起承転結オリジナルストーリー
猫のパステルとお化け屋敷
彼はパステルという名前の猫です。
絵を描くのが大好きです。
今日もスケッチをしようと、旅をつづけています。
「さあ、今日は何を描こうかニャ」
ある日パステルは、にぎやかな町にやってきました。
「おや、あれはいったい何かニャ」
町のはずれで、パステルは大きな古い屋敷を見つけました。
にぎやかな町の中で、その屋敷だけが暗くさびしく建っていました。
「ねえねえ、このおうちはどうしてこんなに暗いのかニャ」
パステルは町の人たちにたずねました。
「あれはね、お化け屋敷なんだよ」
町の人々は口々にそうこたえました。
「こわいお化けがすんでいて、入った者を頭から食べちゃうのよ」
「だからもう百年も、誰ひとり近づいていないんじゃよ」
「あぶないから、行っちゃダメだよ」
ところが、パステルはそれを聞いて大喜びしました。
「お化け屋敷かニャ! 一度描いてみたいと思ってたニャ」
そしてパステルは、町の人が止めるのもきかず、お化け屋敷の中に入ってしまいました。
「これがお化け屋敷ニャのか、はじめて見るニャ」
夜になりました。パステルは、屋敷の中で一番広い部屋にいました。
「それにしても、ニャんとも暗いし、とってもきたないニャ」
屋敷の中はほこりでいっぱいでした。それに日が暮れてしまったので、よりいっそう暗くなっていたのです。
「ニャっクション!」
パステルは突然、大きなくしゃみをはじめました。ほこりを吸いこんでしまったからです。
「ニャっクション、ニャっクション! 苦しいニャっ・・・クション!」
そこでパステルは考えました。
「うーん、こんなにきたないと絵を描く気にもなれないニャあ・・・そうだ!」
「こうすればいいニャ!」
パステルはいい考えを思いつきました。ポケットから色鉛筆を取り出して、掃除機の絵をかきはじめたのです。
すると・・・絵は、みるみるうちに本物になりました。
それを使って、パステルは屋敷の掃除をはじめたのです。
掃除機はどんどんほこりを集めて、屋敷はすぐにきれいになりました。
「これできれいになったニャ」
パステルはごきげんです。
そのとき、暗やみの中から低い声がきこえてきました。
「俺の家にあがりこんだのはだれだぁ? おまえかぁ!」
パステルがふりむくと、やみの中からお化けがあらわれました。
「やい猫めぇ、俺の家を掃除してくれてありがとぉ。お礼においしく味わって食べてやるからなぁ!」
だけど、パステルはちっともこわがりませんでした。はじめて見るお化けが珍しかったからです。
「お化けだニャ! お化けさんだニャ!」
パステルは大喜びです。その様子にお化けはちょっととまどいました。
「こんにちは、はじめましてだニャ。お化けさん!」
「あ、どうもはじめましてぇ・・・っておまえぇ、俺がこわくないのかぁ? ・・・まぁいいぃ。とにかく食べちゃうぞぉ!」
そういうと、お化けは大きく口をあけました。
けれど、パステルは平気です。
「お化けさん、そんなにおなかがすいているのかニャ? ・・・そうだ、ちょっと待つのだニャ!」
パステルは色鉛筆を取り出して、食べ物をいっぱいかきはじめました。
チョコレート、キャンディ、アイスクリーム。
食べ物が次々に本物になって、お化けの口の中に飲み込まれていきました。
「おいしいかニャ、お化けさん?」
「モグモグ・・・くそぅ、なまいきな猫めぇモグモグ・・・。今すぐぅ、パクパク・・・食べてやるぞぉ! でも、おいしいなぁ・・・パクパク」
お化けが食べているのを見ながら、パステルはスケッチブックをひらきました。
「さあ、これで絵が描けるニャ! ・・・でも、まだ気分がのらないニャあ・・・そうニャ!」
パステルは色鉛筆を手にすると、元気いっぱいに言いました。
「描きやすいように、明るくしてあげるニャ!」
そして、屋敷の中に色を塗りはじめたのです。
暗かった部屋がつぎつぎに、赤や、黄色や、緑色にぬりかえられていきました。
「・・・うぅん、今度はステーキかぁ。肉がやわらかくってなかなか・・・。あぁ、こらぁ! なにするんだぁ?」
その様子に気づいたお化けはびっくりして、パステルをとめようとしました。
「やめてくれぇ、お願いだからぁ、やめてくれぇ! やめないとぉ・・・でもまだステーキが・・・いやいや、待ってくれぇ!」
そうこうしているうちにとうとう、パステルは屋敷じゅうを色とりどりにぬりかえてしまったのでした。
「ああぁ、俺の家がぁ・・・俺の家がぁ!」
すっかり変わってしまった部屋の中で、お化けは頭をかかえて叫びました。
「こんなカラフルな家じゃあぁ、ホラーな俺のイメージにあわないぞぉ。・・・いったいどうしたらいいんだぁ!」
「たしかに、イメージにあわないニャ。お化けさん」
「だろ・・・そうだろぉ? わかってるなら、さっさとぉ・・・」
「う〜ん、そうだニャぁ・・・」
パステルはお化けに近づきました。その手には色鉛筆が握られていました。
「よしっ! こうニャったら、お化けさんも明るくぬりかえてしまうニャ!」
「な、な、なんだってぇ? ・・・待て、待てぇ。怖いよぉ・・・助けてくれぇ!」
朝になりました。町の人たちが屋敷のまわりに集まってきました。
「きのう入っていった猫、だいじょうぶかなあ」
「かわいそうに。あの猫ちゃん、きっと食べられてしまったのよ」
「本当に心配じゃなぁ・・・だけど、屋敷の様子が変じゃぞ」
「もっと近くに行ってみよう」
みんなはそう言いながら、屋敷に近づきました。
よくみると、屋敷はきれいな色にぬりかえられていたのでした。みんなは口々にこういいました。
「みてみて、あのお化け屋敷が、あんなにきれいになっているわ!」
「あれがお化け屋敷だって? まるで・・・遊園地みたいだな!」
「あんなのじゃちっとも、こわくないじゃないか」
「みんな、中にはいってみよう。猫がどうなっているか心配じゃ」
屋敷に入った町の人たちは、部屋の中まで明るくきれいになっているのに本当にびっくりしました。それから、お化け屋敷が生まれ変わったことを記念してパーティーを開くことにしました。
たくさんの料理が持ち寄られて、音楽が演奏されて、大人も、子どもも、みんなで輪になって踊りました。
お化けは・・・お化けはというと、子どもたちの中にまじって一緒に踊っていました。パステルにぬりかえられてしまったので、誰もお化けだとは気がつきません。
「うわぁぁん。もう誰もぉ、俺のことをぉ、こわがってくれないよぉ。・・・だけど変だぞぅ。なんだかぁ、うれしいなぁ!」
そんな様子を見て、パステルはにっこり笑ってスケッチをはじめました。
「これでやっと、いい絵が描けるニャ・・・よかったニャ!」
彼はパステルという名前の猫です。
絵を描くのが大好きです。
今日もスケッチをしようと、旅をつづけています。
「さあ、今日は何を描こうかニャ」
もしかしたら君の町にやってくるかも、しれませんね。
おしまい
(H7.7.7)
(Written by R.Yasuoka)