茶房「起承転結」オリジナルストーリー
「これは作り話」

 

まずはじめにお断りしておきますが、

この話は作り話です。

本当に起こったことではありません。

 

大学時代につきあっていた彼女から聞いた話です。

彼女が当時アルバイトしていたコンビニエンスストアに、

もう何年も前から伝わっていた話だそうです。

 

そのコンビニは駅前通りに面していて、

通勤通学の途中に立ち寄る買物客でにぎわっていました。

もうかなり前のことになるのですが、駅の近くに保育所があって、

そこに××ちゃんという女の子がいました。

お母さんと二人暮らしで、

お母さんが仕事に出ている間、保育所に預かってもらっていたそうです。

夜になって、仕事を終えたお母さんが保育所から××ちゃんを迎えて、

家への帰り道に、そのコンビニによく立ち寄っていたそうです。

××ちゃんは、お気に入りの赤い帽子をいつもかぶっていて、

いつもうれしそうに、お母さんと仲良く買物をしていました。

特に、○○○という子供向け雑誌が大好きで、毎月の発売日には必ず買いに来たそうです。

他の買い物は全部お母さんがするのですが、

その○○○だけは、自分で抱えてレジまで持ってきていたそうです。

そうして買ってもらった○○○を、大事そうに持って家に帰っていくのだそうです。

 

ところがある日、

××ちゃんのお母さんが、仕事の都合で帰りが遅くなってしまいました。

ちょうどその日は○○○の発売日で、

××ちゃんは早く○○○を読みたくて、

保育所でお母さんの迎えに来るのをずっと待っていたそうです。

ですが、夜中になってもお母さんは現れず、

ついに、

待ちきれなくなった××ちゃんは、ひとりっきりで保育所を抜け出て、

コンビニに向かう途中、交通事故に遭って亡くなってしまったそうです。

 

それからというもの、

毎月、ちょうど○○○の発売日にあたる日の深夜になると、

赤い帽子をかぶった女の子が

「○○○ください」とレジの店員に声をかけるのですが、

店員が雑誌を探そうとしてる合間に、

いつのまにか姿を消してしまうようになったそうです。

 

「この話は、作り話なの」

そこまで話して彼女は言いました。

「あとで調べたらしいんだけど、
誰も××ちゃんなんて知らなかったっていうし、第一、
その店の近所に保育所なんてなかったんだから。

「でもね」

彼女は、そこでちょっと言葉を切りました。 

 

その話を彼女にしたのは、一緒に働いていた先輩だそうで、

その人も、その話が作り話だと断って話してくれたそうです。

ですが、

その数年前、そこで働いていた高校生がいたというのですが、 

なんでも演劇部に所属して、芝居の脚本も書いていたそうです。

その人が、部活の夏の合宿で、夜中に、怪談話として

他の部員にこの話を語って聞かせたそうです。

その場にいたという同級生によると、

暗い部屋で、懐中電灯だけをつけた中で、

みんな、息をのんで耳を傾けていたそうです。

そして、その人が話し終えたとき、後輩の一人が、

「本当ですかその話?」と訊いたんだそうです。

訊かれてその人は、

「そうだよ。本当にあった話だって」と応えたそうです。

 

そのとき、

ろうそく替わりに灯していた懐中電灯が消えてしまったので、 

部屋が真っ暗になってしまいました。

そして……電気が再びついたとき、

話していたその人の姿は、どこにもなくなっていたそうです。

 

みんな、はじめは先に帰ったのか、それとも

何かいたずらを仕掛けでもしたのかと思ったのですが、

それっきり、その人は行方不明になってしまって

二度と現れなかったそうです。

どこに行ってしまったのか、今もわかりません。

ただ、暗闇の中で、

知らない男の低い声がこう言うのを聞いたそうです。

「なんだ、××ここにいるじゃねえか」

確かに、そう聞こえたそうです。

 

その高校生がどうなったのか、

いったいどうしてそんなことになったのか、それ以上は彼女も知らないそうです。

「だからね」と彼女は言いました。

「この話をするときは、必ず初めに、
『この話は作り話です。本当の話じゃありません』て断らないといけないんだって。
どこで、なにが、聞き耳を立ててるかわかんないから、
絶対に、本当の話みたいに話したり、
本当の話って思われたりしたらいけないんだって」

まるで念を押すように、そのとき、彼女はそう言いました。

その彼女とは、結局別れてしまいましたが、

故郷に戻って就職して、昨年結婚したということです。

今も元気で、無事でいるそうです。

 

最後に、念のため、もう一度お断りしておきます。

この話は作り話です。

本当にあった話ではありません。

 

(FIN)

 

(H14.4.18 R.YASUOKA
(H14.4.19 v1.1
((C)Logic-Construction 2002)

 

おことわり
この話はフィクションです。
登場する、あるいは想起される人物・団体・事件その他は、実在のものとは無関係です。
だって、これは作り話なんですから。