鬼切丸オリジナルストーリー
「鬼切丸小劇場〜鬼弔いの章〜」
プロローグ
はるかな昔に鬼のしかばねから生まれた、名も無き純血の鬼がいた。
同族殺しを天命とする彼は、角のないかわりに神器名剣鬼切丸をたずさえ、すべての鬼を斬れば人間になれると信じて永遠の時間の中をさすらっている。
しかし、鬼は時として人間の心に巣喰い、人間の中から生みだされ、けして絶えることがない。
那由多の鬼を塵にかえしながら、鬼切丸は今日も、鬼を斬る。
1
(町娘の姿をした鬼、若侍姿をした鬼切丸の少年に追われている。
鬼切丸の少年「喰らった女の姿に化ける鬼め、鬼切丸で斬ってくれよう」
鬼「やられるものかぁ、鬼切丸めぇ!」
鬼切丸の少年「逃がすかっ!」
鬼N「このままではかなわない。
逃げ道はないか、
逃げ場はないか」
(鬼、香寿家の屋敷に逃走。
(開かれていた鬼門である正面玄関より、屋敷内に逃げ込む)
香寿家の男A「鬼が入りこんだぞぉ!」
(閉じられる鬼門。
(鬼の逃げ込んだ部屋の障子、魔除けの札で封じ込められる)
香寿家の男A「鬼門を閉じろ!お札をはりつくせ」
香寿家の男B「やったぞ!鬼をとじこめた!!」
香寿家の老人「あのお侍さまにとどめを・・・」
鬼「待て・・・おろかなる人間ども・・・」
(封じられた部屋の障子に浮かび上がる、女の姿をした鬼のシルエット。
(鬼の声に耳を傾ける香寿家の面々)
鬼「とりひきを、せぬかえ・・・?」
「20年に一人、若い嫁をくれたならば、一族に富と運をさずけようぞ!!」
(呆然とする香寿家の家人たち)
鬼「守り鬼に、なってくれようぞ」
(閉じた鬼門の外、扉を叩き続ける鬼切丸の少年)
鬼切丸の少年「ごめんくださりませ!!」
鬼「ただし、あやつを決して中へ招き入れてはならぬ」
鬼切丸の少年「ごめんくださりませ!」
鬼N「わしがどこにもいかぬかわりに・・・」
鬼切丸の少年「ここを開けてくだされ!!」
鬼「鬼切丸を決して中へ入れるな!!」
2
香寿家の男A「・・・どうしようか、皆の衆」
香寿家の男B「一族の繁栄と引き替えならば・・・娘ひとりの命・・・」
香寿家の老人「待て待て! 鬼にたばかられておるかもしれぬぞ!」
鬼「うそでは・・・ないぞえ」
香寿家の女「それなら、証文に書かせてはいかがでしょうか・・・鬼がどれだけの富を授けてくれるかを、はっきりさせておいた方がよろしくて?」
香寿家の男A「うむ・・・それはいい考えだ!」
香寿家の老人「さすが・・・! 賢いのう」
香寿家の女「あら・・・だてに『ナ○ワ金融道』を読んではございませんわよ・・・そうだわ、今夜のTV版録画予約しなくちゃ!」
香寿家の男A「(鬼に)・・・ということだ。我らにどれだけの富と運を授けるものか、きちんと書面に残してはくれまいか」
鬼「よいぞえ・・・よいぞえ・・・ゲラゲラゲラゲラ!」
香寿家の男B「書式はどうしよう・・・公証人か弁護士、呼んできましょうか」
香寿家の男A「いや・・・そこまですることもなかろう」
香寿家の老人「とりあえず、富と運とを具体的に定義せねばならんのぅ」
鬼「・・・ぐたい、てき・・・?」
香寿家の男A「そうだ。ただ曖昧な定義ではなく、量的にどれだけの財産と幸運が保証されるのか明確にしておかないと、あとで無用のトラブルを起こすことになるからな」
鬼「いや・・・それは・・・とにかくだなっ、一族の繁栄を・・・」
香寿家の男A「だから、それじゃ困るんですよ! 『繁栄』という言葉から連想されるイメージは人それぞれで異なるでしょ? 貧しくても幸せっていう可能性だって考えられるだろうが・・・わかってるんですか!?」
鬼「・・・う、そ・・・それでは」
香寿家の男A「ちょっと待ってなさい。これから家族会議で条件を決めますから」
鬼「かっ、家族会議?・・・いくらなんでも、そんなに複雑に考えなくともよいのでは、ないかえ・・・?」
香寿家の男B「文句あるのか!? あんた」
香寿家の老人「ならば、仕方がないのう・・・お侍さまをご案内して」
香寿家の女「はーい!(鬼門に手をかけ)いらっしゃいませ!!」
鬼「待てっ!! 待ってくれぞえ!・・・わかった、好きにするがよいぞえ」
香寿家の男A「わかればいいんです・・・では皆の衆、鬼側サイドに要求する条件をとりまとめたいと思いますが、いかがかな?」
香寿家の男B「う〜ん、とりあえずは金でしょう? 年間10万両とか、100万両とか」
香寿家の老人「確かにそうじゃが・・・インフレ率も計算に入れないとのう」
香寿家の男A「さすがはご老人! ならば・・・GDPの何%という要求の仕方はどうでしょうか?」
香寿家の老人「そうじゃな・・・それから税金対策も考えぬ事には・・・」
香寿家の男B「国内に限定せず、海外資産のカタチで残してはどうだろうか?」
香寿家の女「あのね・・・お金もいいけど、オカネオカネで心が貧しくなるのも・・・イヤだと思うのよね?」
香寿家の男A「そうか・・・そうだな! うん、心の豊かさも立派な財産だから、それも要求事項に盛り込むとするか」
香寿家の女「そう! うれしいわぁ・・・。それなら一緒に、上流階級にふさわしい品位と教養とか・・・それに美しさなんてのも欲しいわね! やっぱトータルの条件が揃わないと、心の豊かさは考えられないわ」
香寿家の男B「うんうん、知性と品位、教養に美と・・・ね。それならこれに見合った配偶者も要求しようか、なぁ・・・おまえもオトコ、欲しいだろ?」
香寿家の女「まぁ、いやだわ。うふふ・・・」
香寿家の老人「それなら交友関係も忘れてはならぬぞ。曰く、『優れた友人は人の財産である』じゃからな」
香寿家の女「あら・・・それなら子供のことも考えないとね。子宝っていうじゃないの・・・?」
香寿家の男A「うんうん・・・それにしても、これじゃあ書ききれないな・・・」
香寿家の男B「心配ないさ。紙ならまだ何枚でもあるからな」
鬼切丸の少年「(ひたすら戸を叩きながら)ごめんくださりませ!!」
3
香寿家の男A「・・・だいたい、意見は出尽くしたようだな」
鬼「・・・も、もう・・・もうよいかえ?」
香寿家の男A「それでは、これが当方の条件です・・・障子越しで恐縮ですが、直接確認していただけますか?」
鬼「う・・・うむ・・・・・・それにしても、ずいぶんな厚さだぞえ・・・・・・・・・
「げげげげげぇーっ! こ、こんな無茶苦茶な・・・」
香寿家の男B「呑めないっていうのかよ! あんた」
香寿家の老人「・・・そうか、残念じゃな。おい、鬼門を・・・」
香寿家の女「はーい! たいへんお待たせいたしました、お侍さまぁ・・・」
鬼「うげぇぇぇ、ま、待ってくれぞえ・・・・・・・・・
「わ、わかった。何とか努力してみるから・・・」
香寿家の男A「努力では困りますね。確約していただかないことには」
鬼「は、はい・・・必ず実現するから・・・。
「・・・そのかわり、20年に一人の嫁の件は、よしなに・・・」
香寿家の老人「え・・・何の事じゃ? 嫁とは」
鬼「な、何事とは・・・! 若い嫁を差しだすかわりに富と運とを授けると・・・」
香寿家の老人「・・・・・・年を取ると、物忘れがひどいようじゃな。お主たち、聞いておるか?」
香寿家の男A「・・・・・・・・・さあ、初耳ですが・・・?」
香寿家の男B「あのお侍さまを入れないかわりに、コッチのいうことを聞いてくれるって話なんだろ? 確か」
鬼「お、おまえたちっ! さっきわしは確かに・・・」
香寿家の女「聞いてないわよ。なに言ってんの、このひと?・・・あ、鬼か」
鬼「言ったっ! 確かに言ったぞえ!」
香寿家の女「じゃあ・・・いつよっ! 何時何分何曜日!?」
香寿家の老人「まぁまぁ。言ったの言わないのと言い争っても、水掛け論になるばかりじゃろうが」
香寿家の男A「そうですね・・・それでは、鬼サイドより提案のあった『嫁』について討議を行いたいと思います。意見のある人はいませんか?」
香寿家の男B「意見も何も・・・『人命は地球より重い』という言葉があるだろ?」
香寿家の女「そうよね・・・命って、いくらお金を積まれたって買えないものね」
鬼「し、しかし・・・損害賠償なんかで、生涯年収を算出する方法も・・・」
香寿家の老人「部外者は発言を控えてもらおうか」
香寿家の女「そうよっ! 今は家族会議なんだから」
鬼「・・・す、すみません・・・」
香寿家の男B「議長! 代案を提案します」
香寿家の男A「はい、どうぞ」
香寿家の男B「どうでしょうか・・・先方は『20年に一度、娘をよこせ』というのが条件ですから、こちらも大幅に譲歩して『週に三回、生ゴミを与える』ということで条件を提示してみませんか?」
香寿家の男A「週に三回・・・多過ぎはしないだろうか。譲歩しすぎでは・・・」
香寿家の男B「一応、燃えるゴミの日を目安にしてみたけど・・・もう少し減らした方が?」
香寿家の老人「まぁまぁ、こちらがゴネておっても仕方なかろう・・・譲るところは譲っておかなくては」
香寿家の男A「そうですね・・・では皆の衆、ただいまの代案を提示するということで、決議を取りたいと思いますが、いかがでしょうか?」
香寿家の一同「異議なしッ!」
香寿家の男A「全会一致で代案の提示を決議しました。(鬼に)・・・というわけで、これが当方の代案ですが・・・どうです?」
鬼「ばっ、ばっ、馬鹿な・・・人間ども、わしを愚弄する気か・・・!」
香寿家の女「あら、20年に一度が2日に一度にまでなったのよ。アタシなら喜んでOKするけどな」
香寿家の老人「誰も不幸にならない、みんなが幸せになれる方法と思うんじゃが・・・」
香寿家の男B「なあ鬼さんよ、悪いことはいわないからこのへんで条件を飲んどきなよ。交渉決裂にでもなったら、お互い不幸だぜ」
鬼「しかしっ・・・これではいくらなんでも・・・」
香寿家の老人「なんか・・・不満があるようじゃな」
香寿家の男A「譲歩に譲歩を重ねたのにな・・・やむをえん、この話はなかったことに・・・おい」
香寿家の女「・・・残念ね。あなたとは、いいお友達になれると思ったのに(鬼門に手をかける)」
鬼「いやっ、まてまてっ!・・・すこしだけ、その、時間をくれぬかえ・・・?」
香寿家の男A「困りましたな・・・時間って、これ以上何を考えるというのですか?」
香寿家の男B「迷うだけ損! 決めるならホラ、今しかないよ!」
香寿家の老人「さぁ! 条件を呑むか、お侍さんに斬られるか二つに一つじゃぞ!」
香寿家の女「モタモタしないのっ!」
鬼「おっ、おのれ・・・この、悪魔っ! 鬼ぃーッ!!!!!!」
鬼切丸の少年「・・・鬼!」
(鬼切丸の少年、いきなり現れてその場にいる全員をたたっ斬る)
鬼切丸の少年「鬼ならば、鬼切丸で斬るまでよ!」
一同「む・・・むごひ・・・(ガク)」
エピローグ
はるかな昔に鬼のしかばねから生まれた、名も無き純血の鬼がいた。
同族殺しを天命とする彼は、角のないかわりに神器名剣鬼切丸をたずさえ、すべての鬼を斬れば人間になれると信じて永遠の時間の中をさすらっている。
しかし、鬼は時として人間の心に巣喰い、人間の中から生みだされ、けして絶えることがない。
那由多の鬼を塵にかえしながら、鬼切丸は今日も、鬼を斬る。
(fin)
(H11.05.15 R.YASUOKA)
(based on;
('ONIKIRIMARU'#15,chapter1-2"ONITOMURAI";
(by Kei Kusunoki)