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鬼切丸オリジナルストーリー

「封鬼の章<前編>」

 

主な登場人物

鬼切丸の少年(学生服の少年。常に日本刀を携えている)

 

高坂将人(事故担当の保険調査員・元刑事)

高坂亜弓(将人の妹。1年前に死亡)

 

刑事・警官たち

工事現場の男たち

 

翡翠丸(封じられた伝説の悪鬼)

小山内鈴香/鈴鹿御前(伝説の鬼姫。人間に転生、女子高生として暮らす)

 

 

(T県U市郊外、夜の工事現場。

(道路工事にダンプ、パワーショベル、そして男たちが働いている。

(工事地域に隣接して、一辺五メートルほどの広さの植え込みに区切られた敷地がある。

(敷地の中央には、石造りさながある)

 

男1「(同僚の男2に)お、おい・・・」

男2「ん? どうした、いったい」

男1「なんかよぅ・・・(祠を指して)あそこで何か動いたように見えたんだけどよ」

男2「(ライトをかざし、目をこらす。そして笑って)気のせいだろうよ、誰もいねえじゃねえか」

男3「けど・・・薄気味悪いよなぁ。確かに」

 

(男たち、作業に戻る。

(誰も省みない祠の周囲の植え込みに、針穴のような光芒が現れる。

(あたかも針穴から滲み出るように、白い煙があふれてくる)

 

男1「(気づいて)お・・・あ、あれ・・・!」

 

(煙、しだいに量を増し、やがてカタチをなす。

(両肩と額に、あわせて3本の角を生やした巨大な鬼・翡翠丸、うなり声をあげる)

 

男1「わぁ・・・お、おに・・・」

男2「ひぃぃぃっ・・・!」

 

(翡翠丸、男たちに襲いかかる。

(夥しい乱杭歯ののぞく大顎を開き、男1の上半身を喰いちぎる。

(そのまま右腕を伸ばして男2の首を掴み、握りつぶす

照明灯らされた工事現場で、男たちを食い散らしてゆく翡翠丸のシルエット)

 

 

 

声「豪勢な晩餐だな。翡翠丸よ」

 

 

 

(ダンプに首を突っ込んだ状態の翡翠丸、屍体くわえたまま声の方をみる。

(工事現場より離れて立つ鬼切丸の少年、鬼切丸を静かに引き抜いている)

 

鬼切丸の少年「よぅく味わっとけよ。それがお前にとっての・・・

食いおさめだぜ!

 

(鬼切丸の少年、鬼切丸を振りかざして翡翠丸に斬りかかる)

 

翡翠丸「おのれぇ・・・鬼切丸かぁっ!

 

(翡翠丸、全身のあちこちから白い煙をこぼす。

(それがやがて体を覆うと、煙に姿を変えながら、祠めがけて逃げ出す)

 

鬼切丸の少年「逃がすなっ・・・鈴鹿!

 

(翡翠丸の逃げ込む方、祠を背にして立ちはだかる鬼姫・鈴鹿御前。

(その手には、神剣・大通連が握られている)

 

鈴鹿「翡翠丸・・・もはや逃がしはせぬ!」

翡翠丸「鈴鹿御前! おぬしまでも・・・

 

(翡翠丸、両腕をかざして鈴鹿御前に襲いかかる。

(その胴に大通連横薙ぎする鈴鹿。

(大きく腹を裂かれ、獣のごとき悲鳴をあげる翡翠丸)

 

鈴鹿「やったか!」

 

(翡翠丸、傷つきながら鈴鹿に襲いかかる。

(不意をつかれた鈴鹿、思わず身をかわす。

(翡翠丸、鈴鹿を振り払って祠に戻り、出てきた隙間より姿を消す)

 

鈴鹿「待てぇ!(追う)」

鬼切丸の少年「行くなっ、鈴鹿!

 

(鈴鹿、祠を取り巻く結界に触れた瞬間、電光に似た光につつまれる)

 

鈴鹿「きゃああああ!(倒れる)

鬼切丸の少年「鈴鹿ぁー!」

 

(鬼切丸の少年、倒れた鈴鹿に駆け寄る。

(衝撃をうけた鈴鹿、鬼切丸の少年により意識を取り戻す)

 

鬼切丸の少年「大丈夫か?」

鈴鹿「・・・すまない、油断した・・・

鬼切丸の少年「いいさ。深傷を与えたから、ヤツも当分動けねえだろうよ」

鈴鹿「おのれ、翡翠丸! この結界さえなければ・・・」

鬼切丸の少年「くっ。わずかなすき間から出入りする術を覚えたとは・・・小賢しい

鈴鹿「なんとか、これを破らなくては・・・」

鬼切丸の少年「よせよせ、鬼には無理だ・・・人間にでも破らせない限りはな」

鈴鹿「・・・人間、か・・・」

 

N「翡翠丸・・・奥州の鬼・悪路王の腹心としてられた伝説の悪鬼。平安時代、坂上田村麻呂鬼姫・鈴鹿の追討をうけ関東に逃れた末、稀代陰陽師・阿部晴友の手により下野国陸奥宮(現T県U市)じられたという・・・」

 

(翌朝、同じ場所。

(工事現場全体が警察によって封鎖され、多数の警官・捜査員が出入り、検証が行われている。

(高坂将人、封鎖線を越えようとして、警官ともめている)

 

将人「ちょ・・・ちょっと、少しくらい見せてくれたっていいでしょうが!」

警官「関係者以外立入禁止なんだよ、ここは!」

将人「だから、俺も関係者だってば!」

警官「関係者?・・・何者だ、お前?」

将人「俺か? よくぞ聞いてくれた、

俺は・・・高坂将人、私立探偵だ!

警官「今すぐ出てけ、部外者が

将人「あっウソウソ! 保険会社の調査員だよ・・・工事会社との契約で、事故現場の調査に来たんだってば・・・!」

 

(刑事1と2、将人の前に姿を見せる)

 

警官「あ、ごくろーさまです(敬礼)

刑事1「(答礼しながら、将人に)久しぶりだな、高坂」

将人「あっ、おやっさん・・・このヒラ巡査、何とかしてくださいよ!」

警官「きっ、貴様・・・逮捕するぞ!」

刑事1「入れてやれ」

警官「は・・・ですが!?」

刑事1「心配ない。元は捜査課の人間だ。現場のイロハは心得てる・・・(刑事2に)手袋を頼む」

警官「はあ・・・(消える)

将人「けっ、ざまーみろ!・・・どうも助かりました。朝から『すぐに調べてこい!』って会社がうるさくって。サラリーマンはつらいもんですね!・・・で、どうなってるんですか?」

刑事1「どうって、・・・見ての通りさ」

 

(現場全体の描写。

(工事現場には夥しい血痕、そしていくつかのマーキングされた死体の跡が残されている)

 

将人「わ・・・」

刑事1「・・・犯行のあった昨夜、六人の人間がここで働いていたはずだった」

将人「ええ、そうですよね・・・えっ、『はず』って?」

刑事1「死体が、ほとんど残っていないんだ。何人死んだんだか見当がつかん」

将人「ウソ・・・じゃあ、目撃者は?

刑事1「付近を通りかかったというのがいたが・・・あてにはならないよ」

将人「・・・?」

刑事1「(あごをしゃくって)あれだ」

 

(刑事1の指した方、浮浪者とおぼしき風体の人物が、捜査員に取りすがりながら叫んでいる)

 

浮浪者「・・・信じてくれよ、あ・・・あれは、鬼だったんだよっ! お、オレは見たんだヨゥ・・・アタマと肩から角を生やしてて、みんなを喰っちまったんだヨゥ。・・・ウソじゃねえって!

将人「・・・あらら」

刑事1「検分はひととおり終わったが・・・詳しくは、解剖の結果待ちだな」

将人「じゃ、結果わかったら教えてくださいね!・・・俺も、聞き込み行って来ます」

 

(現場より出ようとする将人。

(将人の両肩を掴まえる浮浪者)

 

浮浪者「おい・・・話を聞いてくれ! そいつを・・・学生服姿の男と女が、日本刀を持ってその鬼を・・・」

将人「はいはい、貴重な情報をありがとうございます!(押しのける)

浮浪者「嘘じゃねえよ・・・頼むから、信じてくれよニイちゃん!」

N「(浮浪者のセリフに重なるように)信じてよ、お兄ちゃん!」

 

(瞬間、硬直する将人。

(浮浪者の顔にオーバーラップする、女性=高坂亜弓の口元の部分)

 

 

将人「・・・わかった、信じるよ」

浮浪者「そ、そうか・・・ありがとうよニイちゃん! 日本刀を持った学生だ。そいつらがあの鬼を・・・!」

将人「ああ、日本刀だね・・・じゃ!」

 

(将人、封鎖線を越え、去る。

(将人を見送る刑事1と2)

 

刑事2「・・・誰なんです、おやっさん?」

刑事1「そうか、お前と入れ違いだったな・・・去年までウチの署にいた高坂だ。聞いてるだろ?」

刑事2「高坂って・・・妹が殺されて、その犯人に大怪我負わせたって・・・あの人が?」

刑事1「そうだ・・・もう、一年になるかな

刑事2「だけどたしか、あの事件・・・」

 

(夕刻。検分が終わり、封鎖も解かれた無人の現場。

(戻った将人、メモを片手に、携帯電話を顎で挟みながら喋っている)

 

将人「(電話に)・・・ですから課長、ホントにワケわかんない事件なんですよ、これ」

 

(周囲を見回す将人。

(彼の見たものとして描かれる黄昏の街角の風景

 

将人「(電話に)検死?・・・あ、はい。まだ途中ですがDNA鑑定の結果、血痕や肉片が現場の六人のものだってのは間違いなさそうなんです。ただね、5W1H・・・えっ、何のことだって? だから・・・どこのどいつが、どうしてそんなマネを?」

 

(現場片隅の祠、将人の目にとまる。

(妖しい雰囲気をふりまく祠に将人、一瞬息をのむ)

 

将人「・・・え、いえ。何でもありません。・・・現場の状況から考えると、トラやライオンに襲われたって可能性もあるんですよ。それで、動物園やらサーカスやらに問い合わせしてるんですが・・・あっ、疑ってますね? 本当ですよ!」

 

(将人、事故現場に目をやって、そのまま凍りつく。

(鬼切丸の少年、たたずんでいる)

 

将人N「・・・日本刀を持った少年!?・・・

鬼切丸の少年「(将人に)あんた・・・事件を調べてんだろう?」

 

(鬼切丸の少年、将人に布きれを差し出す。

(衣服の切れ端と見られる、血に汚れた布きれ)

 

鬼切丸の少年「これ、落ちてたぜ」

将人「な、なに・・・?」

鬼切丸の少年「あの祠だ。を開いて護符をはがせばもっと面白いものがつかるぜ

将人「え・・・ああ、そうか。ありがとう・・・」

 

(将人の携帯電話、地面に取り落とされる。

(暗示にかかった将人、無表情に祠に目をやる。

(将人、祠に向かって足を踏み出す)

 

将人N「今のは・・・日本刀を持った少年・・・?」

 

(将人、祠に手をかける

(その後ろに、煙に化した翡翠丸姿を見せる)

 

将人N「じゃあ、あの目撃者が言ったのは・・・」

 

(祠が開き、奥面に貼りつけられた古びた陰陽の護符があらわになる。

(背後の翡翠丸、徐々に鬼の姿をなしていく。

(それに気づかず、護符に目をやる将人)

 

将人N「ちょっと待てよ、・・・他にも何か言ってたよな」

 

(護符に手をのばす将人。

(リンクするように、鋭い爪の生えた腕を将人にのばす翡翠丸)

 

将人N「たしか・・・お、に」

 

(翡翠丸の爪が届こうとしたそのとき、

 

鈴鹿「いやああああ!」

将人「・・・!」

 

(将人、振り返る。

(背後にいた翡翠丸、気配も残さず消え失せている。

(将人の視線の先、うずくまる鈴鹿御前=小山内鈴香。

セーラー服ロングヘアーのその姿に、将人、亜弓の姿が重なる)

 

将人「・・・あ、亜弓・・・?」

将人N「(首を振って)いや、そんなまさか・・・」

 

(将人、祠を後にして鈴香のもとへと駆け寄る)

 

将人「おいっ、どうした!」

鈴香「へ、変な男が・・・!」

将人「なんだとっ!(あたりを見回し) 大丈夫か、君?」

鈴香「はい・・・逃げていきました」

将人「そうか・・・待てよ! もしかして、そいつ・・・日本刀を持った学生じゃないか? おれもさっき見たんだが、前髪長くて二枚目で・・・もっとも、おれの方がずっとハンサムだったが・・・そのくせ無愛想で態度がデカくて口の訊き方も知らないような小生意気で、おまけにこのクソ暑いのに冬服を平気で着込んで・・・」

鈴香「(あっけにとられたように)・・・」

将人「あ・・・いや、ごめん」

鈴香「・・・くすっ」

 

(日暮れた夜の住宅街。

(並んで歩く将人と鈴香)

 

鈴香「・・・すみません、送ってもらっちゃって・・・」

将人「いやいや、また狙われるかもしれないから・・・変なのが多い季節だし・・・(頭をかいて)ま、実はおれも相当変だけどね

鈴香「くすっ、そうですね

将人「そうだよね、ははは・・・おいっ、『そんなことはないでしょう』って言ってくれよ!」

鈴香「あら・・・ごめんなさい(笑う)

 

(マンションの前、立ち止まる鈴香)

 

鈴香「あ、ここで結構です」

将人「そうかい、気をつけてね・・・そうだ」

(将人、ポケットを探り、名刺を一枚取り出す。

(鈴香に手渡された名刺には、『私立探偵 高坂将人』と印刷されている)

鈴香「(見て)・・・探偵さんなんですか?」

将人「あはは・・・ジョークで作った名刺だけど、アドレスは本物だから。何かあったら、いつでも力になってあげるからね。ええと・・・」

鈴香「あ、私・・・鈴香、小山内鈴香です」

将人「鈴香ちゃんか・・・じゃあ、おやすみ」

鈴香「はい、ありがとうございました」

 

(振り返りながら歩き去る将人。

(鈴香、その姿が見えなくなるまで見送る。

(鬼切丸の少年、鈴香=鈴鹿御前の背後に姿をあらわす)

 

鬼切丸の少年「なぜ、邪魔をした」

鈴鹿「護符を剥がした瞬間、あの人間も喰われるところだったんだぞ」

鬼切丸の少年「奴を野放しにすれば、もっと大勢が死ぬぜ」

鈴鹿「しかし・・・!

鬼切丸の少年「どうすんだよ、まさか・・・あいつにすべてをうち明ける気じゃねえだろうな」

鈴鹿「・・・・・・」

鬼切丸の少年「信じてもらえると思ってるのか? こんな話」

 

(翌日。

(所轄警察署の休憩ロビー。制服警官が行き来している。

(自動販売機前のベンチに、将人と刑事1並んで腰かけている)

 

将人「・・・野犬?

刑事1「ああ、どうやらそういうことでケリがつきそうだ」

将人「だっておやっさん、残された歯型はそんな小さな動物のものじゃ・・・」

刑事1「他に説明がつかんのだよ。そんな猛獣が町中を徘徊している形跡も見られんし、有力な目撃証言が何一つない・・・」

将人「目撃・・・そうだ! おれ、例の日本刀の少年に会いましたよ」

刑事1「本当か! 名前は? 住所は? 何か手がかりが?」

将人「・・・あ、その・・・わかりませんが・・・」

刑事1「おいおい、それじゃあな・・・それに、まさかおまえさんまで『鬼の仕業』なんて言い出すんじゃないだろうな」

将人「鬼・・・?」

 

(将人の脳裏をよぎる昨日の祠での記憶。

(背中に気配として感じた、翡翠丸の腕が描かれる)

 

刑事1「おいっ、何考え込んでいるんだ! しっかりしてくれよ」

将人「あっ、すいません・・・」

 

(警察署内を玄関へと歩いていく将人と刑事1。

(玄関、受付、そしてロビーが背景として描かれる)

 

刑事1「・・・たまには遊びに来いや。うちのチビが、また空手を教えて欲しいってよ」

将人「高いですよ、授業料・・・特上スシどうです?

刑事1「バカっ・・・(ロビーに目を留め)おや、あれは・・・」

 

(ロビーのベンチ、母娘とおぼしき女性二人が泣き崩れている。

(その傍らに女性警官、二人に付き添っている)

 

将人「(気づいて)・・・?」

刑事1「例の事件の被害者の家族だよ。さっき、事情聴取をさせてもらった」

将人「・・・うかばれないですよね、このままじゃ・・・」

 

(夕刻、事件現場。

(ひとりでたたずんでいる将人に、夕日が長い影を落としている。

(将人、祠に目をやる。

(祠について説明する刑事1の回想が脳裏に浮かぶ)

 

刑事1N「・・・祠? ああ、そんなのもあったな。ずっと昔にバケモノをじ込めたとかってのが。祟られるってんで、手も加えられないまま残ってるらしい・・・もちろん調べたが、手がかりになりそうな物はなかったな」

 

(将人、祠に向かって歩き出す)

 

鈴香の声あっ、探偵さん!

 

(将人、振り返る。

(鈴香、街角にたたずんでいる)

 

将人「君・・・鈴香ちゃん?」

鈴香「(ぺこりと頭を下げ)こんにちは。昨日はどうも」

将人「学校の帰りかい?」

鈴香「・・・は、はい。探偵さんは、犯人の尾行ですか?

将人「だからね・・・探偵じゃなくって、保険会社の調査員だってば・・・」

鈴香「くすっ・・・じゃあ、調査の途中なんですね?」

将人「まあね」

 

(将人と鈴香、現場周囲を見渡す。

(二人、祠に目を留める)

 

鈴香「ここで、六人が殺されたんですか・・・」

将人「ああ、ひどい話さ・・・野犬のしわざらしいけどね」

鈴香「『らしい』って・・・?」

将人「おれにもわからないんだよ。どうも、得体の知れない事件でね・・・で、今だ調査中」

鈴香「・・・・・・」

将人「まあ・・・ね、野犬がやったってコトにすりゃいいのかもしれないけどね」

 

(オーバーラップするように電話の回想)

 

電話の声「報告書が書けない? 警察発表が出たのに、まだ調査したいというのはどういうことだ?」

将人の声「ですから課長、このままじゃ・・・おれのおさまりがつかないんですよ」

電話の声「君のおさまりなんかどうだっていいんだよ! とっとと戻ってこい・・・

聞いてるのか、おい!

将人の声「もしもーし! あれえ・・・なんか、電話が遠くてよく聞こえません。また後で連絡しまーす!」

 

(回想終わる)

 

将人「ホント、上司にまで逆らってさ。何やってんだか・・・」

鈴香「ううん・・・そんなこと」

将人「・・・見ちゃったんだよね

鈴香「えっ?」

将人「事件で家族を失って、泣いてる人がいるんだよね。その人たちのコトを考えたら、いい加減な調査で終わらせられないワケよ・・・

 

「あっ、ごめんね。変なことばっかり話してて。いやはやどうも、年とるとグチっぽくて・・・いや、まだ若いんだけど・・・ははは」

 

(鈴香、将人を無視。真剣な表情で祠を睨んでいる)

 

将人「・・・ごめん、ウケなかったかな・・・?」

鈴香「(睨んだまま)・・・知りたいですか、真実を?」

将人「えっ・・・ああ、うん・・・」

鈴香「もう・・・千年以上も昔のことです」

将人「・・・!」

 

鈴香「陸奥で勢力を張っていた翡翠丸は、わたしたちの手を逃れてこの地に流れ着きましたが、結局ここで人間の手によってじ込められました。その結界はとても強力で、翡翠丸をこの地に閉じこめる代わりに、わたしたちとて奴に指一本触れさせもせず・・・とどめを刺すことができなかったのです」

将人「お、おい・・・鈴香ちゃん? 救急車・・・呼ぼうか?」

鈴香「(無視)ところが・・・長い歳月の眠りによって力をつけた翡翠丸は、結界に開いた針の穴ほどの小さな隙間から自由に出入りする術を覚えたのです。そして、今や結界に守られながら人々をむさぼり喰らい続けています。このままでは・・・」

 

将人「(蒼白になり)す、鈴香・・・ちゃん? 君は、いったい・・・」

 

(鈴香=鈴鹿御前、沈みかけた夕日をバックに立ち上がる)

 

鈴香「私は・・・わらわは、鈴鹿御前。人に生を受けた鬼姫・・・」

将人「すずか、ごぜん・・・鬼、鬼姫!?」

 

(沈黙、しばしの間)

 

鈴鹿「・・・もとより、信じてもらえるとは思いません。でも・・・」

将人「・・・・・・」

鈴鹿「でも、あの結界を通れぬわたしたちではどうにもなりません。誰か人間が、祠の中の護符を剥がしてくれなければ、奴を倒すことができないのです」

将人「・・・・・・」

鈴鹿「お願いです・・・わたしたちを信じて、力を・・・力を貸してください」

 

(沈黙)

 

将人「・・・わかった、信じるよ」

鈴鹿「え・・・」

将人「おいおい、心外そうな顔だね。

「ほら、ここで信じて協力しないとページ数足りなくなるじゃん♪

鈴鹿「・・・」

将人「・・・ってのは冗談でさ、俺は・・・疑うことを知らない純真無垢な私立探偵なんだぜ!・・・あ、これも冗談だからね」

鈴鹿「探偵さん・・・」

将人「・・・うわ、マジでページが足りないや。急がないと・・・あの祠の中にあるお札を、剥がしてやりゃいいんだね?」

 

(将人、立ち上がって祠の敷地へと歩き出す)

 

将人N「(内心の声として)結界・・・鬼姫鈴鹿御前・・・それに、翡翠丸とか言ったっけ? なんとまあ、突飛な・・・。でも・・・」

 

(将人、妹・高坂亜弓を回想する。

(鈴香に似たところの多い、セーラー服にロングヘアーの少女)

 

 

亜弓「・・・信じてよ、お兄ちゃん!」

 

 

将人N「わかったよ、亜弓・・・信じてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

N「そう・・・信じることこそが、自分への罰。

「あのとき、もっとも信じなければならなかったものを信じなかった自分への・・・」

 

 

 

 

 

 

 

(将人、祠を開く。

(その背後、少しずつ塵が集まっていく)

 

将人N「・・・そういえば、昨日もこうして札を剥がそうとしてたっけ。

「日本刀を持った学生だ・・・あいつが・・・」

 

 

 

鬼切丸の少年「(突然現れ)ふっ・・・まさか信じるやつがいたとはな

 

 

 

 

将人「そうそう! あんなふうに、突然あいつがな

 

 

 

 

 

 

 

・・・って、おい!

お前、いったい・・・?」

鬼切丸の少年「そんなことより・・・後ろに気をつけな」

 

(思わず振り返る将人。

(その背後、姿をあらわした翡翠丸が立ちはだかっている)

 

将人「う・・・(奇妙な沈黙の間)・・・うわあああああっ!

翡翠丸「我が結界を荒らすとは面映ゆき也、人間・・・喰らってくれようぞ

鬼切丸の少年「やっとあらわれたな翡翠丸。今日こそ、この鬼切丸で引導を渡してやるぜ!」

翡翠丸「(気づいて)うっ・・・うぬは、鬼切丸かっ!

将人「(腰を抜かして)うわ・・・ほ、本当に、鬼だ・・・!」

鈴鹿「探偵さん! 奴をこっちに引きつけて!」

将人「あ・・・で、どうするんだ!」

鈴鹿「いいから、早く!」

 

(将人、這ったまま鈴鹿のもとへ。

(鈴鹿、握った拳を連ね合わせる)

 

鈴鹿「いでよ、大通連!

 

(鈴鹿、合わせた拳を離していく。

(拳の間、宙より大通連現れる。

(鈴鹿、大通連を抜き払い、大上段に構える)

 

鬼切丸の少年「鈴鹿、お前っ・・・!」

 

(鈴鹿、結界越しに大通連で翡翠丸の右足を貫く。

結界より電光ほとばしり、鈴鹿の身体を灼く)

 

鈴鹿「きゃあああああっ!

鬼切丸の少年「鈴鹿っ!」

将人「鈴香ちゃん!」

鈴鹿「・・・今だ、はやく・・・

 

(鈴鹿、倒れ伏す。

(その手から離れた大通連、翡翠丸の右足を縫い止めている)

 

将人「(呆然と)あ・・・、あ・・・」

 

(将人、鈴鹿の姿に、ごと咽喉かれた亜弓の遺体のイメージを重ねて見ている)

 

将人「・・・あ、亜弓ぃーーーっ!

 

(将人、敢然と翡翠丸に立ち向かう)

 

将人「てめぇっ! よくも・・・よくも亜弓をっ!」

翡翠丸「うぬっ・・・虫ケラが!・・・

 

(翡翠丸の爪、将人に襲いかかる。

(間髪でかわしながらも、その衝撃に転倒する。

(将人の右頬二本血筋が走る)

 

将人「(起きあがり)くっ・・・チクショウ!」

 

(将人、翡翠丸の右膝に痛烈な回し蹴りを喰わせる。

(大通連の傷口に影響してか、翡翠丸、激痛に叫びをあげ膝をつく)

 

翡翠丸「ぐああああっ!

将人「どうだ、亜弓の仇だっ!(拳を振りかざす)

鬼切丸の少年「馬鹿っ、護符だ、護符を早く!

将人「(我に返って)あ・・・う、うん・・・!」

 

(将人、翡翠丸の脇をすり抜け、祠にたどりつく。

祠を開き、中の護符に手をかけ、一気にむしり取る)

 

将人「(護符を手にして)やったぜっ、ゲットだ!」

鬼切丸の少年「よし、上出来だっ!」

翡翠丸「わぁあああっ、儂の・・・結界がっ!

 

N「それは、同族殺しを天命とする名も無き純血の鬼」

 

(祠を包んでいた結界の光、消滅する。

(鬼切丸の少年、祠内に突入)

 

N「ただ民は、

その鬼の肉をも断つ刀をこう呼んだ。

鬼切丸と!」

 

(鬼切丸で翡翠丸を両断する。

(翡翠丸、断末魔をあげながら塵と化していく

 

翡翠丸「(断末魔に重なるように)お、おのれ・・・だが・・・

 

(翡翠丸、消滅する。

(それを見守る鬼切丸の少年、将人、そして鈴鹿御前=鈴香)

 

将人「(鈴香に駆け寄り)あ、亜弓・・・しっかりしろ!」

鈴香「・・・(意識を取り戻す)

将人「あ・・・いや、鈴香ちゃん。大丈夫かい?」

鈴香「・・・はい」

将人「よかった・・・鈴香ち・・・いやいや、鈴鹿御前だったっけ? ううっ、もう何がなんだかワケがわかんなくなって・・・イテテ!(頬を押さえる)今になって痛み・・・」

鈴香「その傷・・・! 大丈夫ですか?」

将人「(笑って)平気平気、ツバつけときゃ直るって」

鬼切丸の少年「(将人の背後から)おい」

 

(将人の背後、鬼切丸の少年が立っている)

 

将人「(振り返って)お前・・・」

鬼切丸の少年「たいしたもんだな、人間」

将人「・・・そうだろ? たいしたもんだぜ、俺も。あはははは・・・」

 

(振り返ったまま笑ってみせる将人。

(その頬の傷、意味ありげにクローズアップ)

 

N「

くっくっく・・・莫迦め・・・

 

(to be continued)

 

(H11.10.24 R.YASUOKA
(Based on comic,'ONIKIRIMARU'
(by KEI KUSUNOKI)

おことわり:
本作はフィクションです。登場する、あるいは想起されるいかなる人物・団体・事件とも
実在の物と関係ないことをご了承ください。

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