無敵看板娘オリジナルストーリー
「君に送るエール
(その2)
」
(鬼丸飯店、店内。
(電話が鳴り、真紀子が出る)
真紀子「はい、鬼丸飯店……はい、はい……ええ。
ラーメンとギョーザね……ええ。場所は?……
え?
……いえ、構いませんよ。はい……毎度ありぃ♪(切る)
……美輝ぃ」
美輝「なーに?」
真紀子「出前頼むよ、迅速にね」
美輝「あいよ。どこ? 遠藤さんとこ?」
真紀子「聖川の河川敷だって」
美輝「……か、河川敷ぃ? そんなところにどーして?」
真紀子「来ればわかるってさ」
美輝「ちょっと母さんそれ怪しいよ! 河原に出前っておかしくない?」
真紀子「お前に比べりゃ全然おかしくないよ」
美輝「……そうか、わかったぞ!
出前にかこつけて私をおびき出し、
闇討ちにしようって魂胆だよきっと!」
真紀子「(無視して)作ったらさっさと持ってくんだよ」
(鬼丸飯店・店の外。
(美輝、オカモチを手に出る。
(ちょうど店の前を歩いていた勘九郎、美輝の姿に硬直する)
勘九郎「おっ、鬼丸美輝!……先程は不覚をとったが(とポケットから挑戦状を取り出
美輝「鬼丸流葬兵術・彗星天爆掌!」
(美輝、問答無用で勘九郎を殴り倒す)
勘九郎「(血塗れで)……ちょ、ちょっと待つニャ、まだ挑戦じょ……」
美輝「人をわざわざ河川敷まで呼び出すとはいい度胸だな! こっちは忙しいんだぞ」
勘九郎「よ、び、だし……? それは、いったい……何のことニャ?」
美輝「なにっ、じゃあこれは(オカモチを掲げ)お前じゃないのか!」
勘九郎「だから、何のこと、ニャ……(気絶する)」
美輝「うーん……違ったか」
(美輝、顔を上げる。
(その視線の先、向かいのパン屋『ユエット』)
(ユエットの店内。洒落た造りのセルフチョイス・ベーカリー。
(陳列棚に焼きたてのパンを並べる看板娘、神無月めぐみ。
(ドアが開き、美輝登場)
めぐみ「あーら鬼丸さん、今日はいったい何……
美輝「鬼丸流葬兵術・重甲水牛回旋脚!」
めぐみ「ぐえっっっ!」
(パンを巻き添えに転倒するめぐみ)
めぐみ「(虫の息で)なっ……なんですの鬼丸さん……?」
美輝「私ゃまどろっこしいのが嫌いなんだ!
河川敷じゃなく、この場でとっとと決着つけようじゃないか」
めぐみ「河……そ、それは何……?(失神)」
美輝「くっそー……お前でもないのか! それじゃ、これは誰が!……」
(美輝、ユエットを後にする。
(気絶したままのめぐみを残して)
(花見町商店街最大のライバル・スーパー『テッコツ堂』花見町店。
(店のシャッターが下ろされ、 貼り紙。
美 家
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8 平
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美輝「……こいつらでもねぇ……」
(貼り紙の前で美輝、膝をつく)
美輝「じゃあ、誰が私を呼び出したんだぁーっ!」
(叫びに重ねて、
(町の不良や暴走族を次々に狩り立てる美輝の姿)
美輝「お前か!」
(美輝、たむろしてる暴走族を薙ぎ倒す)
美輝「お前か!」
(美輝、逃げまどうヤクザにつかみかかる)
美輝「お前らか!」
(美輝、不良を襲撃する。
(その現場に出くわす太田)
太田「美輝ちゃんっ……いったいどうしたんだ」
美輝「あっ太田さん、こいつらが私に挑もうって云うから」
不良「だから違ぇーって!」
美輝「うるさい! 私は仕事で忙しいんだ、
だから、無駄を省いてここでケリをつけてやるって云ってんだよ!」
太田N「(内心の声として)いや、仕事で忙しいようには見えないが」
(逃げ出す不良)
美輝「あーっ……待てッ!」
太田「美輝ちゃん!」
美輝「太田、ついてこい!」
(美輝、だしぬけに太田の襟首をつかむ。
(太田を連れて、猛ダッシュで不良を追う)
美輝「こらぁッ、逃げるな!」
太田「なんで俺までーっ!」
(聖川河川敷。ドラマ『ブルーホーム』ロケーション現場。
(スタッフや機材、俳優、バス他車両が集っている。
(すでに周囲には野次馬が人だかりを作っている。
(冬美、マネージャーとワゴン車内で出番待ちをしている)
冬美「……遅いわねぇ」
マネージャー「催促する?」
冬美「いいわ。時間あるし」
マネージャー「だけど……そんなにおいしいの、そのお店?」
冬美「ええ。ラーメンもおいしいしそれに……」
マネージャー「それに……?」
冬美「……昔こっそり通っててね。なんか、懐かしくなっちゃった」
マネージャー「へえ……そうなの」
声「(車の外から)秋吉さーん、お願いします!」
冬美「あら、早いのね……はーい、今行きます」
(冬美、車を降りる。
(彼女を囲むスタッフとカメラ、そして遠巻きにする野次馬たち。
(その野次馬の背後から、突然
声「たっ、た、助けてくれぇぇっ!」
(野次馬をかきわけ、不良這いずって登場。
(全身傷だらけで既に半死半生。
(美輝、不良を追ってゆっくりと歩き来る。
(その後についてくる太田、すでに諦め顔)
不良「(周囲に)だっ、だ、誰か助けてっ……殺されるぅ!」
美輝「そーら、お望みどおり河川敷まで来てやったぞ」
冬美「(美輝を見て)あなたは……っ!」
(不良、恐怖にかられ、すがるようにあたりを見回す。
(野次馬の群衆、ロケのスタッフたち、誰も近づかない)
美輝「さぁ、ここで存分に決着つけようじゃないか」
不良「だっ、だから違うって……俺らはお前を呼び出しなんて……」
美輝「じゃあ他に誰がいるんだ?
すでにこの辺の連中は一人残らず叩き潰したんだぞ!
消去法でも(と断定調に指を差し)お前しか残ってない!」
太田N「(内心の声として)物理的に消去してるし」
不良「だ、だから……」
美輝「ギャラリーもいることだし、派手に料理してあげるからね(指を鳴らす)」
不良「ひぃぃぃっっ!」
(冬美、止めに入ろうと一歩踏み出す。
(スタッフ、冬美を押しとどめる)
冬美「……!」
スタッフ「冬美ちゃん、関わらない方がいいよ」
冬美「でも……」
スタッフ「おい、誰か早く警察を」
(冬美、あらためてあたりを見る。
(助けを乞う不良の眼。
(見て見ぬ振りをしてる野次馬・スタッフ)
冬美「(スタッフに)邪魔よ」
スタッフ「ちょっと冬美ちゃん……」
冬美「邪魔だと云ってるのよ、どきなさい!」
(冬美、スタッフを押しのけ、走る。
(不良と美輝の前に立ちはだかる)
美輝「鬼丸流葬兵術っ……」
冬美「待ちなさい!」
美輝「!」
(美輝、冬美に顔を向ける)
冬美「その人を放しなさい」
美輝「えっ?」
冬美「事情は知らないけど、人が傷つけられるのを見過ごすわけにはいかないわ」
美輝「な、なんだお前は……!」
冬美「よく訊いてくれたわね。私の名は……」
美輝「どーでもいいや。
そいつを庇うなら貴様も一緒に倒すまで!」
冬美N「(内心の声として)終わりまで聞けよ」
(美輝、冬美に襲いかかる)
美輝「鬼丸流葬兵術・富嶽三段突き!」
(地煙を巻き起こす美輝の猛攻。
(ラッシュが決まり、土煙が晴れたとき。
(冬美、どこから出したのか、
(スターレンジャー収録時のアイテム・ヘルズバニーの杵で攻撃を防ぎきっている。
(まさに、昔取った杵柄)
美輝「その杵! きっ、貴様はまさか……!」
冬美「そうとも……私はヘルズバニー、
青白き夜に無慈悲に煌めく月光将軍さ!」
太田「……ヘルズバニー?
ってことは、あいつは……
秋吉冬美!?」
美輝「そうかい。
お前とは一度やりあいたいと思ってたのさ。かかっといで!」
冬美「望むところよ、いらっしゃい!」
(場面転じて都内某所、
(『海洋戦隊シーレンジャー』撮影のスタジオ。
(モモコ、収録を終え楽屋に戻る。
(迎えるメイク)
メイク「あーらモモちゃん、おつかれー」
モモコ「おつかれさまでしたー。
……ねえねえ、秋吉さんのインタビュー、録ってくれました?」
メイク「もっちよォ。ちゃんとタイマーしといたからね」
モモコ「よかった、見せて見せて!」
メイク「はいはい」
(メイク、ビデオを操作する。
(ブラウン管に映るは先述のワイドショーでのインタビュー風景)
司会者「……ところで秋吉さんといえば、
いまだに『ヘルズバニー』だの『ヒーロー物』だのといった
イメージを持ってる人も多いんですが、そう思われることについてはどうお考えですか?」
冬美「うーん……そうですね、それは……云っちゃっていいのかな?」
司会者「云っちゃってくださいよ」
冬美「……そう見てもらえるのは本当にうれしいですね。
『スターレンジャー』や『ブツレンジャー』に出演できたことを
今でも誇りに思ってますから」
コメンテーター「誇り?
……(笑いながら)子供番組にですかぁ?」
冬美「子供番組?……そのどこがいけないの」
(冬美、大写しになる)
冬美「戦隊ドラマはね、正義とは何か……
正しい事とは何か、正しい強さとは何かを伝えるメッセージなんです。
今の世の中、それを真正面から訴えかける手段が他にありますか?」
(河川敷。美輝と冬美の死闘。
(オーバーラップして冬美のコメント、続く)
冬美N「……そして、正義を子供たちに伝えるためには
役者の演技が巧いだけじゃダメ、
純粋な心の熱さがなくちゃいけないんですよ!」
(美輝のハイキック、冬美の頭部めがけて炸裂。
(決まった、と見せておいて
(冬美の杵、間一髪で防ぎきる。
(両者、右脚と杵で鍔ぜりあいの如く激しく接し合う)
美輝「なかなかやるね。技もだけど、心の熱さが感じられるよ」
冬美「あたりまえよ。私には、戦隊モノで培った正義の心がある!」
美輝「正義って……
あんた悪役だったじゃん」
声「(オーバーラップして)けどあんた悪役だったじゃん」
(場面転じモモコたち。固唾を呑み、テレビを見守る。
(画面上、冬美にツッコむコメンテーターの姿)
冬美N「おだまり!」
(場面転じ、河川敷)
冬美「戦隊モノはチームプレイなの、
ヘルズバニーだってアーシュラ卿だって、
悪を体現することで逆説的に正義を訴えてるのよ……
あなた、そんなこともわからないの?」
(野次馬の中の太田、衝撃を受ける)
太田「……あいつ、俺と同じ事を……!」
(美輝、再び攻勢に出る。
(冬美、巧みに攻撃をかわしつつ、隙を突いて反撃を次々試みる)
太田「……(無言で二人を見守る)」
(闘う二人に重ねて、冬美のセリフ)
冬美N「主役も悪役もスタッフもみんな熱くて一生懸命なんですよ。
そんな現場で働けたんです。
薄っぺらなドラマやCMじゃなくて私は……
私は、戦隊ドラマに携われた事を今でも喜びに思ってます」
(場面転じテレビ画面の冬美。
(他の出演者たちをよそに、しゃべりに自ら興奮した様子。
(テレビを注視するモモコたち)
冬美「いいこと?(と画面に向き直り)モモコちゃん、みんなっ!
子供に正しい事を教えられるのはあなた達だけなのよ! がんばるのよ
……そう、月並みな言葉かもしれないけど、がんばるのよ。
子供だましとか云われたって気にしちゃダメ!
戦隊モノを誇りに思いなさい! そして
……がんばってね」
(場面転じて河川敷。
(舞う土煙、息を呑む周囲。
(間合いを取り対峙する美輝と冬美)
美輝「……すごいね。あんた」
冬美「あなたもね」
美輝「しかしっ、こっちも負けられないよ!(オカモチを振りかぶり)鬼丸流っ……」
マネージャー「あーっ、やっと来てくれたのねラーメン屋さん!」
(美輝、冬美、固まる。
(マネージャー、美輝に駆け寄る)
マネージャー「ええと、ラーメンとギョーザでおいくらかしら」
美輝「えっ……?」
マネージャー「おいくら?」
美輝「……700円です」
マネージャー「じゃ、お金ね(と渡す)。
食器はまた取りに来てくれる?」
美輝「ええ……いいっスよ」
マネージャー「ありがと。ご苦労様ね」
美輝「…………あ、どーも」
(気を殺がれた美輝、無言のまま、人波をかきわけ去る。
(マネージャー、ラーメンとギョーザの皿を手に冬美に向かう)
マネージャー「冬美さん、やっと来たけど……食べるのは撮影のあとでいい?」
冬美「……」
マネージャー「いいのね。……さあ、戻りましょう。
時間押しちゃってるわよ?」
冬美「……はい」
(冬美、背を向けてロケ現場へ歩き去る。
(野次馬の中で見守る太田)
太田「……」
(太田、少し迷うが意を決し、
(遠ざかる冬美の背に向かって、
太田「がんばれよぉっ!」
(声に気づき、振り向く冬美。
(人の中に太田の姿を認め、微笑みながらウインクする。
(その姿にオーバーラップするテレビ画面の冬美もまた、
カメラ目線でウインク。
(感激の面持ちでそれを見るメイクとモモコ)
メイク「冬美ちゃん……(涙ぐむ)」
モモコ「秋吉さん、私……がんばります!」
メイク「もっぺん観るわね(ビデオを巻き戻す)」
(場面変わって出前帰りの美輝、そして太田)
美輝「ヘルズバニー……変だな、前に会った覚えがあるんだが……」
太田「……(満足そうな微笑)」
(場面変わってワゴン車内の冬美とマネージャー。
(冬美、幸せそうにラーメンを食べている)
冬美「おいしーっ!……ねえ、おかわり頼んでくれる?」
マネージャー「ダメよ」
(fin)
(H19.6.23 R.YASUOKA
(Based on Comic,
('INVINCIBLE KANBAN GIRL"NAPALM"
(Muteki Kanban Musume Napalm)',
(by Jun Sadogawa)
おことわり:
本作は佐渡川準原作・秋田書店刊「無敵看板娘」「無敵看板娘N」をモチーフにしたパロディです。
本作に登場する、あるいは想起されるいかなる人物・団体・場所・事件・特撮番組その他も、
実在のものとはまったく無関係です。