月光条例オリジナルストーリー
「月光条例施行規則
 〜第四編 王様の耳は驢馬の耳〜

 

 むかしむかし あるところに てんどうという

 くちびるのぶあつい ばんちょうが すんでました。

 てんどうは あくゆうで けんかあいての げっこうと つるむうち

 いつのまにか げっこーじょーれーの しっこうしゃの てつだいとして

 むうんすとらっくされた おとぎばなしの とうじょうじんぶつと

 たたかったり やっつけたり やっつけられたり してました。

 

 あるひ てんどうが いつものように

 まいはにー えんげきぶの かおをみるのを めあてに

 げっこうのいえの らーめんいわさきを たずねますと

 みせのなかには げっこうとか えんげきぶとかの なかまに くわえ

 ふとった おうさまや けらいたちが いすに すわってました。

 あら てんどうさま と はちかづきが おじぎをしますと

 かのじょがかぶる はちのなかから

 よう くちびる と てんどうの あだなをよんで

 いっすんぼうしが かおを だしました。

 

 てんどうも いいかげん なれっこに なってたので

 なんだよ こんどはなんの おとぎばなしだよ と たずねますと

 いっすんぼうしが にやにやと わらってから

 ようたずねたと いうと おおきく いきを すいこんで

 おうさまのみみはろばのみみじゃ と おおごえで いいました。

 すると おうさまが わー またしても わしの ひみつを ばらされたー

 よよよよ と なきだしました。

 よくみると おうさまのあたまには みみもとを おおうように

 しろいぬのが まきつけて ありました。

 それをみて てんどうは ああ わかった

 つまり こいつは おうさまのみみはろばのみみの おうさまで

 この ぬのきれのしたに ろばのみみが かくしてあんだな と いいました。

 よよよよよ そんなおおごえで なんども

 わしのひみつを ばらすでないと おうさまが また なきました。

 だって そんなん ひみつでも なんでもなくて

 みんなしってるからな と てんどうが いいましたが

 うひー あいつが あいつが ばらしてまわったからだ しくしくしく と

 おうさまは いっこうに なきやむようすを みせません。

 げっこうはと いうと そのさわぎにも きょうみ なさそうに

 そっぽをむいて みせの てれびを みていました。

 

 そこで となりにいる はちかづきが

 おうさま どうか なみだを おふきくださいませと なぐさめますと

 そのよこから えんげきぶが

 そうよおうさま その ろばみみだってさ

 あたしらの せかいじゃさ ねこみみとか うさみみとか

 みんな もえー とかいって かわいいって いってくれるからさ

 だからげんきだしてよと いいました。

 これが きいたのか おうさまは かおをあげ

 それはほんとうか ほんとに わしの ろばみみは かわいいかの と

 えんげきぶに たずねましたので えんげきぶは

 え ええ かわいいわよ と いいました。

 

 すると そのとき はちかづきの あたまの うえから

 そりゃーうそだね という こえがしました。

 みんなが いっせいに はちかづきを みると

 そのあたまの はちのうえに こどもみたいな おとこが

 あぐらをかいて すわって わらって みんなを みおろしてました。

 そのおんなは おめーに きをつかって いってんだ

 だって このおんなは ゆうべの てれびの ばらえてぃばんぐみの

 あきばけいもえもえめいどかふぇだいとくしゅう こーなーを みてて

 ねこみみの めいどが でてきた ときによ

 やだ きもーい こんなねこみみとかに もえるなんて

 しょうじき わけわかんないわよねえ はっちゃん て

 そっちのおんなに はなしかけてたじゃ ないかよと

 おとこが つづけざまに いいました。

 

 げげっ あなた どうしてそれを と えんげきぶが いいますと

 その かたわらで おうさまが うわああああん

 やっぱり よの このみみは きもーいんじゃな わあああん と なきだしました。

 それよりみなさま いまは それどころでは ありません ほら と

 はちかづきが おとこのことを ゆびさしますと

 おうさまと けらいたちの ひょうじょうが みるみる かわり

 おのれ そんなところに いおったかと さけぶと

 つるぎや やりを かまえて おとこに むかいました。

 

 しかし おとこは とびはねて それを かわすと

 いつのまにか てんどうの となりに とびおりて

 まわりにも きこえるようなおおごえで その みみに むかって

 よおくちびる きょうも おきにいりの

 うさぎさんぱんつを はいてきてんのかーい

 たまにはせんたくしねーと におっちまうぜ と いいました。

 たちまち てんどうのかおと くちびるが あかみを まし

 て てててててめえ どうしてそれをと さけびました。

 

 だからそいつは おうさまのみみはろばのみみの りはつしなんじゃ

 むうんすとらっくされてしまって よみてのせかいに にげこんで

 おうさまだけでなく よみての みなの ひみつまで

 ばらして まわっておるんじゃよ と いっすんぼうしが いいますと

 うっせーな と りはつしは てんどうの こぶしを かいくぐりながら

 せつめいてきな せりふを えんえんと つづけんなよ おめー

 そこの はちかづきの はちのなかに かくれて

 そっちの ちちでかおんなと と えんげきぶを ゆびさして

 ふたりして ふろにはいってるのを こっそりと のぞいてるくせに

 うそだとおもうなら こみっくす だいいっかんを よみかえしてみな

 ふたりが ふろに はいってるとき おまえは どこに いたのかな

 うけけけけと わらいごえをたてて いいました。

 

 げげげげげ おぬし いったいどうして そのことを と

 いっすんぼうしが うろたえた すきをついて

 だから おれさまは ほんをつうじて よみてどもの せかいを でいりして

 いろんなひみつを みききして にぎってんだぜ

 どーれ このちょうしで よみてどもの ひみつを

 どんどん ばらして まわってやろう と

 りはつしは おもてに とびだして しまいました。

 

 おのれ にがすかと おうさまが けらいたちを ひきつれ とびだしました。

 げっこうが それをおいかけて みせを とびだしたので

 いっすんぼうしも そのあとをついて でようと したところ

 いきなり その えりくびを ひっつかまれて

 そのからだが ちゅうに ぷらーんと うきあがりました。

 いっすんぼうしが おどろいて ふりかえって みると

 えんげきぶが いかりのぎょうそうで かれを つりあげていて

 ちょっとあんた いまのはなし ほんとなの

 あたしらの おふろを のぞいてるんだって と ききました。

 い いまは それどころではなかろうと いっすんぼうしが いいますと

 とぼけてねえで しつもんに こたえろや こら

 おめえ まいはにーの ふろを のぞいてたって ほんとなのかよ と

 てんどうが ゆびを ぽきぽきならしながら つづけますと いっすんぼうしは

 ひ そ そ それはちがう ちがうぞ

 だからそれは あいつの でたらめじゃ

 はだかだの うさぎさんぱんつとか

 そ い いまは そんなはなしをしてる ばあいでなかろう

 みなできょうりょくしてあのものをぎゃあああああ と

 いっすんぼうしの ひめいが みせのそとまで ひびきわたりました。

 

 さて りはつしを おいかけて とびだした

 おうさまと けらいたちと げっこうでしたが

 りはつしのあしが おもいのほか はやかったので みうしなってしまい

 ひとまず たいさくをかんがえようと みせへ もどってきました。

 するとそのとき みせの てれびで りんじにゅーすが はじまって

 りはつしが いたるところに あらわれて

 いろんなひみつを ばくろしているという はなしを はじめました。

 みせにもどってきたばかりの げっこうと

 みせの かうんたーせきに すわっていた はちかづきと

 なべのあぶらの ひかげんを みていた てんどうと

 からあげの ころもを つくっていた えんげきぶと

 しばりあげられて からあげに されかかっていた いっすんぼうしとが

 いっせいに てれびに ちゅうもく しました。

 

 てれびの あなうんさーが つぎつぎと よみあげることには

 りはつしは げいのうじんの すきゃんだるとか せいじかの おしょくとか

 がいこーじょーの じゅーよーきみつとかや こなんの けつまつまで

 あっちこっちで ばらして まわっている ということです。

 おかげで こっかいが こんらんして きのうまひに おちいったとか

 あきはばらと いけぶくろで ぼうどうじけんが はっせいしたとか

 ざいにちべいぐんが ひじょうけいたいかいせいに はいったとか

 こくれんあんぽりじかいが きんきゅうしょうしゅうされて

 わがくににたいする ひなんけつぎを かけつしたとか

 あなうんさーは つぎつぎに にゅーすを よみあげました。

 ところが そのがめんに りはつしが あらわれて

 あなうんさーが にゅうしゃしけんのときにした ふせいの はなしとか

 てれびきょくのしゃちょうの だつぜいの はなしを はじめたので

 がめんが いきなり すなあらしに かわって

 にゅーすも みられなく なって しまいました。

 

 どうしよう このままじゃ たいへんなことに なって しまうわよ と

 えんげきぶが てれびの すいっちをけしながら いいますと

 しかし あんなに すばしこいやつ

 いったい どうすれば つかまえられんだよ と てんどうが いいました。

 すると そのとき みせのなかに

 ねえ いわさきくんいる と たずねながら

 どうきゅうせいの としょいいんと ほうそうぶが はいってきました。

 ふたりは しょっぴんぐに でかけてたところで

 この さわぎを しったので

 もしかしたら また なにかのおとぎばなしが げんいんかとおもって

 げっこうを たずねて やってきたのです。

 えんげきぶと はちかづきが かくかくしかじかと

 じじょうを せつめいしかけたのですが

 はなしの はんぶんをきいただけで かしこい としょいいんは たちまちに

 なるほどね では ここのひとたちと その りはつしは

 おうさまのみみはろばのみみの とうじょうじんぶつなのね と いいました。

 すると そのよこで げっこうが

 なあ ところで その おうさまのみみはろばのみみって

 いったい どんな はなしなんだと たずねました。

 あなた はなしもしらずに あいてを おいかけてたの と

 としょいいんや ほかのみんなは あきれたかおをしましたが

 げっこうに おはなしのあらすじを せつめいしました。

 

 

王さまの耳はロバの耳

 

 むかしむかし ギリシャに ミダスという 王さまがいました。

 あるとき 王さまは アポロン神の 怒りにふれて

 その両耳を ロバの耳に 変えられてしまいました。

 王さまは その耳を ふだんは ぬのでおおって かくしてましたが

 さんぱつの ときだけは その耳を 出さなくては なりません。

 そのため さんぱつをした 王さまおかかえの りはつしは

 王さまの耳が ロバの耳だと しってしまいましたが

 ひみつをもらしたら しけいにすると 王さまに おどかされたので

 だれにも ひみつをあかさずに いたのですが

 ですが りはつしは だまっていることに たえかねて

 なやんだあげくに じめんに あなをほって

 王さまの耳はロバの耳と 大きなこえで さけびました。

 ところが つちのなかから あしのくさが つぎつぎ はえてきて

 風にふるえるたびに 王様の耳はロバの耳と いいだして

 国じゅうに うわさになって ひろまって しまいました。

 はじめは いかりくるった 王さまでしたが

 りはつしを しけいにするのは しのびなくて これを ゆるしたところ

 アポロン神の のろいが とけて

 もとの耳に もどったと いうことです。

 

 あぽろんしんが でてくるように もともとは ぎりしゃしんわ だけどね

 ちゅうせいふうに あれんじされることが おおいのよ

 だから このおうさまも ちゅうせいよーろっぱふうの おうかんを

 こうして かぶっているのね と としょいいんは おうさまを みますと

 わー さっきから みんなして ろばのみみろばのみみと

 よのひみつを あばきたてよって わあああん と なきだしました。

 そのため はちかづきと ほうそうぶが おうさまを なぐさめる そのよこで

 つまり りはつしが むうんすとらっくされて

 ひみつを あちこちに ばらまいて まわってるわけね と

 いいながら としょいいんが かんがえこみました。

 それも じめんにあなをほったり しないで

 ひみつをもっている ほんにんのちかくに あらわれて

 おきにいりのうさぎさんぱんつなんて ひみ ひみつを

 うさぎさんぱんつ うふふふふ と わらいだしたので

 わらうな と てんどうも どなりました。

 としょいいんは すぐに まがおに もどりますと

 それなら たいさくが ないわけでもないわ と いいました。

 

 そして としょいいんが かんがえた さくせんを じっこうするため

 げっこうと えんげきぶと はちかづきの さんにんが

 みせのそとの みちばたにでて たちました。

 そのしゅういに おうさまの けらいたちが

 こっそりと すがたをかくして かこみますと

 いりぐちの とをすこしひらいた すきまから

 としょいいんと てんどうと いんすんぼうしが かおを のぞかせました。

 

 よお ほんとうに これで うまくいくのかよ と てんどうが ききますと

 いや たしかに このほうほうなら やつを

 うまく ここへと おびきよせできようぞ と

 いっすんぼうしが ちいさなこえで こたえました。

 なにしろ あの さんにんにはな

 げっこうの うまれの ひみつと

 えんげきぶの ほんみょうと

 そして はちかづきの すがお という

 げっこーじょーれー さいだいの ひみつが かくされて おるのだからな

 このひみつを ばくろしに あやつは きっと やってくる

 それを おうさまの けらいたちが ほういして

 ひるんだすきを ついて げっこうと はちかづきとで

 げっこーじょーれーを しっこうしてやるんだからな と

 いっすんぼうしは まるで じぶんのかんがえた てがらみたいに

 たかわらいを したのです。

 

 さて としょいいんと いっしょにきていた ほうそうぶですが

 じじょうも よくわからず することも なかったので

 みんなのために おやつでも よういしようと

 えぷろんを つけて みせのちゅうぼうに はいったところ

 さきほど からあげを つくりかけてた

 あぶらをはった ちゅうかなべを みつけたので

 あら ちょうどいいわ これで

 ばななちっぷを あげましょうと じゅんびを はじめました。

 そこへ けらいたちに まちぶせをまかせた おうさまが

 やっぱり することも なかったので やってきて

 ういやつじゃ そのほうは おやつづくりか

 ところでそのほう よの この ろばみみを どうおもう

 かわいいとか もえーとか おもったりはせぬかなと たずねますと

 えっ そ それはまあ えーと

 それなりに かわいいと おもいますよ と

 かおをそむけながら ほうそうぶが こたえたので

 おうさまは たいそう よろこんで

 そ そうであるか よの このろばみみが かわいいか そうか

 どうじゃ どのへんが かわいいか と つづけざま たずねたところを

 そうだ おうさま いっしょに ちょこちっぷを つくりませんか と

 ほうそうぶが いって はなしを そらしました。

 

 すると ほうそうぶの うしろのほうから いきなり

 けけけけけ という わらいごえが きこえたので

 びっくりして ほうそうぶが ふりかえりますと

 せなかすれすれに りはつしが たってたので

 おうさまと ほうそうぶは ひめいを あげました。

 ひめいをきいて としょいいんと てんどうたちが ふりかえり

 りはつしが いつのまにか みせのなかにいるのをみつけると

 たいそうおどろいて とびつこうと しましたが

 ちゅうぼうへの とおりぐちには いつのまにか

 いすや てーぶるが ばりけーどのように つみあげられて いて

 みんなが ちかよるのを ぼうがい してたのです。

 

 ちきしょう いったい いつしのびこんだんだ

 さくせん しっぱいじゃ ねえかよお と てんどうが さけびますと

 それにつづけて おうさまが おのれ またしても

 よのひみつを あばきに あらわれたか と いいましたが

 りはつしが おうさまの みみを ひっぱって けたおしてから

 うっせえ ろばみみ いまさら おめえなんぞに ようはねえ

 おれは ひひひひ ひみつの においを かぎつけて やってきたぜ

 じゃまものは このとおり ひきはなしたから

 これで こころおきなく このこむすめの ひみつを

 ばくろしてやることができる と いいました。

 

 それから りはつしは おびえている ほうそうぶに ちかよると

 こんなかわいい おとなしそうなかおを してるくせに

 それが よるになると いっぺんして あんな

 

 

 

 

 と いいかけた りはつしの あたまに

 ほうそうぶは こんしんの ちからで ちゅうかなべを ふりおろしました。

(ぜったいに まねを しては いけません)

 このなべでは さっきから ばななちっぷを あげるため

 あぶらを ほどよく ねっして いたせいで

 りはつしは あたまから ほどよく あたたまった あぶらを あびてしまい

 ぎゅおおおんんんっ げるげるめじやはん と

 にんげんばなれした ひめいを あげながら

 にげることも できず ちゅうぼうの ゆかを のたうちまわりました。

 そこへ さらに ほうそうぶは ごろっかい ちゅうかなべを たたきつけると

(ぜったいに まねを しては いけません)

 りはつしの せなかを ふみつけに してから

 でっきぶらしを てにして りはつしの うしろあたまを

 つよく はげしく みがきはじめました。

(ぜったいに まねを しては いけません)

 おうさまと いっすんぼうしが それを のぞきこみましたが

 あまりの せいさんな こうけいに おもわず めを つむりました。

 

 そこへ ようやく ばりけーどを てっきょして

 としょいいんと てんどうが ちゅうぼうに かけつけました。

 やめなさい そんなことしたら しんでしまうわよ と

 としょいいんが りはつしを ひきおこしますと

 そこで ほうそうぶが われにかえって

 あ あたし いったい なにを といって

 でっきぶらしから てを はなしました。

 としょいいんが りはつしを しらべますと

 まだ しんぞうも うごいてて いきているのが わかりました。

 りはつしは あぶらと ちと なみだとに まみれてしまって

 ひゅぅぅぅ ひゅうぅぅぅ と あらいいきをしながら

 なぜだ なぜ おれが こんなめに

 おれはただ あのむすめの ひみつを ばくろしようと しただけなんだせ

 そういや おまえといっしょの ひみつだな

 と としょいいんに めをむけて

 おまえも あのむすめも どっちも おとなしそうな かおしてるくせに

 そのくせに よるになると あんな

 

 と かたりかけた りはつしの かおに

 としょいいんの ひざげりが さくれつしました。

 ちょうど ほうそうぶが りはつしの うしろあたまを めがけ

 かていようの しょうかきを うちつけた ところだったので

 としょいいんの ひざがしらが もろに めりこんで

 りはつしのかおが まるで

 じゃいあんになぐられたのびたのかおみたいに なりました。

(ぜったいに まねを しては いけません)

 そのくちから まえばが なんぼんか こぼれて

 りはつしは ひめいもあげずに ゆかに たおれこみました。

 ほうそうぶが また でっきぶらしを てにしたのですが

 としょいいんが それを とりあげると

 かわりに すみっこに おいてあった ぽりっしゃーを もってきて

 りはつしの せなかにのせてから すいっちを いれました。

(ぜったいに まねを しては いけません)

 ぐるーんぎゅぎゅぎゅるぎゅぎゅぎゅぎゅんんん という おとが

 りはつしの ひめいにまじって きこえだすと

 まぢかでみていた いっすんぼうしと てんどうは

 おもわず めを そむけて みみを ふさぎました。

 

 みせのなかの ようすに きがついたのか

 ようやく げっこうたちが もどってきますと

 そこにいたのは うしろあたまから しりにかけて

 ふくも かみのけも ぼろぼろになった あぶらまみれの りはつしでした。

 お おい こ これはいったい と げっこうが おどろいて たずねますと

 いきなり おうさまが くびをふりながら

 よ よよよ よは なにも なにも みていないぞよ と さけびました。

 つづけて てんどうが こたえようと くちをひらきかけたのですが

 ちゅうぼうにいる としょいいんと ほうそうぶの ふたりを

 ちらり と うかがってから い いや それがよ

 こいつが いつのまにか はいりこんできたんだけどよ

 ちゅうぼうで かってにころんで あぶらをあびたり

 ぽりっしゃーに ひとりでからんだりして

 なんかよくわからんうちに じめつしたみたいなんだぜ あはははは

 くわしいようすは いっすんのやつにでも きいてくれよ と こたえました。

 それにつづけて いっすんぼうしも

 いや それがしも よく みておらんかったでな はははは と わらいますと

 としょいいんと ほうそうぶの ふたりは

 あたしたちも なにもみてないわよね と かおを みあわせてから

 おやつの ばななちっぷを つくりはじめました。

 

 げっこうは なっとくいかなそうな かおを してましたが

 とにかく りはつしがうごかなくなってる いまのうちに

 だけど これいじょう だめーじを あたえるのも きがひけたので

 はちかづきが へんしんした かなぼうで

 りはつしのからだを ちょこんとだけ こづいて

 げっこーじょーれーを しっこうしました。

 もとの めるへんたっちにもどった りはつしは

 おうさまたちに あたまをさげて あやまって

(なぜか としょいいんたちには とくに ものすごく あやまってましたが)

 それから おうさまと けらいたちと げっこうたちと みんなで

 としょいいんたちが つくった ばななちっぷを たべて

 ほんのせかいへと かえっていったと いうことです。

 ちなみに りはつしがばらした いろんなひみつも

 げっこーじょーれーが しっこうされたので

 ひみつが ばらされたことじたい なかったことになって

 よのなかに へいわが もどったと いうことです。

 めでたし めでたし。

 

 

教訓  国家や世界の機密を盗もうと、乙女の秘密に手を触れてはなりません。

 

 

 

 で だそくです。

 げっこーじょーれーを しっこうされた りはつしが かえるちょくぜん

 いっすんぼうしが これこれ またれいと かけよって

 ないしょばなしのように ささやいて たずねました。

 それにしてもおまえ さっきは いきなりみせのなかへ あらわれたが

 おもてにいる あのれんちゅうのほうが と げっこうたちを ゆびさしてから

 あやつらのほうが すごいひみつを もっていたはずなのに

 どうして みむきもしなかったのだと ききますと

 すると りはつしは すこしかんがえてから

 い いえ それについては ですね

 ほんのせかいに かえってから じめんに あなをほって うずめて

 あしもはえないように あたりをやきはらってから しっくいを ぬりかため

 げんじゅうに げんじゅうに ひとくすることにします

 だから あなたも おききにならないほうが よろしいでしょう とこたえました。

 

 ところが いっすんぼうしは それでも あきらめきれず

 そんなことをもうすでない そなたひとりの ひみつにしてはならんぞ

 もし どうしても かくそうと するならば

 じつは それがしいじょうに しんそうを しりたがっておる

 ちゅうぼうにいる あのふたりに ごうもんされることになるぞ と

 としょいいんたちのほうを ちらちらみながら いいました。

 すると りはつしは まっさおな かおになって

 ひええええ ど どうか いのちばかりは

 じゃ ほんとうに ひみつにしてくださいよ と いってから

 いっすんぼうしのみみに なにごとかを ささやくと

 そのまま おうさまたちといっしょに ほんのせかいへ かえりました。

 あとにのこされた いっすんぼうしが

 こきざみに からだを ふるわせてるのに きづいて てんどうが

 おい いっすん そんなぶるって どうしたんだよ と たずねましたが

 いっすんぼうしは ただ なにもいわず くびをふる ばかりでした。

 

 そのひの よるのことです。

 てんどうが ねている へやのまどを だれかが たたきました。

 おとにきがついて てんどうが めをさまして かーてんを あけますと

 まどのむこうに いっすんぼうしがいるのを みて

 おうどうしたんだ こんなよなかに と いいながら まどを あけました。

 ひいいいいい くちびる それがしは もう がまんできん

 あやつからきいた げっこうたちの ひみつの しんそうを

 くちびる そなたにも とくべつに きかせてやるから

 ありがたく おもうがいいぞと いいながら

 いっすんぼうしが とびこんできたかとおもうと

 ふいをつかれた てんどうの みみもとに すがりつくと

 もんどうむように なにごとかを ささやきはじめました。

 すると てんどうの からだが わなわなと ふるえてきて

 ま まじかよ と いって いっすんぼうしを うかがいました。

 まちがいないわ それがしが あのりはつしから きいたのでな と

 いっすんぼうしが こたえますと

 ちくしょうめ どうしておれに そんなこと きかせやがったんだー と

 てんどうは さけぶと いっすんぼうしのからだを つかんで

 ぶんぶん ぶんぶん ふりまわしました。

 ですが そうしてばかりも いられなかったので

 あれこれ なやんで しあんした あげくに

 ついに ふたりは いえから すこっぷを もちだして

 うらにわへと でて いきました。

 それから おおきなあなを ほると

 そこに ひみつを おおごえでしゃべってから

 あわてて つちをかけて うめたと いうことです。

 

 

      *    *

 

 むかしむかし ある所に たいそうはたらき者の まんが家が すんでました。

 絵にはく力を出すために いろいろとくふうをかさね ゆび先にインキをつけて かきこんだり

 サイン会では 一人一人のファンに イラスト入りのサインを 書いたりして

 どく者の心をいつもあつくして たいへんかんどうさせておりました。

 ところが ある日 この まんが家の スタジオに

 担当のへんしゅう者が けっそうをかえて 飛びこんできました。

 おや どうしたのかい と まんが家が たずねますと

 どうしたもこうしたもありませんよ先生

 月光じょうれいの 月光たちの かことかの なぞやひみつを

 私にさえ トップシークレットのきぎょうひみつだとかいって

 先生は 教えようと してくれてませんけど

 あれってじつは 本当は まだ何にも考えてないんだって 本当なんですか

 と たずねかえして きたのです。

 

 ば ば バカなことを いっちゃいかんよぉ

 何をこんきょに そんなねもはもないことを いうんだい

 と まんが家が こたえますと へんしゅう者は

 もう 町中のうわさに なっているんです

 なぜか知りませんけども かんとうかくちに あしのはらが 大はっせいして

 しかもそれが まるでしゃべっているかのように

 フヂタセンセは 月光のかこやエンゲキブのほんみょうを

 実はまだ考えてないぞぉぉぉぉ だの

 はちかづきのす顔も 月光じょうれいのなぞのこたえも ぜんぜん考えておらぬのだぞぉぉ とか

 風にゆれる音が そんなことばに きこえるんです

 それをきいた人たちの間で うわさになっている ばかりか

 ネットをつうじて 日本じゅうに つたわって

 もう しゅうしゅうがつかなくなってるんですよ と

 いまにも なきだしそうな かおをしながら いいました。

 

 だ だから そんなことは ないのよお

 たしかに君にも みんなにもさ ひみつには してるけどさ

 もう 月光じょうれいのね いろんななぞやひみつの答えはね ちゃんと 決まってて

 ほおら この アイデアノートに ばっちり 書かれてるんだぜ と

 まんが家は かたわらにつみ上げた アイデアノートの 山の中から

 一さつを つまみ出して いいました。

 するとへんしゅう者は わかりました そこまでおっしゃるのならば

 それじゃ今すぐ そのノート 見せてくださいよ

 月光と エンゲキブと はちかづきの ひみつとが

 いったい 何て 書かれているか  さあ 早く ここで 見せて くださいよぉ

 このまま帰ったら ぼくは あのおそろしいへんしゅう長に

 てめー 今回こそ ちゃんと先生に きちんとせってい考えてもらって

 ちゃんとふろしきたたんでもらえるようにしとけって いっただろ と

 そうおこられて きっと ころされるに ちがいないんですから と

(本作は虚構です。登場する、あるいは想起される人物はすべて架空です)

 ノートに 手をのばすようにして

 ずいずいと まんが家に つめよりました。

 

 すると まんが家は いきなり

 あっUFOだ と 云って 天じょうの一かくを ゆびさしました。

 えっ と へんしゅう者が 上を見た そのすきに

 ノートのページを 一まい むしりとると

 口の中に つめこんで 食べて しまいました。

 何もないじゃないですか といった へんしゅう者が すぐに それに気づいて

 な ななななな 何してるんですか先生 と さけびますと

 ごめーん もぐもぐ 実は 昼ごはんが まだでねぇ

 あまりにも むしゃむしゃ おなかがへってた もんだからさ

 思わず 月光たちの ちゃむちゃむ ひみつが書いてあった

 ページのとこを 食べちゃったよ ごくん

 君には せっかく ひみつをおしえてあげようと思ってたのにさ わるいねえ と

 まんが家は こたえました。

 

 ああああ どうしても ひみつを おしえてもらえないんですね と

 ゆかにりょう手をついて へんしゅう者が へたりこみますと

 だ だだ 大丈夫だよ 心ぱいしないでさ

 だってぼくは あの からくりサーカスを かんけつさせた 男だぜ

 なぞや ひみつにみちた 月光じょうれいだってさ

 ひろげたふろしきは ちゃあんと たたんでみせるからさ

 君たちも 安心して 見まもっていてくれたまえよ といって まんが家は

 へんしゅう者のかたを ぽんぽんと たたいて

 ほら そんなにないてると あの夕日に わらわれちゃうぞ と まどの外を見て いいました。

 すると まどの外の 夕やけ空の どこかから

 ふぢたせんせは えんげきぶのほんみょうを かんがえてないぞぉぉぉ と

 かすかな声が 聞こえてきたように おもえました。

 

 めでたし めでたし。

 

 

教訓  みんなで月光条例を応援しよう

 

(fin)

 

(H21.11.23_R.YASUOKA
(Based_on_comic
('Moonlight Act'
(by_Kazuhiro_Fujita)

 

おことわり:
本作は藤田和日郎原作「月光条例」を基にしたフィクションです。
登場する、あるいは想起されるあらゆる人物・団体・場所・事件・童話・漫画家・編集者その他は、実在のものとはまったく無関係です。