うしおととらオリジナルストーリー
とらしいUNO入門」

 

 

 

 

 ・・・だからな、わしは最初いやだと言ったんだぞ。

 だいたいどうしてわしが・・・三千年を生きる大妖が、あの・・・なんだ、『うのう』とかいう遊びをしなけりゃならんのだ。いくらマユコがクソうしおの友達で、機嫌を損ねるとあのいまいましい獣の槍でぶっとばされるからって、そんなくだらん遊びにまでつきあってやる義理なんぞありゃしねーんだよ。

 だからわしはその時・・・マユコが『うのう』の話を持ち出したとき、ビシッと言ったやったんだぞ。

くだらん! だいたい、なんで妖が人間の遊びなど覚えにゃならんのだ!」

「だって・・・とっても楽しいんだよ! とらちゃんとUNOできたらいいなって思ってほら、今日持ってきたんだから」

 そう言って、マユコはぽっけっと(ポケット)からその『うのう』とか言うのを取り出しおった。

 床の上にひろげてみせたその札は、昔見たことのある歌留多に似ておるが、一枚一枚にきれいな色が塗られ、西洋の数字や文字が書き込まれている。そういえば、うしおが持ってた虎ぷう(トランプ)とやらにも感じが似てるな。わしは一枚を拾い上げ、表裏を見る。

 いや・・・これはまずいな。関心があると思われるぞ。

 わしはそっぽを向き、手にした札を投げ捨てた。

「それは・・・今のカードはね、リバースっていうのよ」

 え・・・りばす? わしはもういっぺんその札を・・・

 いやいや、こいつのペースにはまったらダメだ! それでいつも妖とケンカになったり、いらぬ苦労を・・・いや、あんな妖連中とやりあうのは一向に構わんが・・・だからそうじゃなくて、とにかく!

「でねでね、これがスキップでしょ? これはDRAW2・・・ドローツーって読むのよ。そうだ、とらちゃん英語読める?」わしの態度など気にもせず、マユコはしゃべり続ける。

「いいか、マユコ」

 顔に凄みをきかせて、わしはにらみつけた。「わしはな、やりたくねえと言ってるんだ」

「えっ・・・とらちゃん・・・」マユコが、わしの迫力に息を呑んだ。

 その眼が、しだいに涙目にとなっていく。「・・・ほんとに?」

「ああ、絶対にだ!」

「そうなの・・・」と言ってうつむいたマユコだったが、ちら、と上目遣いにわしを見る。「・・・でも、1回くらいなら・・・いいでしょ?」

「まだ言うか! それ以上ごちゃごちゃ抜かすと喰っちまうぞ!」

 わしにだってブタイド(プライド)ってもんがある。そうそう小娘のいいなりになってたら、しまいにゃ同人誌の売り子にまでされかねん・・・おっと、口がすべったかな・・・。ビシッというときはビシッと言って、妖としての立場ってものをはっきりさせておかないと・・・

 その時だよ。

 いきなり後ろから、わしの頭めがけて、獣の槍が振り下ろされたのは。

 

 

 

 ずごめらぼよごぉ〜〜ん!

って衝撃が、わしの脳天に猛烈に響きわたった。

 振り返るまでもない、こんなことをするバカは世界にただひとり。

「やっ・・・やい、何をしやがる! バカうしおがっ!」

「なにがバカだと・・・こらぁ、とら! お前こそ、井上しやがった!

 いやあ、この時のうしおの怒り狂ってたこと。

「ちっ・・・違うぞ、わしは何も・・・」その勢いに、わしはつい及び腰になる。

「違うのよ、うしおくん。あのね・・・」

 たぶんありゃあ・・・学校で居眠りして先生に怒られたとか、ドブ転んで財布を落っことしたとか、なんかヤな目にあったんだろうな。とにかくあの剣幕、マユコが事情を説明してくれなかったらどうなってたことやら・・・いや、別にあのチビはおそるるに足らんが、あいつが持ってる槍が、ちと厄介でな・・・おっと、そんなことはどうでもいい。

「とらちゃんにUNOを教えてあげようとしたの。そしたら、とらちゃんがね・・・」

 と、マユコが取りなしたんだが・・・しかしまあ、これからが腹立たしいんだが・・・うしおのやつ、事情を聞くなりこんなコトをぬかしおったんだ。

「・・・井上、おめー何考えてんだよ?

 あきれかえったような顔をして・・・というより、元からのバカ面をいっそうバカ面にしてといった方がよいかな? 奴め、マユコにこう言いやがった。

「よせよせ・・・このバカ妖怪に、UNOなんて理解できるわけねーだろ」

 な・・・。

「なんだとっ、このガキ!」

 やつの言葉を聞くなり、胸の中に激しい怒りが渦巻いた。「きさま、わしをバカ妖怪とぬかしたな!」

「バカをバカって言って何がわりぃんだよ!」と、うしおが言い返す。「まっ、ルールが覚えられねーんじゃあな・・・これから俺達と麻子が楽しく遊んであげるから、後ろで黙って見てんだな。バカ妖怪さんよ」

「おのれ・・・まだ言いおるか!」

「ところで知ってるか、井上?」しかしあのバカはひとの話も聞かず、調子に乗ってしゃべり続けた。親指と人さし指で丸を作ると、「こいつの脳味噌ってな、こぉ〜〜んなに小っちゃいんだぜ!」

「やかましい! きさま、よくも重ね重ねわしをバカ呼ばわりしおったな!・・・おい!」

 もっ、もはや我慢ならん! わしはマユコに向き直った。「おいっ、おまえだマユコ!」

「えっ・・・?」

「その・・・『うのう』とやら、いますぐやり方を教えろ! このチビを・・・ぎったんぎったんにしてくれるわっ!」

あっ・・・うん!にっこり笑って、マユコが札を並べはじめた。「大丈夫、簡単だからね」

「・・・見とれよ、吠え面かかせてやるからな!」

 ・・・う〜ん・・・。

 ・・・今から考えたら、どうも・・・一杯喰わされたような気も、せんこともないが・・・まあいい。とにかく、この生意気な小僧をやっつけてやるためにも、わしはこの遊びを教えてもらうことにしたのだった。

 そうだぞ・・・だから、仕方がなかったんだ。

 あんなクソ面白くもない『うのう』なんて、わしは絶対やりたくなかったんだぞ。

 

 

 

「ね? 簡単でしょ?」

 ああ・・・簡単だ、確かに。わしは小さくうなずいた。

 マユコがいうとおり、『うのう』のルールはいたって簡単だった。

 さっき見た黄色緑色の4色にわかれた札にはそれぞれ0〜9の西洋数字と、ある歯別当(アルファベット)が書かれておる。

 その札をよく切って伏せ、そのうち5枚ずつを配る。

 車座になって順番に、自分の手札を、前のやつが捨てた札と同じ色同じ文字のものを捨てていく。

 捨てられる札がなければ、山から札をひき、手札にくわえる。

 残り一枚になった奴は、「うのう」と宣言する。

 そうこうして、自分の手札を一番はじめに全部捨てたやつが、勝者ということになる。

 けっ・・・馬鹿馬鹿しいほど簡単だ。

「よかった」マユコが言う。「だから言ったのよ、とらちゃんもきっと気に入るって」

ちょっと待て! 誰がいつ気に入ったと言った!?・・・なあ、うしお?」

 うしおは応えなかった。

 やつは・・・今にも喰いつかんばかりの形相で、場に捨てられた札の山と、おのれの手札とを見比べておる。

「うしお、どうせ持ってないんでしょ? 緑のカード」やつの隣に座ったうしおの女版・・・おっと、こう言ったらすげぇ剣幕で怒りやがるからな・・・アサコが言った。「さっさと引きなさいよ。次あたしなんだから」

「うっ・・・うるせー!」言い返しながらも、うしおは悔しそうに札を引いた。

「・・・今度こそ!」とつぶやき、引いた一枚を見る。

 ・・・その表情がたちまち絶望に沈むのが、やつを囲んだわしらにもはっきりわかる。

 けひひひひひ。

 こんなにやつが苦しむのを見られんのなら、『うのう』も悪くないな。

 わしは捨てられた札の山を見た。『うのう』を始めてからずっと、緑の札ばかりが捨てられておる。さっきも言ったとおり、前に捨てたやつと同じ色か番号の札を持ってない限り、一枚たりとも捨てることはできん。それでうしおのバカときたら、自分の番が来るたびに山から札を引いてばかりおる、というわけだ。

 ひゃひゃひゃひゃひゃ、ざまーみろ!

「・・・いつまで笑ってんだ!」

 やつが、かたわらの獣の槍に手をかけたのに気づき、わしは笑うのをやめた。

「じゃ、私の番ね」と、アサコが手元から緑の札を捨てた。緑の・・・5だな。

「・・・まっ、また緑かよぉ・・・」うしおが言う。その弱りきった口調が、限りなく気持ちいい。

「しょうがないでしょ、いっぱいあるんだから」アサコが言い返した。「・・・誰かさんの分まで、こっちに集まってきちゃうみたい♪」

 はあああああ、と、うしおが深くため息をついた。

 ひのふのみ・・・数えてみるとうしおの持ち札は、すでにわしらの倍近くになっておる。

「じゃあ、次はわたしの番ね♪」アサコの隣でマユコが、捨てる手札を選び始めた。

「井上っ!」いきなり、うしおが正座して、拝むように言った。「・・・頼んます!」

「う〜ん・・・」

 迷う井上に、わしとアサコがほとんど同時に言った。

「よせよせ、こんなバカに情けは無用だぜ!」

「真由子・・・勝負の世界は厳しいのよ」

「だっ・・・黙ってろよ、おめーら!」うしおが叫んだ。

 

 

 

 3人の板挟みになり、マユコはかなり迷ったみたいだ。

 だが、

「じゃあ・・・これね」そう言ってマユコが札を捨てた。

 けっ・・・青の5だ。

 アサコの札と同じ番号だが、これで色が変わる。

 次のやつは青色の札5番の札出さねばならないのだ。

「さっ、サンキュー! 井上!!」うしおの表情がぱっと明るくなった。「ありがとう、ありがとう!」

「あ〜あ、真由子はこれだから・・・」アサコが肩をすくめた。

 くす、と小さくマユコが笑った。「じゃ、次はとらちゃんだよ」

「わしか、わしだよな・・・」そう言って、わしはもう一度手札をみた。

 そして、そのうちの一枚を取る。

 わざと大きな声で、マユコに訊ねた。「なあ・・・これ、出せるのか?」

 わざと、その札をうしおに見えるようにしてやるのだ。

 効果覿面。

 うしおの顔から、一瞬で血の気がひいた。

「りッ・・・リバース!?

 そのとおり。わしが見せたのは『りばす』の青。『りばす』は・・・札を捨てる順番を反対方向にすることができる役札だ。これを捨てれば、うしおではなくマユコが捨てる番になるのである。

「とらぁ・・・おめー、それでも人間か!」

「バーカ、わしは妖だよ」わしが言い返す。「まあ・・・おまえが日頃愚行めて、今後わしへの態度に気をつけるというのなら、考え直してやらん事もないが・・・?」

「くっ・・・ちきしょう! 誰がそんな・・・」

「そうか・・・残念だな」無情に言いおいてわしは、『りばす』を床に捨てた。「マユコ、おまえからだぞ」

「てめぇ・・・おっ、覚えてろよ・・・」

「ほーらマユコ・・・また、緑にしちまおうぜ!

「とらちゃーん、うしおくんがかわいそうだよ・・・」マユコが青の3を捨てた。

「いっ、井上・・・!」いきなりうしおは手札を置くと、マユコの両手首をひしと握りしめた。「俺のことをわかってくれるのは、お前だけだよ・・・

「えっ・・・」うしおの行動にマユコの顔が赤く染まる。「そ、そんな・・・」

「こらっ、うしお!」二人に割り込むように、アサコが口をはさんだ。「真由子が優しいからって・・・調子に乗るんじゃない!」

「なに言ってんだよ、麻子!」うしおが言い返した。「冷酷非情なおめーこそ、井上の足の爪のアカでも煎じて飲みゃいいんだよ!」

「なっ・・・なんですって!?」アサコの形相が、くわっ、と変わった。

 そのままアサコは、叩きつけるように札を出しおった。「アッタマきた・・・スキップよ! さあ、とらくんどーぞ」

「うわあああああ! 麻子ぉぉぉぉぉ!」うしおが絶叫した。

 それもそのはず、アサコが出した『すけぷ』は、次のやつを飛ばしてその次のやつに順番を回すという札だからだ。言うまでもないことだが、うしおのやつ、せっかく用意した青の札を出すことができんのだ・・・ぎゃははははっ!

 叫ぶうしおに、わしが言ってやった。「ばーか、おめー・・・女のヤキモチを甘く見おったからだよ」

「・・・誰が、やきもちですって?」

 ・・・しまった、口が滑った・・・。

 アサコの手が動いたかと思うと、その手でわしの鼻が、力いっぱいにねじりあげられた。

 たまらずわしは悲鳴をあげる。「いててててて!」

「ほら・・・とらくんっ、とらくんの番だって言ってるでしょ!」

 わ、わかったよ! わしの番だったよな・・・ううっ、三千年を生きる大妖が、なんでこんなコワッパどもに・・・などと思いながら、わしは緑の『すけぷ』を捨てた。

 ・・・ほーら、これで緑色に戻ったぜ。

 優しいマユコも飛ばしちまうから、色も変わらんぞ。

「ナイス、とらくん!」アサコが続いて、緑の7を捨てる。「さあどーぞ、うしお♪」

「くっ・・・みんな、ひでえ・・・」唇を噛みしめ、うしおがうめくように言う。「だから俺は、UNOなんて陰険なゲーム・・・」

「ほらほら、どうした? さっさと引いてもらおうか・・・ん?」

「うっせーぞ、とら!」わしの言葉にうしおは、あのでっかい眼をひん剥いて応えた。「ちきしょう、覚えてろよ・・・」

 

 

 

 ・・・で、勝負がどうなったって?

 それが・・・この後のことは、思い出すのも不愉快だ。なにしろあのバカときたら・・・まあいい、話すとするか。あの後色々あったんだが、うしおが反撃に出たところからでいいかな?

 勝負が進んできて、みんなの手札がだいたい3〜4枚くらいに減ってきた頃のことだ。うしおのやつも、なんとか札を捨てて、勝敗がどう転んでもいいようになってきた・・・逆に言えば、1枚2枚の差が明暗に関わる状態だな。

 そんなときだ。うしおが『どらつう』を出したのは。

「どうだ、黄色のDRAW2!」

 あのギョロ目を光らせながらやつが捨てた札は『どらつう』と言って、それを出された次のやつは山から札を2枚ひかないといけないのだ。

 だが、うしおの次のアサコは驚きもせず、手札から一枚を引っぱり出し、床においた。

「DRAW4、ワイルドカードよ」

 で・・・今アサコが捨てたのはだ。

 あれを出されると、次のやつが山から4枚ひかないとならん。

 この場合、うしおの出した『どらつう』とまとめてアサコの次・・・マユコへと引き継がれる。アサコの『どらほう』の4枚もあわせ、マユコは6枚ひかねばならん。それを防ぐためにはマユコも『どらつう』か『どらほう』を捨てないとならないのだが、『どらほう』は『悪いど角(ワイルドカード)と言って、同じく『どらほう』の札を出すか、さもなくばアサコが捨てるときに決めた色の『どらつう』かでないと防ぐことができん・・・というわけだ(どうだうしお、ルールだってちゃんと覚えただろ?)。

「真由子・・・何色がいい?」

「え・・・んっとね・・・」

「ずりぃぞ中村! 女同士で結託しやがって」うしおがかみついた。

「いいじゃないのよ!」アサコが言い返す・・・その勢いはやっぱり、女うしおだな。

「正々堂々と勝負しろよ!」あくまでうしおは食い下がる・・・まったく、負けず嫌いというのか・・・こんなとき妙に子供じみおるわ。

「わかったわよ・・・じゃあ」

 アサコは窓をむいて、ちょっと考えてからこう言った。「ねえ真由子ぉ・・・バラサボテンレモンと・・・あと・・・ブルーベリーとぉ、どれが一番好き?」

「えっ・・・ああ!」マユコがうなずいた。「ええとね・・・バラ、かな」

「きっ・・・きたねーぞ、中村!」

「あら、何色がいいなんて一言もきいてないでしょう?・・・バラね♪」

 アサコがにたっと笑い、それから『どらほう』の札を出した。

「DRAW4、色は赤ね」

 なるほど、バラ=赤色とね・・・。

 ちょっと待てよ・・・感心してる場合じゃない。

 わしの前の番のマユコが、ここで『どらつう』を出したら・・・

「DRAW2、赤ね」マユコが赤い札を出した。そして、悲しそうな顔でわしを見た。「とらちゃん・・・ごめんね」

 

 

 

 あ・・・。

 うしおが出したのが『どらつう』で2枚。

 アサコが出したのが『どらほう』で4枚。

 で、マユコが今『どらつう』を出したから・・・

「ちょっと待て! わしが8枚も取らなきゃならんのか!?・・・」

「ぎゃははははは、ざまーみろ!」わしの言葉は、うしおのバカ笑いにさえぎられた。

「ごめんねとらちゃん、本当にごめんなさい・・・」マユコが謝り続ける。

「そうだよクソ妖怪、さっさと取れよ・・・8枚!」追い打ちをかけるように、うしおが言い放った。

 うっ・・・『どらほう』や『どらつう』には、『りばす』も『すけぷ』もきかん。

 だいたい、あと数枚というときにそんなもの残しておくのが・・・そうなんだ。誰かが手札を全部捨てたら終わりとはさっきも言ったが、他の奴らの順位は得点順で、『どらつう』とか『すけぷ』の役札を持っているほど不利になるのだ。だから役札が残らぬようにしてきたわしの手元には、もはや一枚の『どらほう』も『どらつう』もない。

 くそっ・・・負けるのも悔しいが、あのバカにゲラゲラ笑われるのだけは絶対に我慢ならん! なんとか助かる方法はないか。なんとか・・・。

 いや。

 ぐふふふふふふふふふ・・・!

 忘れていたが、わしの手札の一番右の一枚は、実は・・・まだ、白紙のままなのだ。

 なぜって? それはこんな事もあろうかと、密かにわしの人さし指を変化させておったんだからな。これに絵をつけ、うしおに披露してやると・・・。

どうだっ! 『どらほう』だ!」

「えっ・・・

 

 

 

 

 

 

 

なああああにぃぃぃぃっっっ!」

 わはははは! この時のうしおの顔は、今思い出しても痛快だ。

「さあ、12枚だぞ。今すぐ取ってもらおうか!」

 勝ち誇ってわしが言うと、アサコが手を打って、

じゅーにまいっ、じゅーにまい!」とはやし立てる。

 マユコは・・・さすがにかわいそうというような顔をしてるが、それでもアサコにあわせて小さく手拍子を打っておる。

 いやあ、実に気持ちがいいもんだ。ざまあみろ、うしお!

 うしおの奴ときたら、往生際悪くじっとわしの『どらほう』を、床の札の山の上に出したままになっているわしの手を凝視していた。

「ほら、さっさとせんか」

 わしはやつをせかした・・・このままでは、変化を解くこともできん。「それとも何か、わしの出した『どらほう』が信用できんとでも言うのか? え?」

 

 

 

 これがまずかった。

「・・・何?」うしおの目が光った。

「とら」声を落としてやつが言う。「ちょっと・・・カードをあらためさせてもらうぜ」

「なっ・・・なんだとっ!」『どらほう』を出したまま、わしがかぶりを振った。「まさかオメー、わしの『どらほう』が贋物とでもいうのか!?」

「そうか。やっぱり、そうなんだな・・・?」

「いや・・・あのねうしお君。そ、それより早く・・・じゅうにまいを・・・

 やつの右手が静かに動き、脇の獣の槍にと伸びる。

 ちょ、ちょっと待て・・・暴力はよくないぞ、うしお。

「やかましいっ!」

 一声叫んだうしおが、槍を床の上の札の山に突き立てた!

「いててててて!」

 あわてて引っ込めようとしたが、もう遅い。

 獣の槍は『どらほう』を・・・わしの右手の人さし指を貫き、畳に深々突き刺さった。

 いや、とにかく痛いのなんの・・・わしは大声で叫びまくった。

「この野郎、やっぱりイカサマだったんだな!」

 太い眉をつり上げたうしおが、ぐりぐりと槍をかき回す。

 いたたたたたたたた! おいよせっ、やめろ!

「てめぇえぇえぇぇえっ!」

 うしおが槍を引き抜き、大きく振りかぶるからもう、『うのう』どころではない。わしは手札をぶちまけ、雷を放ちながら部屋の中をところ狭しと逃げ回ったのだ。いやもう・・・例によって窓は割れるわタンスはひっくり返るわの大騒ぎになってしまってな・・・。

「・・・どうしてこいつらはいつもいつも・・・」とアサコがため息をつくし、

 マユコにいたっては・・・それにしても、マユコには気の毒なことをしたもんだ。

「あ〜ん、あたしのUNOが・・・」

 槍の一撃の巻き添えで切られたり、わしの雷で焼け焦げたりした札を手に、涙ぐんでおったからな。

 まったく、うしおは本当に乱暴だな・・・。

 

 

 

 この騒ぎ以来、二度とうしおは『うのう』をしようと言わなくなったな(穴だらけになった札は、結局うしおが弁償したんだが)

 ま、それがいいだろう。

 だいたい、たかが遊びに獣の槍を持ち出すような野蛮な奴には、元々『うのう』などむいておらんのだ。あのバカはオモテで妖とチャンバラでもしてればいいんだよ。ふん。

 あ、わしは違うぞ。わしは・・・たとえばうしおのいない時とか、マユコの家にはんばっかを食べに行った時などに、幾度となく『うのう』をやっておるからな。何を隠そう、キリオや九印と遊んだことだってあるんだぞ。クソ生意気でぽっかへいす(ポーカーフェイス)な九印はともかく、キリオはなかなか手強かったっけ。わしのイカサマをみんな見破るから・・・いや、わしもいつもイカサマしてるわけじゃないがな。そりゃ、たまには・・・、たまにはの話だ。10回に7回か8回くらいか? いつもの事ではないからな。やはりわしは、正々堂々と勝負するのが性にあっているのよ。

 ・・・おい、ちょっと待て。もしかして、勘違いしておるかもしれんから強調しとくが、わしは別に・・・好きこのんで『うのう』をやってるんじゃないからな。そりゃあ、うしおのぽんつくがコテンパンにやられるのは楽しいが・・・そもそもこんなくだらん人間の遊び、何が悲しくてわしのような大妖がせねばならんというのだ。それがわかっとらんから、あの紫暮のクソオヤジまで余計なことを・・・。

 おっと。

 そういえば、まだ紫暮の話をしてなかったな。

 あの時は・・・そうだ、寺にマユコとアサコが遊びに来ていたんだ。うしおのバカが使いで留守だったんで、三人ではんばっかを食べながら、うしおが戻るまでの間のヒマつぶしに『うのう』をしとったんだ。

「おや、いらっしゃい」わしらがいた部屋の障子が開き、紫暮が顔をのぞかせた。

「あっ、おじゃましてます。おじさん」

「ごめんね麻子ちゃん。潮、そろそろ帰ってくるから・・・おや、UNOかい?」

「はい・・・そうだ、おじさんも入ります?」

「いや、私は・・・」

 と言いかけた紫暮のやつ、手札を持ったわしに気づくとこうぬかしおった。

「ほう、とら殿まで・・・面白いかな、UNOは?」

「な・・・」わしはもちろん否定した。「違うぞ、わしは・・・」

「まあまあ」わしの態度など気にも留めず紫暮は、ちょっと間をおき・・・そして言った。

「・・・できることなら、白面にもUNOを教えてやりたいものだな」

 へ・・・? おい、お前・・・。

 だが紫暮は、そのまま「ごゆっくり」と障子を閉めていった。 

 おいコラ待て!・・・

 けっ、くだらん。

 さすが、あのバカの父親だけのことはあるわい。

 白面が・・・バケモノが、こんなくだらん遊びなど楽しむわけなかろうが。

 だが、マユコ・・・そうだ、マユコもわしの顔を見て・・・

 一言、

「そうだね。みんなでUNOしたいね♪」

 なんて、にっこり笑ってうなずきおった。

 バカかおまえっ、白面ってのがどんな奴だか知ってるのか・・・!?

 ・・・いや、もういい。まったく、どいつもこいつもおめでたい連中だわい。

 こんなくだらぬ遊び、誰が好きこのんでやるってんだよ・・・けっ。

 見てろよ・・・おめえみたいな奴にはな、わしの番がきたその時に『どらほう』を(これは本物だぞ)叩きつけてくれるからな。

(fin)

 

(H11.11.08 R.YASUOKA
(Based on comic'USHIO and TORA'
(by KAZUHIRO FUJITA)

おことわり:
本作は藤田和日郎作「うしおととら」をベースにしたパロディです。
登場する、あるいは想起されるいかなる人物、団体その他も実在のものとは無関係です。
なお、文中登場するUNOは関係各社の登録商標ですが、
ルールはあくまでローカルルールであることご了承ください。