THEビッグオー オリジナルストーリー
「Intermission 01:
「The PAPETT MASTER」
Chapter 03
scene#10:THE CIRCUS
OF THE MECHANICAL
(PART4)
(サーカスの丸舞台。
(身動きとれないロジャー、空中ブランコからぶら下がっている。
(アシハナ、ロジャーに近寄り、
(彼の耳元に頬を寄せる)
アシハナ「兄さん、あんたを見たときからね」
ロジャー「……」
アシハナ「あたしの中の何かが告げてんですよ。
「兄さん、あんたがね……
「あたしらの『
(アシハナ、手を伸ばして
(指先でロジャーの顎のラインをなぞる)
ロジャー「くっ……
「わ、私が、40年前に失われた貴様の『
アシハナ「ご冗談を。
「そんな昔に兄さんが生まれてるわけねぇじゃねぇですかい」
ロジャー「ならば、私とお前たちの『
「何の関係があるというのだ!」
アシハナ「そうですよねぇ……あたしだって本音は、ばかばかしいと思ってるんですよ」
(アシハナの心象、セピア色のロジャー。
(アシハナ、ロジャーの耳元に唇を寄せる)
アシハナ「だけどきっと、
「あんたに会えば、
「あんたとやりあえば、
「きっとそれがわかるんだと思ってた。
「兄さん、
「あんたに会えば……そう思って、あんたに焦がれていたんですよ。兄さん。
「でも……
「兄さん、あんたは応えてくれねぇんですね」
(アシハナ、ロジャーから身を離す。
(数歩離れて再び、拳銃を構える)
ロジャー「……(息を呑む)……」
scene#11:THE CIRCUS
OF THE MECHANICAL
(PART5)
(ドロシー、『CLOSE』の表示も気に留めず中へと押し通る。
(廊下の途中で番をしていたハザマ、ドロシーに気付くと
(ドロシーを通せんぼするように前に立ちふさがる)
ハザマ「おう、今日は休演だぜ」
ドロシー「ロジャーはいる?」
ハザマ「なんでぇ……嬢ちゃん、あんた、奴の知り合いか?」
ドロシー「ロジャーに会わせて」
ハザマ「……何だと?」
ドロシー「大事な用なの」
ハザマ「ふざけるな! おぅ、オレを甘く見ると女だからって容赦……!」
(ハザマ、ドロシーの両肩を鷲掴みにし、吊り上げようとする。
(だが、
(自重130kg(設定資料より)のドロシーが、
(そう簡単に持ち上がるわけがない)
ハザマ「あ、あれ……? くぅ……! うっ……(力む)」
ドロシー「どうしたの」
ハザマ「おめぇ……
「重いな……」
(ハザマを無表情に見るドロシー、
(その瞳が一瞬だけ小さくなる。
ドロシー「あなたこそ甘く見ないで」
(ドロシー、ハザマの両肩に手を伸ばし、
(たった今ハザマにされたように、鷲掴みにして吊り上げる)
ハザマ
「ひ
ゃ
あ
あ
あ
っ
!」
ドロシー「ロジャーに会わせて。お願い」
scene#12:THE CIRCUS
OF THE MECHANICAL
(PART6)
アシハナ「あんたに会うべきじゃなかったのかも知れねぇな。兄さん」
(丸舞台。
(銃を構えたアシハナ、ロジャーに照準をあわせる。
(その最中、気配を感じて振り返る。
(通路からハザマ現れ、立っている)
ハザマ「兄貴……その……お客さんです……」
アシハナ「なんだと?」
ハザマ「ですから……その……お客さんが……」
アシハナ「ハザマぁ……誰も通すなってことくれぇ、言わなくてもわかるもんじゃ……」
ドロシー「ロジャー」
(ハザマの背後からドロシー、姿を現し、ゆっくりとロジャーに接近する)
ドロシー「(通り過ぎざま、ハザマに綿菓子を渡して)ありがとう、これあげる」
(アシハナとロジャーの前でドロシー、
(どこから出したかこうもり傘を取り出し、ロジャーに差し出す。
(アシハナ、そしてロジャー自身も、呆気にとられてドロシーを見守っている)
ドロシー「ほら、忘れ物よ」
ロジャー「……(絶句)……」
アシハナ「……(絶句)……」
ドロシー「前線を伴った低気圧が接近しているわ。
「気圧と湿度の推移を
「過去10年分のデータを元に解析した演算結果によると、
「もう5分もすれば、雨になるはずよ」
ロジャー「……ドロシー……どうやって、ここに……」
ドロシー「あの人にお願いしたの」
(アシハナとロジャーの視線、ハザマに向けられる。
(ハザマ、バツが悪そうに苦笑いしつつ、
ハザマ「……あにきぃ〜〜♪……」
(などと、手に持った綿菓子を振ってみせる)
ロジャー「……そういう物は、家を出るときに渡してもらいたいものだ」
ドロシー「何度も言ったわ、覚えてないのね」
ロジャー「くっ……ともかくだ、」
ドロシー「で、どうなの? ロジャー」
ロジャー「ん?」
ドロシー「自力でなんとかできる? それとも助けて欲しいの?」
ロジャー「くっ……」
(銃声。
(ハザマが持っていた綿菓子、空中で破裂する)
ハザマ「ひっ……ひゃああああっ!」
(煙が立ちのぼる銃口。
(アシハナ、構えた拳銃をゆっくりとポケットに戻す)
アシハナ「くっ、くっくっくっ……」
(マリオネット、結びつけられた糸を切り離して
(空中ブランコから飛び降りるように落下、アシハナの手元に戻る。
(アシハナ、マリオネットをコートのポケットに収める。
(だが、ロジャーを縛っている何本かの糸はいまだ残り、
(ロジャーの体は宙にぶら下がったままでいる)
アシハナ「どうやら、とんだ邪魔が入っちまったようですねぇ」
ハザマ「あ、あにきぃ……」
アシハナ「やる気、なくなっちまった……ハザマ、今日はしまいだ。行くぜ」
ハザマ「へっ?……ですが兄貴、行くってどこへ……」
アシハナ「うるせぇ! ほら、車回してくんな」
ハザマ「へぇ……(去る)」
(アシハナ、悠然と会釈しながらドロシーの脇を通る)
ドロシー「あなた」
アシハナ「……へ?」
ドロシー「どうして、ロジャーを狙うの?」
アシハナ「……(微笑して去る)……」
(取り残されるロジャー、そしてドロシー。
(ドロシー、吊り上げられたままのロジャーの正面に立つ)
ドロシー「ロジャー(見上げて)」
ロジャー「くっ……」
ドロシー「……で、どうなの? ロジャー」
ロジャー「ど、ドロシーぃ!」
(灰色の空の下、テントのある風景)
scene#13:DRIVIN' IN THE RAIN
(テント裏。資材が積み重ねられ、駐車スペースになっている。
(テントの出入口に立つアシハナ。
(アシハナ、ゆっくりした動作でポケットから煙草を口にくわえ、
(ゆっくりと、ライターを近づける。
(口元のアップ。
(ロジャーに殴られた唇の端が切れ、血がにじんでいる)
アシハナ「(二、三度火をつけ)……ち、シケてやがる」
(車のエンジン音。
(アシハナ、音の方に目をやる。
(古びた乗用車、低速でアシハナの前まで来て、停まる。
(運転席のドア開き、ハザマ降りる)
ハザマ「(アシハナに近寄り)兄貴……その……」
アシハナ「遅かったな」
ハザマ「その、実は……お客さんです」
アシハナ「……え?」
ハザマ「その、ですからまた……お客さんです」
(アシハナ、車を見る。
(後部座席の窓が開き、女、顔をのぞかせる)
アシハナ「また、あんたかい」
(車、走り出す。
(運転席でハンドルを握るハザマ。
(雨が降り始める。
(ワイパー、フロントガラスに降りかかる雨を拭っている。
(車の後部座席、
(並んで、女、アシハナ、座る)
女「私のボスの意思を伝えに来たわ」
アシハナ「けっ……何度も聞きやしたよ。
「あんたのボスは依頼の撤回を望んでる。
「……よござんす、あたしは仕事を取りやめた。
「手付けも返しやした(キャンセル料は差っ引いてね)。
「だから、これからあたしのすることは、
「あんたのボスの意思とは一切関係ねぇことなんですよ」
女「あなた……どうして、彼にこだわるの?」
アシハナ「そいつぁあたしの勝手です。あんたに関係ねぇ」
女「それがあの人の思惑というのが……踊らされているのがわからないの?」
アシハナ「うるせぇ!」
女「……(たじろぐ)……」
アシハナ「……すまねぇ、大声出しちまった」
(雨の道を行く乗用車)
アシハナ「……操られてんのは、わかってんですよ」
女「え?」
アシハナ「でもね、何に操られてるかわかってるから
「……こうしねぇと……あたしを操るもっと大きな手から、逃げられねぇんですよ」
女「……」
アシハナ「……あんた、なんであたしらにつきまとう?」
女「それは……」
アシハナ「あの兄さんが、あたしに殺されんじゃねぇかって?」
女「……」
アシハナ「……(間)……
「ちっ。兄さんが負けるなんて思っちゃいねぇ、か」
女「あなたにも負けて欲しくないの」
アシハナ「ほぉ……惚れたんですかい? このあたしに」
女「彼とあなたは似てるのよ」
アシハナ「え?」
女「そういえばあなたも
「……いえ、
「あなた、私を口説こうとなさらないのね」
アシハナ「あたしの勘が言ってんです……あんた、抱くには危険すぎる」
女「褒め言葉にとっていいのかしら」
(雨の通りを走り行く乗用車)
scene#14:OUT OF DORM 39TH STREET
ハザマ「兄貴……妙です」
アシハナ「ん?」
ハザマ「他の車が、いねぇ」
女「だから、どうしてもあなたを止めたいのよ」
ハザマ「ちきしょっ!」
(ハザマ、ハンドルを急旋回。交差点を曲がる。
(しかし、そこには、
(パラダイム軍警察のパトカーと装甲車、バリケードを張って待ちかまえている。
(背後、パトカーが走り込んで、同様にバリケードを展開、アシハナの車を包囲する。
(軍警察指揮官ダン=ダストン少佐、隊列の先頭に立つ)
ハザマ「こっ、こりゃあ……」
女「悪く思わないでね」
ハザマ「ちきしょ……(女に)てめぇか!」
アシハナ「よしなハザマ、相手は女ですぜ」
女「……(微笑)……」
ハザマ「何がおかしい!」
女「そういうところも一緒なのね。あなたは……」
アシハナ「けっ」
ダストン「(マイクから)軍警察のダストンだ!
「両手を上げて車から降りてこい!」
アシハナ「へいへい(ドアを開ける)」
ハザマ「兄貴」
アシハナ「……ああ。プルチネルラを出してくんな」
(アシハナ、車から降りる。
(雨。
(丁寧に女の手を引いてエスコート)
アシハナ「(女に)傘でもさしたげてぇんですが」
女「いいわよ」
アシハナ「んじゃ、降りたらなるべく遠くに逃げるこってす」
女「え……?」
アシハナ「さあ!」
(女、走り去る)
ダストン「(遠巻きにマイクで)よぅし! そのままゆっくりと歩いてこい」
アシハナ「けっ、やなこった」
(アシハナの背後で、車から煙が吐き出される。
(煙幕の中でハザマ、トランクが開く。
(トランクから黒い影が浮かび上がる)
ダストン「……ば、か、な……
「車のトランクから……メガデウスだと!」
(小回りのセダンのトランク、
(内部に詰め込まれていた機械部品が、
(まるで、からくり細工のように組み上げられながら
(バルーンが膨らんでいくように、巨大な人型機械が次第に形を成していく)
ダストン「(我に返り)……う、撃て撃て!」
(発砲する軍警察。
(その銃弾は、もはや上半身まで具現化したメガデウスにことごとく命中するが、
(メガデウス、全くダメージを受けた様子はない。
(メガデウスの陰で、アシハナ、悠然と黒手袋をはめる)
アシハナ「……わかりやすかい、兄さん?
「何で、こんなもんが使えるのか。
「それすらも、わかりゃしねぇんですよぉ」
(手袋を構えた阿紫花の背後、
(異国の道化師を連想させる姿のメガデウス『プルチネルラ』、巨体をそびえさせている。
(軍警察の探照灯が、その不気味な姿のシルエットを、背後のビルに映し出している)
アシハナ「……はたしてそれが『
「その、ワケのわからねぇものに、あたしらはみぃーんな踊らされてんですよ。
「そう……人形みてぇに……」
(アシハナ、手袋の掌を握りしめる)
アシハナ「……さぁ、きなせえ……ロジャーの兄さん!」
scene#15:CARNIVAL
(カーニバル。
(降り出した雨に右往左往する人々。
(テントを出たロジャー、アシハナらの姿を求めて周囲を探す)
ドロシー「ロジャー」
ロジャー「ドロシー?」
ドロシー「はい(と傘を差し出す)」
ロジャー「え……あ、ありがとう……」
(ロジャー、傘を受け取る)
ロジャー「ところでドロシー、君の傘はあるのかい?」
ドロシー「……」
(ロジャー、口を開きかけたとき、
(左腕の腕時計からアラーム音)
ロジャー「(腕時計に)どうした、ノーマン」
ノーマン「(腕時計の映像で)ロジャー様、
ドロシーに傘を持たせましたが、届きましたでしょうか」
ロジャー「ああ。ありがとう」
ノーマン「それはようございました……
それと、
アウト・オブ・ドーム39番街にメガデウスが現れましたが、いかがなさいますか」
ロジャー「メガデウス……? わかった、私が行こう」
ノーマン「そうですか。よろしくお願い申し上げます」
(通信終わる)
(ロジャー、手にした傘をドロシーに返す)
ロジャー「ドロシー、君はこれで帰るといい」
(左腕の腕時計をマイクに叫ぶ)
ロジャー「ビッグ・オー!」
scene#16:THE BATTLEFIELD
(雨の摩天楼。
(完成した巨大なメガデウス『プルチネルラ』、
(手にした棍棒を武器にして、
(発砲する軍警察の車両を蹂躙する)
ダストン「くっ、撃て撃て!
「ひるむな、軍警察の誇りにかけて、奴を食い止めるんだ!」
(そのとき、
(メインストリートの舗装の路面に亀裂が走り、
(地下から黒いロボット、地上にせり上がってくる。
(乱暴な登場に算を乱す軍警察)
ダストン「黒い、メガデウス……奴か!」
(薄暗いコックピットの中、
(ロジャー=スミスが両腕をクロスさせた状態で構えている)
ロジャー「ビッグ・オー、ショウ・タイム!」
(計器盤のモニターに浮かび上がるメッセージ。
(黒い巨人(メガデウス)『ビッグ・オー』、摩天楼にその姿を現す)
アシハナ「待ってたぜ、兄さん」
(アシハナの操る繰り糸は、
(プルチネルラの体の各所の小さな穴を通って内部の制御機構につながり、
(そこで、プルチネルラの動きをコントロールしている。
(アシハナ、右手を握り込み、引く。
(繰り糸の数本がリールによって巻き取られ、
(それに引っ張られてアシハナの体、宙へ。
(勢いを利用してアシハナ跳躍し、背後のビルの屋上に着地する)
アシハナ「こんどは人形でタイマンといきやしょかっ!」
(アシハナのコートの裾が、雨粒をはじき、ビル風にはためく。
(アシハナ、両手をクロス。
(糸を引かれてプルチネルラ、ビルの上に飛び乗る。
(プルチネルラ、ビルを飛び移り移動)
ロジャー「……なにっ」
アシハナ「ほらね、あたしら、こういうこともできるんですよ!」
(糸を利用してアシハナも隣のビルへジャンプ。
(ビッグ・オーの背後に回り、飛び降りざま棍棒を振りかぶる。
(ビッグ・オー、前膊で棍棒の一撃を食い止める。
(が、勢いに圧されて、ビルを壊しながら転倒する)
scene#17:THE AUDIENCE
(摩天楼で闘うビッグ・オーとプルチネルラ。
(闘いを見守る人々。
(構図、あたかも人形芝居の如く)
scene#18:THE SPECIAL SHEET
(パラダイム社の特別室。
(豪奢な調度品に囲まれたアレックス=ローズウォーター、
(恰幅のいい40代の紳士。
(壁一面に据え付けられたいくつものモニターで、
(ビッグ・オーとプルチネルラの闘いを見ている。
(女、姿を現す)
アレックス「ほら、あれだけ動いても糸が絡まらない……
「異国のメガデウスのテクノロジーはたいしたものだね」
女「なぜ……なぜあなたは、こんなことをなさるのですか」
アレックス「ん?」
女「『
アレックス「僕は途中でやめたんだ。暴走したのはあの男の責任だよ」
女「……!」
アレックス「なんだ。君まで操り人形にされたのが不満なのか?」
女「あ、あなたは……どうしてこんな茶番を!」
アレックス「そうかもしれない、へたくそな茶番だね」
女「えっ」
(モニター、ビッグ・オーが倒される様を映している)
アレックス「考えたことはないかね。
「40年前に失われた『
「元々存在しないのだということを。
「人は、元々持たない『
「このパラダイム・シティという広大な舞台で、
「自分の役を演じているのにすぎないのかもしれないということを
「……誰かの舞台で、誰かのセリフをしゃべっている……
「こう考えると、僕はぞっとするんだ。だから僕は……」
女「……」
アレックス「僕は、彼らに茶番劇を演じさせたのだよ。
「僕自身が筋書きを書き、僕自身が観客であるこの芝居をね」
女「それが、あなたがこの世界の俳優でないと主張するために、ですか。そのためだけに……」
アレックス「そうさ。
「なぜなら僕は、僕は
「……この世界の演出家であり、そして唯一の観客であるのだからね」
(モニター画面、ビッグ・オー起き上がる。
(プルチネルラ、巨体に似つかぬ機動力でめまぐるしく位置を変えビッグ・オーを攻撃)
女「では、聞かせてください。あなたの思い描くシナリオの結末を」
アレックス「ああ。そうだな……
「いかにアサシネイターといえ、『メガデウス・ドミナス』の敵ではないよ。
「自らの存在意義を見いだせないままに、
「彼は斃されるかあるいは……そうだな、
「運良く生き残り、『
「執念深く彼を……ロジャー=スミスをつけ狙う悪役になってもいいな。
「それなら、続編を作ることもできるからね」
女「……」
アレックス「どうしたかね?」
女「……」
アレックス「私を憐れむつもりか?」
女「……」
アレックス「……それもよかろう。
「いつの世も、真の芸術家は大衆とは相容れないものだからね」
女「……あなたは……」
(女、去る。
(残され、モニターに目をやるアレックス)
scene#19:BATTLEFIELD (PART2)
(ビッグ・オーの操縦席。
(圧されるロジャー、表情に焦りが浮かぶ。
(コンソールのモニター、ビルのひとつの屋上に人影。
(拡大表示。糸を操るアシハナの姿)
アシハナ「(モニター上で)兄さんっ、あんただってそうでしょ!」
ロジャー「……!」
アシハナ「兄さん、
「あんただって何でそのメガデウスが操れるのかっ、
「知りてぇって思ってんでしょう? 違いやすかい!」
(ビルの屋上。雨の中糸を操るアシハナ)
アシハナ「なんでそんなもんを操れるのか、
「なんでそんなもんで闘ってるのか、
「兄さん、あんた……あんただって知りてぇんでしょ? ねえ!」
(マリオネット、闇に踊る。
(プルチネルラの棍棒、ビッグ・オーの脇腹に直撃。
(衝撃、コクピットを横揺れに襲う)
アシハナ「あたしゃ……あたしはごめんだ、こんなの!」
(棍棒、連打される)
ロジャー「うっ……!」
アシハナ「なくしちまった『
「わけのわかんねぇまま操られるのはがまんできねぇんだよ!
「……あんただってそうでしょ、兄さん!」
(衝撃に耐え、ロジャー、レバーを力強く押す。
(ビッグ・オーの腕、脇腹に打ち込まれた棍棒を脇に抱え込む)
ロジャー「莫迦な!
「過去に、いかなる『
「人は、今の自分の『意志』によって生きるものだ、
「けして『
(ビッグ・オー、挟み込む力を増す。
(プルチネルラの棍棒、それを引き抜こうと力を増し、せめぎ合いが続く。
(アシハナ、ビルの屋上で糸を操り続ける)
ロジャー「たとえ『
「ビッグ・オーとともにいる現在に迷いなどはしない!」
アシハナ「ふ……ほどけぇ、プルチネルラ……!」
(ビッグ・オー、フルパワーでプルチネルラの棍棒をへし折る。
(よろけるプルチネルラ)
ロジャー「ビッグ・オー! アァァァクション!」
(そこへ、ビッグ・オー、プルチネルラにパンチ。
(ビッグ・オーの拳、プルチネルラの顔にめり込む。
(さらに、肘に仕掛けられたシリンダー、拳を後押しするように撃ち込まれる。
(ビッグ・オーの必殺技『サドン・インパクト』、炸裂。
(衝撃を受けたプルチネルラ、
(体躯を膨張させ、その後、爆発する。
アシハナ「くっ……!」
(炎と煙をあげながら、倒れるプルチネルラ。
(次々と切り離される操り糸が宙に舞い、降りかかる雨粒をきらめかせる)
アシハナ「……あーあ。(舌打ち)今日はついてねぇや」
(アシハナ、コートをひるがえして爆風を避け、
(それから手袋の糸を切り離す。
(コートが舞ったそのはずみで、
(ポケットにあったマリオネット、足元に転がり落ちる)
アシハナ「おっとと……」
(身をかがめて人形を拾おうとした瞬間、
(プルチネルラの残骸が、さらに大きな爆発。
(爆発の勢いに煽られて、アシハナ、
(拾いかけた人形とともにビルの屋上から落下する)
アシハナ「くそっ」
(驚きの表情で見るダストン。
(車から見上げて何かを叫ぶハザマ。
(オーバーラップして、
(力無いリズムと強さで、拍手を続けるアレックス=ローズウォーターの手)
scene#21:HIS "MEMORY"
(スローモーションで、頭から落下を続けるアシハナ。
(その心象、めまぐるしく回転するイメージ)
アシハナ「……あ、そうか……」
(鮮烈に浮かび上がる、22年前の新聞の写真。
(アシハナとハザマが写っている車の写真の左上隅、車の後部座席とあろう位置に、
(小さく、ほんの少しだけ写っている、マリオネットの手。
(アングル、その手をクローズ・アップ。
(拡大するにつれて、マリオネットの全体像にオーバーラップし、
(映し出されたマリオネット、静かに、踊り始める。
(そのマリオネットを操るのは、
(車の後部座席に座る、
(幼き日のE.アシハナ自身)
(乗用車の内部空間。
(フロントガラスから差す強い光が
(黒白の、シルエットとして描き出している光景。
(黒い影となって映る、助手席に座る男。
(くゆらす煙草の煙が漂っている。
(車の後部座席から男を見るのは、
(幼き姿のE.アシハナ自身)
(線の細い印象の、細面の男の横顔、
(何かに気付いたように、まばゆいフロントガラスの向こうに視線を向ける。
(そして、ゆっくりと、
(何かをつぶやくように唇を動かす)
アシハナN「(男の唇の動きにあわせ)……メガデウス・イェーガー……」
(幼いアシハナ、後部座席のファイルに目を向ける。
(開かれたページには、十数枚のスナップ写真が貼られている。
(そのすべてに写っているのは、
(ロジャー=スミスと同じ顔を持つ男達、『
(写真のほとんどに×印が付けられているが、数枚には印がついていない)
アシハナ「……そうか……」
(男、運転席の男に指示して車を走らせる。
(幼いアシハナ、フロントガラスの向こうに目をやる。
(窓の外に見えたのは、
(東の砂漠に立ちはだかる、
(ビッグ・オーとは違う姿をした灰色の巨人、
(そして……それを操る『メガデウス・ドミナス』……)
アシハナN「そうか……そうだったんだ……」
scene#22:CAR ACTION
(闇に踊るマリオネット、
(突如、叩きつけられたように砕け散る。
(オーバーラップして現実に戻る。
(先んじて落ちたマリオネット、地上に衝突、四散している。
(アシハナ、続いて地面に墜落しようとしたその一瞬、
(猛スピードで駆けつけた乗用車、
(サンルーフにエアバックを展帳、
(アシハナの体を受け止める)
ハザマ「(乗用車の窓から)兄貴ぃー!」
アシハナ「(エアバッグの中に倒れ込んで)……あ……」
ダストン「(見届けて)逃がすな!」
(乗用車を追跡する軍警察のパトカー。
(乗用車のトランクから、おびただしいミサイルが後方に発射される。
(炸裂するかと思いきや、それは煙幕弾で、
(煙にまぎれて乗用車、陰もなく消え去っていく)
ダストン「くっ……!」
(疾走する乗用車。
(後部座席に乗り組んだアシハナ、
(手袋を嵌めた手で乱れた髪を撫でつけると
(力なげにシートにもたれかける)
ハザマ「(ハンドルを握り)兄貴! でぇじょうぶですかい!」
アシハナ「……」
ハザマ「兄貴?」
アシハナ「(呟く)……『
ハザマ「……兄貴?」
アシハナ「え……あ、大丈夫です」
(乗用車、疾走を続ける)
scene#23:SPECIAL SHEET (PART2)
(パラダイム社特別室。
(モニターの前のアレックス。
(電話のベル)
アレックス「(受話器を取り)私だ……なに?」
女「(電話の向こう側、秘書室とおぼしき暗いオフィスで)彼からです」
アレックス「彼……?」
女「どうぞ(と、受話器を置く)」
アレックス「……私だ……」
アシハナ「旦那にお礼が言いたくてね」
アレックス「アシハナ!……貴様、生きていたのか」
アシハナ「ええ、おかげさんでね」
(電話の向こう側、強い光でシルエットになって話すアシハナ)
アシハナ「いや、旦那はとぉに依頼人じゃねぇ。
「あたしに何の関係もねぇ……
「それはわかってやす。
「でもね、旦那のおかげで『
「礼くらい言うのがスジってもんでしょ? ね?」
アレックス「『
アシハナ「そうです。
「ずっと探してたもんをようやっとめっけたんです、
「旦那の茶番につきあわされたおかげでね……感謝してやすぜ」
アレックス「アシハナ?」
アシハナ「バレてねぇ気でいたんですかい?
……まぁいい。
旦那が何を考えようが、
あたしの知ったこっちゃねぇからね……ただね」
アレックス「ただ……何だと言うのか」
アシハナ「あたしはね、
何もかも知ってるつもりのあんたに、
あんたにも知らねぇことがあるし、
あんたの思い通りにならねぇこともある、
って言っときたくてね」
アレックス「おい、アシハナ! お前……!」
scene#24:THE EASTERN BEACH
(電話を切るアシハナ。
(彼がいるのは、東の砂漠の海岸。
(夕焼けに染まる海には、その水面に朽ちた無数のビルがその姿をのぞかせている。
(アシハナが話していたのは、
(海岸の片隅に取り残されていた、スタンド式の朽ちた公衆電話。
(アシハナが、受話器を置くをきっかけに、
(公衆電話、スタンドの根元からゆっくりと倒れ、砂に埋ずもれる。
(彼の背後、停まった乗用車の窓から、ハザマが顔をのぞかせている。
(アシハナ、踵を返して乗用車に向かうが、突如、
(何かを思うように立ち止まる)
アシハナ「……なぁ、ハザマ」
ハザマ「(車の窓から)へい」
アシハナ「あんた……『
ハザマ「え……その……
『
兄貴は兄貴、あっしはあっしです」
アシハナ「くっ……めでてぇ奴ですねぇ」
ハザマ「へい、あっしは幸せです。兄貴と一緒にいられんなら……」
アシハナ「バカ!……ほら、行きやすぜ」
(アシハナ、車に乗る。
(走り出した車、砂漠に背を向けて、どこへともなく走り去る。
(彼らの車を背に、パラダイム・シティの遠景。
(雨が降ってるか、空に、灰色の雲が重くたれ込めている)
last scene:IN THE RAIN
(雨に右往左往する人々。
(ビッグ・オーのコクピット・ハッチを開くロジャー。
(ドロシー、驚異の跳躍力でコクピットまで飛び上がると、
(ロジャーの前に立って、
(取り出した傘をロジャーに差し出す)
ロジャー「ドロシー……」
ドロシー「私はノーマンに頼まれたの」
ロジャー「(黙って傘を受け取り、開く)」
(ドロシー、ロジャーの側で雨に濡れたまま立っている)
ロジャー「……ドロシー、君の傘は?」
ドロシー「この程度の水分なら、私のボディに影響はないわ」
(ロジャー、開いた傘をドロシーに優しく手渡す)
ロジャー「風邪をひくぞ」
ドロシー「……あなたの傘よ」
(ドロシー、渡された傘を押し返す。
(ロジャー、いったんは傘を受け取って、
(それから、傘の半分をドロシーに押し返して、彼女の体を引き寄せる。
(そう。つまるところの『相合い傘』)
ドロシー「?」
ロジャー「こうすれば、二人とも濡れるリスクは軽減されるよ」
ドロシー「……ロジャー」
ロジャー「ん?」
ドロシー「……『二人とも、ビッグ・オーに入る』という手段は検討したの」
ロジャー「……あっ……」
ドロシー「……(無表情のまま、何事かをつぶやくように唇を動かす)……」
(そして、降りしきる雨。
(摩天楼を背にしてビッグ・オー、
(灰色の空を背に佇んでいる)
(No Side)
(H15.07.19_R.YASUOKA
(based on OVA,"THE BIG-O"
(and COMIC,"la cirque de la KARAKURI")
本作は藤田和日郎原作「からくりサーカス」及び
サンライズ製作「THEビッグオー」をモチーフにしたパロディです。
作中登場する、あるいは想起される
人物・場所・事件・団体その他はフィクションで、実在のものとは無関係です。