に行って王子様のハートをゲットしてごらん」

 「え、そんな・・・私のようにみすぼらしい姿の女が・・・舞踏会だなんて」と、悲しそうにシンデレラはうつむいたのです。

 ところが、おじいさんはにっこり笑ってこう言いやした。「それではシンデレラ、今から私が魔法をかけてあげよう」

 それからおじいさんが呪文を唱えやすと、不思議なことがおこりやした。

 家にあったカボチャが立派な馬車になり、床をちょろちょろ走り回っていたネズミやトカゲが、御者と馬とに次々にかわったいったのです。

 ネズミが変身したかわいい坊や・・・いえ御者がうやうやしくお辞儀をしやした。「ねえ、しろが・・・いえ、シンデレラ姫様。私たちがお城(あ、お城といっても秘密のお城とか、国道沿いにある駐車場付きのお城じゃありやせんぜ・・・一応)へお連れしましょう」

 「すみませんお坊ちゃま。こんな役柄で」シンデレラが答えます。

 「それから、おまえはこのドレスに着替えなさい」おじいさんが、シンデレラにいいやした。「これは、愚か者には見ることのできない、最高級の生地でできているのだよ」

 「せっかくですけど・・・」シンデレラは丁重に断りやした。「それではハザマやマスムラに丸見えになってしまいますわ」

 「・・・それも、そうだな」おじいさんは考え直すと、普通のドレスをシンデレラに着せることにしやした。それでも、絹製の最高級のドレスにはかわりありやせん。そのドレスを身につけたシンデレラは、まばゆいばかりの美しさになりやした。もう、どこかの国のお姫様といってもおかしくありやせん。

 「そうだ、忘れていた」おじいさんは、びっくりしているシンデレラにこう告げたのです。「この魔法は夜中の12時を過ぎると解けてしまうから、早く帰って来るんだよ

 「ありがとうございます、おじいさま」と、シンデレラがお礼をいいやす。

 「ところで・・・おじいちゃん」御者がおそるおそるたずねました。「マッチの火から現れた割には、ずいぶん長いこといられるんだねぇ。どうして?」

 「い・・・いいから、はやく行きなさい!」おじいさんは、シンデレラたちをけしかけました。「そうだ・・・ガラスの靴を忘れるなよ」

 そして、シンデレラはお城に出発しようとしやした。ですが、馬車馬にしたトカゲが反抗的な性格でして、ハナクソをほじりながらいっこうに動こうとはしやせんでした。

 「ふん・・・あたしゃ猛獣研究の第一人者だよ。どうしてこんなシロートどもを乗せなきゃならないのかね」

 仕方がないので、シンデレラは馬のかわりにあるるかんを操って、御者と一緒にお城へと向かったのでした。・・・もちろん、生意気な馬がレザア・マシオウの洗礼を浴びたのはいうまでもありやせんでしたが。

 さてそのころ、お城ではといいやすと・・・。

 お城では、舞踏会のまっ最中でした。年老いたゼンジロー王と、その孫で14歳のミンハイ王子とが、招いた人々と踊っていやした。

 「みてみてマリー、ハンサムよね。ミンハイ王子さま」

 「ほ〜んと、あたしも200年ほど若かったら、アタックかけるんだけどなぁ」

 「あらルシール。あんた・・・亭主子供はどうするつもりよ」

 「決まってるじゃないの、そんなのポイよ、ポイ!」

 3人の継母はうっとりしながら口々に言っておりやす。それが面白くねえんでしょうか、意地悪な兄は「なんだよ、ぼくの方が美しいに決まってる。ねえ、ママン・・・」と愚痴りながらワインを飲んでやした。さすがにお城のワインは一級品ばかりだったんで、意地悪な兄も文句のつけようがありやせんでしたが。

 ところが実は、この王子様にはちょっとした悩み事がありやして、幼い頃に魔女に呪いをかけられて、生まれてから一度もひとを笑わせたことがねえんです。道化王とまで呼ばれた王様は心配して、王子様に笑いの英才教育を施そうとしやしたが、王子様はかえって反発して、中国拳法にのめり込んでしまう始末でした。

 しだいに凶悪な人相にと変わっていく王子様が心配で、とうとう王様は、王子様に笑わされた者には莫大な褒美を与えるとまで宣言いたしておりやした。・・・う〜ん、いくらだったんでしょうかねェ。10億よか多いのかな?

 そんなわけでしたんで、その日お城に行ってた意地悪な兄と3人の継母も、王子様に笑わされようとしてやした。

 「フッ・・・なーに、バカをあざ笑うくらい造作もないよ

 そういって意地悪な兄は勇んで挑戦しやしたが・・・確かに王子はバカですが(いえっ、あたしがいうんじゃなくって・・・そういう風に書いてあるんですよ。このお話に)呪いのせいでしょうか、王子様が笑わせようと芸をはじめると、あまりのくだらなさに誰も笑うことができなくなってしまうのでした。

 「芸もあれだけつまらんと、かえって芸術的だな。まあ・・・ぼくの方が美しいんだから、仕方がないな」と、負け惜しみをぶつぶつ言いながら意地悪な兄は戻ってきやした。戻ってきた意地悪な兄は、それから自分のペンダントにこう語りかかけたのです。「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのはだーれだ?」

 「はい、それは・・・」ところが、意地悪な兄に訊ねられたペンダントは、こう答えたのでした。「・・・シンデレラ姫です

 そのときです、お城に一人の美しい姫が現れやしたのは・・・銀色の瞳と髪、いわずとしれたシンデレラでした。

 シンデレラのあまりの美しさに、お城にいた人々は目を奪われたんです。意地悪な兄と3人の継母たちも、自分たちが小間使い同様に扱ってきたシンデレラの変わりように、それはそれはびっくりしてやした。

 王子様はシンデレラを見て、その美しさに一目惚れでもしちまったんでしょうかねえ・・・つかつかと歩み寄ってったんですが、いかんせん今まで武道一筋だったもんですから、うまい口説き言葉が浮かんできません。顔いっぱいに汗を浮かばせながら、結局シンデレラに一言、こう言ったそうなんです。

 「お前は、オレの女になる」

 ったく・・・、ストレートにもほどってもんがありやすぜ、兄さん。あたしだったら、いつもの手でまたたく間にたらし込んで・・・おっと、今日はおとぎ話、おとぎ話・・・と。

 ともかく・・・えっと、何話してたんでしたっけ?・・・そうそう。王子が口説いたとこでしたっけね。シンデレラ姫はあまりの直接的なアプローチに一瞬言葉をなくしてしまいましたが、それでも相手が王子様だということを思い出して、こう答えやした。

 「笑えないな」

 すると・・・不思議なことにも、シンデレラの美しさのせいか、それとも彼女の言葉がキーワードにでもなってたんでしょうか。王子にかけられていた呪いがきれいさっぱり解けてしまったんです。まあ・・・王子にギャグセンスがないのは元からだったんですが、それでも周りの人が彼を笑ってくれるようになってくれやした。呪いから解放された王子様はそれは喜んで、シンデレラと一緒にダンスを踊りはじめやした。

 さて、面白くないのは意地悪な兄と3人の継母たちでした。特に、ママンのペンダントにまで冷たくされた意地悪な兄は、なんとかシンデレラの妨害をしようと一計を案じまして、果物売りに化けて毒入りのリンゴを食べさせようとしました。踊り疲れて(だって、乱暴ですからねェ・・・兄さん)くつろいでいるシンデレラに声をかけました。

 「あー、ちょっとちょっと!」

 「あら、なんでしょうか?」

 「踊ってばかりじゃ体によくないから、リンゴでも食べて一休みしたまえ。・・・美容にもいいぞ、ぼくみたいに美しくなれるからな」

 シンデレラは、美容はともかくとして(自分はもう充分に美しいと思ってたんでしょうかね)、ちょっと小腹が空いていやしたんで、喜んで果物売りからリンゴをもらい、がりりとかじりやした。

 すると、リンゴの毒はあっという間に体に回りやして、シンデレラはうーんと一声うめくとその場に倒れ、死んでしまいやしたとさ。

 めでたし、めでたし・・・

 

 

 

 

 

 

 

 あ、すいやせん! 冗談ですってば。

 さて、ほくそ笑む意地悪な兄と継母たちをよそに、お城は大騒ぎになってしまいやした。お城の外でシンデレラを待っていやした坊や・・・もとい御者さんは、城の様子がおかしいことに気がついて、こっそりと中に入り込みやした。舞踏会の行われていた大広間に向かいやすと、シンデレラがガラスの棺桶に入れられて、悲しみに暮れる人々に取り囲まれてました。びっくりした御者は、たまたま近くにいた7人のこびとにたずねやした。

 「ねえねえ! しろが・・・違ったシンデレラさん、どうしちゃったの!?」

 「うわあああ! しろがねさんが、死んじゃったよォ〜

 「ばかっ・・・ヒロ! しろがねさんじゃなくてシンデレラ姫だろうが・・・ううっ!」

 「ええっ!」御者はびっくりして、棺桶によこたわるシンデレラをのぞき込みやした。

 まるで眠っているようなシンデレラの顔は、死んでしまったあともそれはそれは美しかったんです。御者は思わずうっとりと、その顔を見つめていやしたが・・・。

 ・・・・・・。

 

 

 

 ほら、何ぼさっと見つめてるんですかい。坊や。

 「え、何? 阿紫花さん」

 ほらほら、お姫さんに目を覚ましてもらうには・・・王子様のキスでしょうが。

 「え・・・き、キスって・・・そんな!」御者は顔を真っ赤にしてためらっていやす。

 まったく、ウブなんですから・・・なんなら、あたしが替わってあげやしょか?

 「そ、それは・・・」ようやっと御者は意を決しやして、シンデレラの唇に静かに唇を触れやした。・・・そうです坊や、それから舌を入れて・・・あ、すいやせん。おとぎ話なんですよね、これ。

 すると! あら不思議、リンゴにかけられていた呪いがとけて、シンデレラの目がぱっちりと開いたじゃありやせんか。もうみんな、大喜びです。

 「あら・・・お坊ちゃ・・・いえ、あなたが・・・」まだ朦朧としている意識の中で、シンデレラは御者を見つけ、その首に抱きつきやした。

 あらあら坊や・・・石になっちまって、まあ。

 ところがその時、お城の大時計が12時を知らせる鐘を鳴らしはじめたんです。

 しまった! 鐘が鳴り終わって魔法がとけてしまったら、シンデレラはもとのみすぼらしい格好に、そして御者はネズミに戻ってしまいやす。シンデレラはあわててしまって、御者を抱きかかえたまま一目散にお城を抜け出しやした。

 鐘が鳴り終わったとき、どうにかシンデレラはお城の外に脱出してやした。魔法がとけたシンデレラは、同じくネズミに戻った御者を両手で持ち上げると、

 「おつかれさま」と、その口にそっとキスをしやした。

 すると突然、ネズミのまわりにもくもくと煙が上がりやした。その煙が晴れると、中からかわいらしい王子様があらわれたのでした。

 「あら・・・お坊ちゃま・・・」と、絶句しているシンデレラに、王子様が語りかけやした。「実はね・・・ぼく、悪いおじさんに呪いをかけられて、ネズミにされてたんだ」

 王子様は、恥ずかしそうに言葉を続けやした。「・・・それが、その・・・しろがねにさあ、キスしてもらえたおかげで・・・元に戻れたんだ。ありがとうね」

 「いいえお坊ちゃま・・・わたしこそ」

 「あのさ・・・シンデレラ?」坊や・・・王子様がこう言いやした。「よかったら、ぼくのお城にさあ・・・来てくれないかなあ?」

 「・・・ええ」そっと、シンデレラがうなづきました。「お坊ちゃまのお心のままに」

 それから二人は王子様の国に行き、悪い伯父を追い出すと、いつまでも仲良く暮らしたそうです。めでたし、めでたし。

 ・・・いやあ、何とかハッピーエンドになりやした。よかったですねえ・・・あ、タバコ吸っていいですかい?

 

 

 

 「・・・・・・おい」

 おや、あんたはミンハイ王子。どうしたんですか、いったい?

 「何がめでたしだよっ、オレはどうなるんだよ!

 あ・・・どうなったんでしょうねえ。

 「コラコラッ! 話の途中で放ったらかしにしやがって・・・だいたいどうして、白雪姫がまじるんだよ!」

 そんなに怒んねえでくだせえよ、兄さん・・・大丈夫ですよ、ちゃあんと兄さんの分の続きを用意してありやす。

 「そうかよ・・・それならいいんだが」しぶしぶ王子様がうなづきやした。

 まったく・・・じゃ、兄さんの話を続けやしょうね。お城の兄さんは・・・いやいや王子様は、呆然と取り残されていやした。すると・・・。

 とつぜん継母の一人が、ブローニングで王子を撃ったのです。同じく取り残されて、しかもシンデレラにおいしいところを持って行かれてしまったので、誰かに腹いせをしたかったんでしょう。背中を撃たれた王子様は、そのまま床へと倒れ込みやした。

 「てめえ! 何だよ、この展開は・・・」

 おっと兄さん、撃たれた人間がしゃべっちゃいけやせんぜ。まあ・・・黙って見てて下せえ。

 「おいおいルシール、何も撃つことはないだろう」意地悪な兄がいいやした。

 「大丈夫よ、どうせすぐに直るんだろう? 生命の水の力でさ」

 「生命の水? まだ、奴には何もしていないが・・・」上等のワインを口にしながら、意地悪な兄が答えやした。王子を撃った継母がおどろいて王子を見ると、生身の人間だった王子は見る見る血を失い青ざめていきやす。

 「しまった・・・!」継母が叫びました。「ほらギイ、早く手術をしなさい」

 「ええーっ、めんどくさいなあ」といいながらも、意地悪な兄はしぶしぶ手術をはじめやした。残りわずかな奇跡の霊薬「生命の水」を使って王子様を蘇生させるとともに、そのついでに左腕を切り落として義手に付け替えやした。

 そして、一命をとりとめた王子に、意地悪な兄はこう語りかけやした。

 「ナルミ、お前に選択権はないよ」

 こうして、ナルミ・・・いやいや王子様と意地悪な兄と、それから3人の継母とは、自動人形を倒すために諸国をさすらう旅へと旅立っていったんです。めでたしめでたし。

 「おい阿紫花・・・何だ、この展開は!?」

 まあ、細かいことは気にしねえで・・・ほらほら兄さん、モタモタしてると置いてかれやすぜ・・・ね。

 ふう、これでようやく丸く収まりやした。アダルトにも走らなかったですし、心の温まるような感動童話が・・・あれ、リーゼちゃんじゃありやせんか。どうしたんです?

 「アノ・・・私の出番ガ・・・」

 へ?・・・あ、そういえば・・・。

 「しかも勝サンが・・・しろがねサンとなんて、そんな・・・」

 あ! ちょっと嬢ちゃん、泣いちゃダメですって・・・おい羽佐間ぁ、どっからこんないい加減な話を・・・わあ、リーゼちゃんその鞭は・・・ひゃっ、ドラム! まて、落ち着いてねえ・・・ぎゃあああああ!

 

(FIN)

(H11.2.15_Y.YASUMITSU)