起承転結オリジナルストーリー
「蜉蝣(かげろう)」
蜉蝣が一匹部屋に迷い込んだ。
ほら。
音も立てず、天井近くを、漂うように飛んでいる。
壁に留まって一息ついたかと思うと、すぐさま舞い上がる。
窓へ向かうと見せて、戻る。
蛍光灯の下を抜けたとき、一瞬、乳白色の体が透きとおった。
蜉蝣は数日しか生きないと聞く。
羽ばたきがあんなに弱々しいのは、
その終焉を迎えているからなのか。
がんばれ。
窓から外へ追いやろうと手を差しのべる。
その掌を避けようと高く昇りかけ、
そこで力尽き、まっすぐ、落ちた。
しばらく畳の上で力無く蠢いていたが、
それもやがて止まった。
蜉蝣は数日しか生きないと聞く。
生命の儚さというものに思いを馳せたそのとき、
しまった。
気がついて、伸ばしていた手を引っ込めた。
今さら遅いと判っていたが、消さずにはいられなかった。
机に置いた、電気蚊取り器のスイッチを。
(fin)
(H19.5.25_R.YASUOKA)