鬼切丸オリジナルストーリー

「羅生門の章<後編>」

 

主な登場人物

 

鬼切丸の少年(禿かむろ姿の若者。常に日本刀を携えている)

 

渡辺綱(源頼光の家臣。かつての羅生門の孤児ツナ)

アカガネ(羅生門の孤児たちのリーダー。鬼と化し斬られる)

ナミ(アカガネの妹、ツナの恋人)

 

トンボ(盲目の孤児)

渡辺屋敷の子供たち

公家たち

中納言

関白

 

卜部六郎(北面の武士)

源頼光(北面の武士、源氏一党の棟梁。渡辺と卜部の主君)

 

 

 

(炎を背後に、鬼面を手にして優雅に立つ、ナミのイメージ)

N「追われるものの怒りが、悲しみが。鬼気を呼び、人を鬼と変える。

(重ねて、前編の再現。燃える羅生門で腕を切り落とすツナ、悲鳴をあげるナミ、鬼と変貌するアカガネ、それを斬る鬼切丸の少年)

N「だが・・・願いが、望みが・・・人を鬼と化すこともある。

(ナミ、ゆっくりと鬼面を顔にかざす)

(前編の再現。塵と化すアカガネ。

(炎のはざまに姿を消す、前編のナミ)

それが・・・ささやかな望みであろうと

(ナミのイメージ。顔と鬼面との隙間からのぞく口元に、鬼の牙が生えている。

(そして・・・、斬られたアカガネの腕を抱きしめ、炎の中に立つツナの姿)

 

(立派な礼装、侍装束のツナ・・・いや、渡辺綱。

(同じく礼服姿の源頼光に付き従い、御殿で関白に拝謁している。

(斬られたアカガネの腕、布をかぶせた状態で三方にのせられ二人の前に置かれている。

鬼に変貌する前に斬られたので、アカガネの腕はたくましい人間のままである)

頼光「これが・・・わが郎党、渡辺綱の切り落とせし鬼の右腕にてござりまする」

関白「見せい」

(頼光、布を取り去り腕をあらわにする。

(腕に顔を背ける公家、女官たち。

(綱の脳裏にうかぶ、腕を斬られるアカガネの姿)

関白「頼光・・・それから、綱とやら」

頼光「ははっ!(平伏)」

綱「はっ(頼光に従い平伏)」

関白「こたびの働き、大儀であった。京洛がす退治たこと、まことにあっぱれであるぞ」

綱N「・・・鬼? 違う」

(再び綱の脳裏に浮かぶ、アカガネ、ナミとの楽しい思い出。

(鬼と化したアカガネの姿)

綱N「ちがう・・・鬼なんかじゃない・・・」

頼光「(さえぎるように)ははーっ!」

関白「褒美の儀は後に沙汰が下るであろうが・・・武勲の証としてその腕を、その方たちに遣わす」

頼光「はっ! ありがたき幸せにございまする

 

(京の表通り。頼光と配下の武者行列。

(馬上の三騎、頼光と、つき従う卜部そして綱)

 

群衆「あれが・・・渡辺綱様か」

群衆「羅生門に巣喰う鬼の片腕を切り落としたそうな」

群衆「なんでも、あの腰にある髭切の太刀で切ったそうじゃ」

群衆「なるほど、強そうなお姿じゃ」

 

(沈んだ表情の綱)

卜部「おい、もっと胸を張らんか」

綱「・・・」

卜部「昔はどうあれ、おまえはいまや頼光公配下の渡辺綱だ。誰に気兼ねすることがあるか」

綱「・・・」

卜部「・・・なあ、忘れるんだ

綱「・・・す、すみません」

 

綱「・・・おや、あいつは・・・」

(群衆の中から鬼切丸の少年、行列に立ちはだかるようにあらわれる。

(少年を無視するように通り過ぎていく行列。

(隣の卜部が少年に気づかないのを見て、驚く綱)

鬼切丸の少年「鬼退治の英雄か・・・偉くなったもんだな

綱「お、おまえは・・・!」

鬼切丸の少年「忠告しておこう。おまえが斬り落としたその腕、鬼気がぷんぷんしてるぜ

綱「・・・(絶句)」

鬼切丸の少年「早いうちに、供養してやることだな・・・なあ、頼光よ

(綱、頼光を振り返る。

(同じく少年を見つめ、呆然としている頼光)

 

頼光の館。頼光と綱が二人きりで対面している。

(頼光の口から語られている鬼切丸の少年の思い出。

墓地からわき上がる巨大な鬼と少年、大鎧の侍たち。そして、若き日の頼光)

頼光「もう・・・何十年も昔のことだ

(侍を次々喰らう鬼。

(それに襲いかかる、鬼切丸の少年)

頼光「親爺が斬った骸に、鬼が憑いた。戸隠の・・・討伐に向かった山中で、奴と出会った」

綱「そんな昔に・・・奴は、いったい・・・」

頼光「奴に名はない。そして・・・人間ですら、ない。すべての鬼を斬った後に、はじめて人間としての名をもらえる・・・そう、信じておる。ただ、刀の名を鬼切丸と・・・」

頼光N「同族殺しの純血の鬼の持つ、神器名剣鬼切丸という

(鬼を両断する少年)

N「(頼光の思いと少年の叫びがかぶるように)唯一、鬼の肉をも断つ!

(両断され塵と化す鬼)

頼光「・・・奴のいうとおりだな」

綱「・・・お館・・・」

頼光「早う弔ってやらねばな・・・下がってよい」

(立ち去る綱)

頼光「(綱の背中に)すまなかったな

(振り向く綱)

頼光「アカガネを・・・そちの兄、助けてやれなんだ・・・

(黙礼して去る綱)

 

焼け崩れ、廃墟と化した羅生門。

(たった一人で訪れる綱。

(焼けこげた建材が明るい月の光にシルエットと化し、

(影となって綱の足元まで伸びている)

綱N「・・・今と昔。いずれが、夢か・・・

(鬼と化すアカガネ、炎に消えるナミの姿。

(思わず顔を覆う綱)

綱「(かぶりを振って)これで・・・これで、よかったんだ

(門の陰にあらわれる、女の面影。

手指、足先、髪が、廃墟を駆けるように見え隠れする)

綱「(気づいて)・・・ナミ?」

(綱、ナミを追い廃墟に進みゆく)

 

(門内を往く、女の気配。

(それを追う綱)

綱「ナミ! ナミなのか!?」

壊れかけた梯子を登る綱。

(そして綱、人気のない階上にたどりつく)

綱「ナミ! どうした、何故逃げるんだ!

「俺だよ、・・・ツナだよ!」

(誰もいない空間に呼びかける綱)

ナミ「(声だけ)か・・・え・・・せ

綱「?(振り返る)」

(振り返る綱。

(その背後、梁の上にあたかも蜥蜴の如くへばりついて、綱を見下ろすナミの姿。

(鬼に変貌したナミ。目元は人間のまま、額に2本の角、口に無数の牙)

 

ナミ「に・・・い・・・さんを・・・か・・・え・・・せぇ・・・!

(梁から跳びかかるナミ。

(それを阻むように、鬼切丸の少年登場。

(ナミ、鬼切丸の一閃をかろうじてかわす)

ナミ「・・・!(音にならない咆哮)」

綱「(茫然と)ナ・・・ミ・・・?」

鬼切丸の少年「女・・・鬼に堕ちたな

(ナミ、きびすを返して逃げ去ろうとする)

鬼切丸の少年「待てぇっっ!

(ナミを追おうとした鬼切丸の少年。

(それに抱きついて、妨害する綱)

鬼切丸の少年「放せっ!(綱を振り払う)」

(投げ出される綱。

(その間にナミ、闇の向こうに消える)

鬼切丸の少年「なぜ・・・邪魔を!

綱「あいつは・・・あいつは・・・」

鬼切丸の少年「鬼気に呑み込まれた哀れな女さ・・・もはや、ただの鬼だ

(言葉を失い、茫然としている綱)

鬼切丸の少年「(鬼切丸を鞘に納め)鬼ならば、塵にかえすまでよ

 

(頼光の館。

上座中納言座し、平伏する頼光と綱に対峙。

(中納言の従者・女官達、頼光らを囲むよう列座。

(神経質そうな細面の中納言、扇を片手に不機嫌な表情

中納言「ほう、すると鬼の腕は見せられぬと申すか」

頼光「・・・畏れながら」

中納言「わざわざ、かようなむさ苦しきところまで訪うてきた麿に、恥をかかすと申すか」

頼光「申し訳・・・ござりませぬ

中納言「ええい、黙れ黙れっ! かっ、関白に見せて麿には・・・この中納言高取卿には見せられぬと申すか。

「(立ち上がり)聞けば、明日に熊野権現に供養に出すとのこと・・・ふん、阿呆くさいわ。妖魅悪鬼のごときを弔うてやるなどとは、まことに笑止なことよ」

(中納言、頼光らにを投げつける。

(扇、頼光に当たり、傍らの綱の目前に落ちる。

平伏したまま扇を、それから中納言をにらみつける綱)

中納言「ひっ・・・な、何だその眼は・・・北面の番犬づれが!」

頼光「綱・・・腕を持てい

綱「お館っ!」

(頼光、綱を無言で制する)

綱「う・・・(立つ)」

 

(渡辺屋敷。庭先で遊んでいる子供たち。

(その群れから少し離れたところで、ひとり遊ぶトンボ。

(顔を鬼面で隠したナミ、現れる)

トンボ「(気配に気づき)誰?」

(トンボ、ナミに近寄る)

トンボ「(手を取って)あ・・・ナミ姉ちゃん、だね」

(無言のまま、トンボを見おろすナミ)

トンボ「戻ってきてくれたんだ!・・・ツナ兄ちゃん、ずっと待ってたよ」

ナミ「ツ・・・ナ・・・

トンボ「うん! 今ね、頼光さまのお屋敷に行ってるよ」

ナミ「よ、り、み、つ・・・?

(突然ナミ、咆哮する。

(その鬼面の下より、牙の生えた口がのぞく。

(ナミ、トンボの手を振り払い、一目散に庭を駆け出す)

トンボ「どこ行くの? ナミ姉ちゃん!

 

(頼光の館。

(綱が運んできた箱入りのアカガネの腕、中納言に捧げ渡される。

(腕が運ばれる情景の中で、以下のとおり綱と卜部の会話がNとして挿入される)

 

綱N「卜部さん、どうして、どうしてあんな奴らのいうことを聞かなければならないんだ!」

卜部N「・・・貴族の機嫌を損ねるわけにはいかん。我らは、所詮朝廷の雇われ者・・・力をつけるまで、今の立場を失う事は許されぬ」

綱N「力をつけるまでって・・・いつまで、いつまでこんな我慢をしなければ・・・」

卜部N「・・・なあ、わかってくれ綱。お館さまとて、おつらいのだ」

 

(中納言、好奇にみちた眼で箱を開き、腕をうかがう)

中納言「ほう・・・これが鬼の腕か」

(中納言、扇に乗せて腕を取りだし、しげしげとながめる。

無表情のまま平伏している、綱と頼光)

 

中納言「(女官達に)ほれ、その方たちとく見るがよい!

(中納言、戯れるように腕を女官達に投げ出す。

(悲鳴をあげてよける女官。自然、放り出された腕が床に転がる。

(中納言、腕を拾って女たちに突きつける)

中納言「ほほほほ、これなるは羅生門に巣喰いし鬼の腕なるぞ!

逃げる女たちと中納言、追っかけっこのようになる)

 

(平伏しながらも、苦々しい面もちの頼光。

(ふと、隣の綱の尋常ならざる様子気づく)

綱「(伏せたままだが怒りの形相)や・・・やめろ・・・

頼光「おい・・・綱?」

(綱の回想。アカガネとナミ、ツナの3人でいるイメージ)

N「偉くなって、みんなで幸せになりたいんだ」

綱N「偉くなったから、それが何だというんだ」

「あんな連中にへつらうために・・・、アカガネとナミを失くしたというのか?」

N「(綱の心の叫びと重なって)ただ一緒にいられれば、それで良かったのに!」

綱「(立ち上がって)それ以上、汚い手で触るなぁ!

(凍る周囲の人々。一瞬の沈黙)

 

中納言「おっ・・・おのれ下郎! 麿は中納言高取の・・・」

(中納言の従者、綱を取り囲む。

(その刹那、室外がにわかに騒々しくなり、頼光の郎党が駆け込んでくる)

郎党1「出会えーっ、狼藉者ぞ!」

郎党2「お館、一大事でございます!」

頼光「(郎党に)な・・・何事だっ!」

郎党3「お・・・鬼が・・・」

頼光「鬼?

 

(広間の外の庭より、ナミの変化した鬼、走り寄ってくる。

(その速さに、頼光の郎党ら誰も手出しができない)

綱「・・・ナミ?」

ナミ「ツ、ナ・・・兄・・・さ、ん

(ナミ、跳躍して綱らのいる部屋に侵入。

(腕を手にして茫然としたままの中納言の前におどりかかる)

ナミ「(空中で、咆哮に似た叫び)にいさぁぁぁぁぁん!

(ナミ、中納言より腕を奪い取る。

(ナミ、奪った腕を牙の生えた口でくわえ、一同を見据えるように立ちはだかる。

(それに重なるように、次のN入る)

N「ただ、悔やんでいた。

「ただ、愛していた。

「ただ・・・せめて、もう一度会いたかった。

「ただそれだけの、ごくささやかな思いが、

「時として鬼気を招き、鬼気に招かれ・・・」

 

(Nに重なり、京洛の路上。

(鬼気を感じて激しくうなり出す鬼切丸と、それに気づいた鬼切丸の少年)

N「鬼を産み出すことがある」

 

(ナミの触れたアカガネの腕、夥しい煙を吐き出しながら、

(切り口から肉を盛り上がらせ・・・やがて、巨大な鬼の躯を造り出す。

(再生したアカガネの鬼、あたかも産声の如く、文字にならない咆哮をあげる)

綱「(ストップモーションにも似た静謐の中で)・・・アカガネ?」

ナミ「(妙に静まり返った、狂気を思わせる眼で)ああ・・・にいさん・・・

 

中納言「ひっ、ひえぇぇぇ! お、お、おっ・・・鬼じゃあ!

(静寂を破られて怒ったかのように、アカガネの鬼、中納言に目を向ける)

中納言「(腰を抜かして)ぶぶぶ、無礼者っ!・・・麿はちゅうなごんたかとり・・・!」

(アカガネの鬼、叫ぶ中納言の首をその爪で切り裂く。

(鮮血ともにがる生首に、悲鳴をあげる女官たち。

(アカガネの鬼、そのまま、女官と従者たちを虐殺しながら、庭から屋敷の外へ向かう。

(ナミ、その腕にしがみつくようにして、アカガネの鬼にぶら下がっている。

(太刀を抜きりかかった頼光、一蹴されて転倒する。

(アカガネの鬼とナミ、そのまま屋敷を脱出する)

綱「お館ッ!」

頼光「(致命傷ではないがかなりの出血。うめきながら)追え・・・追うのだ! 源氏の面目にかけて奴らを・・・鬼を仕留めよ!

 

(次々と戦装束に身を固め屋敷を出る、卜部ら頼光の郎党たち。

(綱、それに先立って単騎、髭切の太刀をたずさえて鬼を追う)

綱N「ナミ・・・アカガネ・・・。あれは、お前たちなのか?

「もしお前たちなら、お前たちが行くとするなら・・・、あそこしかない!」

満月の光に輪郭を浮かび上がらせる、羅生門の廃墟。

(綱の乗った馬、いななきをあげて門前に停まる)

綱N「お前たちなら・・・おまえたちなら・・・」

 

(馬を下りた綱、ゆっくりと門に歩み寄る)

綱「あ・・・」

(綱の視線の先、廃墟をバックに音もなく佇む二体の鬼。

(巨大なアカガネの鬼と、その腕に抱かれたナミの鬼。

(ナミの鬼、安らかにその瞳を閉じている。

(蒼く無慈悲な夜半の月の下、あたかもそれは調和のとれた絵画のごとき姿)

綱「アカガネ・・・、ナミ・・・か?」

 

(綱、二体にむかってゆっくり近づき、間合いを縮めていく)

綱「ああ・・・やはり、お前たちなのか・・・」

(鞘ぐるみ手にしていた髭切の太刀、綱の手を離れ、乾いた音を立てて落ちる。

(その音に気づき、ナミの鬼、静かに目を開く)

ナミの鬼「(ナミの瞳で)つ・・・な・・・?

 

(ナミの鬼、アカガネの鬼の腕を離れ、綱に歩み寄ってくる。

(アカガネの鬼、ナミの鬼と同じポーズで後に付き従う。

綱N「やっと・・・やっと、気づいたんだ」

(綱、怯みも躊躇もせず、鬼たちに近づいていく)

綱N「豊かな暮らし、立身と引き換えに・・・己が、何を失ったのかを・・・

ナミN「(思い出に浮かぶ、人間だった頃の姿で)そう・・・本当の願いは・・・ただ・・・」

N「(綱とナミの思いが重なるように)一緒にいられれば、それでよかったのに!

 

(綱、ナミの鬼に向かって両手を差しだす。

(ナミの鬼、そしてその後ろのアカガネの鬼、綱を包みこむように両腕をのばす。

(指先に鋭い爪のはえた両手が、優しく綱に襲いかかる。

刹那。

(鬼切丸の少年、アカガネの鬼を背後から袈裟懸けに斬る。

(飛び散るおびただしい体液)

アカガネの鬼「・・・!(悲鳴に似た咆哮)」

鬼切丸の少年「(アカガネの鬼に)この死に損ないが!」

鬼切丸を正眼に構えた、鬼切丸の少年)

鬼切丸の少年「今度こそ、この鬼切丸で引導を渡してやるぜ!」

(それに襲いかかる、アカガネの鬼とナミの鬼。

(その闘いを、呆然と見守ることしかできない綱)

 

綱「アカガネ・・・ナミぃーっ!」

(綱、髭切の太刀を拾い、駆けながら抜き払い、

(鬼に対峙する鬼切丸の少年に斬りかかる)

鬼切丸の少年「!(防いで)・・・おまえは!」

綱「やめろ・・・二人を・・・」

鬼切丸の少年「(斬り結びながら)ばかっ、鬼の呪縛に捕らわれるな!」

綱「ちがう!

綱N「(内心の声として)これは・・・呪縛ではない」

N「それは・・・失ったものへの、たったひとつの償い

綱N「アカガネ・・・ナミ・・・

「いや、もう誰でもいい。この身に・・・

「二人を・・・かけがえのないものを裏切った、報いを与えてくれ!」

 

(鬼と綱と、鬼切丸の少年。三つどもえの対峙。

(しつこく喰らい下がる綱と、防戦一方の鬼切丸の少年。

(時たま少年の背後より襲いかかる、アカガネとナミの鬼)

鬼切丸の少年「ちいっ・・・このままでは!

(鬼切丸の少年の背中。着物が破れて、大きな傷がついている)

綱「さあ・・・殺してくれよ・・・

鬼切丸の少年「(意を決して)ならば!

 

(鬼切丸の少年、綱の隙だらけの胴めがけて、鬼切丸を薙ぎ払おうとする。

(それをかいくぐって肉迫したナミの鬼、綱を抱きかかえるように、地面に押し倒す。

(襲っているようにも、庇っているようにも見える。

(その後ろのアカガネの鬼、鬼切丸の少年に襲いかかる。

(鬼切丸の少年、アカガネの鬼にむかって鬼切丸を真っ向に振り下ろす)

(脳天を割られたアカガネの鬼、断末魔をあげ、塵に還る)

 

(ナミの鬼と綱、抱きあうような格好で地に倒れている。

綱「ナミ・・・どうした?

お前たちを鬼に堕とした男だぞ・・・さあ、殺してくれよ!

(ナミの鬼、綱を押し倒したまま動かない。

(うつぶせになっているため、顔が見えない状態)

綱「おい・・・ナミ?」

ナミの鬼「・・・かった・・・

綱「?」

ナミの鬼その顔を上げ、綱に見せる。

(その顔には角と牙が消え、人間の頃の優しい表情)

ナミ「・・・よかった・・・

綱「(ナミを見て)!」

ナミ「(微笑んで)よかった・・・生きてて・・・ツナ・・・

(ナミの鬼、顔のみならずその姿が人間になっている。

(ただし、その背中は見えないような構図)

 

綱「ナミ・・・!」

ナミ「ツナ!」

(固く抱きあう二人。

(不意に、綱の脳裏に流れ込んでくるイメージ。

(子供たちと仲良く遊んでいる、ツナ、ナミ、アカガネの姿。

綱「・・・ナミ、おまえは・・・?

(ナミ、綱に微笑みかけながら次第に姿を薄めていく。

(ナミ消え、その姿がもとの鬼に戻る。

(いつの間にかその背に、深々と鬼切丸が突き刺さっている。

(ナミの鬼、音を立てずゆっくりと、綱の腕の中で塵に還っていく。

(鬼切丸の少年、ナミの鬼の背から無言のうちに鬼切丸を引き抜く)

 

(すべてが終わる。

(二体の鬼が崩れ去り、煙のように塵と化し、無に戻っていく。

(それを見つめている綱。

(綱、叫びとともに、髭切の太刀を喉に突き立てようとする。

(だが、何者かに頬を張られ地に転がる。

(鞘に納めた鬼切丸を手にした、鬼切丸の少年。綱をにらんでいる)

鬼切丸の少年「まだ、わからねえのか

綱「・・・!」

鬼切丸の少年「あの女はおまえに・・・生きろといったんだ

N「そう、それが償い

(かつての回想のイメージ。子供たちと仲良く遊ぶツナ、ナミ、アカガネ)

N「失ったものはもう還らない。ただ・・・

(同じ構図で、子供たちと仲良く遊ぶ綱)

N「二度と失わないこと・・・それこそが、本当の償い

 

(FIN)

(H11.5.6_R.YASUOKA)
(Based_on_'ONIKIRIMARU'
by_KEI KUSUNOKI)