鬼切丸オリジナルストーリー

「羅生門の章<前編>」

 

主な登場人物

 

鬼切丸の少年(禿かむろ姿の若者。常に日本刀を携えている)

 

ツナ(羅生門にすむ若者)

アカガネ(羅生門にすむ孤児たちのリーダー)

ナミ(羅生門にすむ少女。アカガネの妹、ツナの恋人)

 

トンボ(羅生門にすむ盲目の孤児)

羅生門の子供たち

羅生門の若者たち

 

卜部六郎(北面の武士)

源頼光(北面の武士、源氏一党の棟梁。卜部の主君)

 

 

(平安時代。夜)

N「平安時代末期。貴族政治の頽廃と末法思想のひろまりとが政治の荒廃と治安の乱れを招き、平安京と名付けられた王都は、浮浪者と死人と盗賊とがはびこる街と化していた。そして人々の間には、ひとつの噂がひろまっていた。

「すなわち、『羅生門には、鬼が棲む』

 

(貴族の館。混乱する人々、跳梁する鬼面のものども)

叫び1「鬼だぁーっ、鬼が出たぞ!」

叫び2「鬼が・・・宝物を奪い取ったぞ」

叫び3「衛士ども、追えやぁ、追えや!」

 

(宝物を奪い、館を脱出する鬼面のものども。

(それを追う、騎馬と徒歩の兵士たち)

衛士「(馬上から)追えッ、逃すな!」

ツナ「(金棒を手に)ここはまかせろ!

鬼面のものたち「すまん!(逃走)」

 

アカガネ「(ツナとともに残り)いくぞ、ツナ!」

ツナ「おう、アカガネ!」

(鬼面のアカガネツナ、金棒を手にして追撃の兵士に立ち向かう。

(金棒を振るい、次々に兵士をたたき落とす)

 

(追っ手をひとり残らずうち倒したツナとアカガネ、月下に立つ。

(少し離れたあたりから二人を見ている、鬼切丸の少年)

ツナ「おい・・・あいつは(少年に気づき)」

鬼切丸の少年「見事な腕だな

ツナ「何だと、やる気かっ!(金棒をかまえる)」

アカガネ「(ツナを制し)よせ、無用な争いはするな」

 

(ツナとアカガネ、鬼切丸の少年の横をすり抜け、走り去る)

鬼切丸の少年「(見送り)ふ・・・人間には用はないさ・・・」

鬼切丸の少年N「だが鬼ならば、斬るまでよ・・・この、鬼切丸でな

 

荒れた印象の(だが焼け落ちてはいない)羅生門。

(ツナとアカガネたどりつき、鬼面を投げ捨てる。

(門の周辺から子供たちとトンボ、二人のもとに集まってくる)

子供1「お帰り、アカガネ兄ちゃん」

トンボ「(目元に火傷跡のある盲目の子供。ツナの手を取り)ああ、ツナ兄ちゃんだね!」

子供2「ねえ、おみやげは!?」

 

ツナ「(子供たちに)おい、人が死ぬ思いをしてきたのに、みやげの心配か?」

アカガネ「みんなは無事か?」

子供たち「うん!・・・(二人の手を引き)ナミ姉ちゃん、兄ちゃんたちが戻ってきたよ!」

 

(羅生門の門内。ナミ、そして若者たち、子供たちが食事の支度をしている)

若者「おかえりなさい!・・・無事でしたか」

アカガネ「みんなも大丈夫だったようだな」

ナミ「(アカガネに)おかえり・・・お兄ちゃん

アカガネ「ただいま・・・あ、メシか?」

ナミ「うん・・・二人が戻るまで待ってたんだよ」

 

(食事中。車座になったアカガネ、ツナ、ナミたち)

アカガネ「首尾はどうだったか」

若者1「けっ・・・貴族の宝物といっても、ガラクタばかりでたいしたものは」

若者2「でも、これを市に出せば、なんとか冬を越せそうです」

女1「だけど今日、また門に赤子が捨てられてたんだよ・・・二人もさ」

若者3「そうか・・・それじゃもう一軒くらいは襲わないとな」

若者4「でもよ、貴族の館なんてちょろいもんだぜ

若者5「そうだな、どいつもこいつも腰抜け揃いで」

アカガネ「だが・・・北面の武士たちが市中警備に乗り出しているという話もある、油断するな」

(ツナ、話に耳を傾けながら、対面にいるナミを見ている。

(ナミ、隣に座すトンボに食事を食べさせているが、ツナの視線に気づき見つめ返す)

 

若者1「おいツナ、さっきからなに黙っているんだよ」

子供1「(視線の先、ナミに気づき)あーっ、ナミ姉ちゃんと見つめ合ってるぅ!」

ツナ「わっ、コラ! バカ・・・」

若者2「おっ。赤くなったな

トンボ「(ナミの手を取り、顔に触れ)ああ、ナミ姉ちゃんも赤くなったね!」

ナミ「こ、こら!」

(一座、爆笑する)

 

(みな寝静まった深夜。

(門の外、月の下。ひとり素振りをするツナ。

(その背後に、ナミがひっそりとあらわれる)

ツナ「(ナミに気づいて)あ・・・」

ナミ「また、稽古なの?」

ツナ「ああ、うん・・・そうだ!(思い出して懐を探る)」

 

(ツナ、懐中よりを取り出し、ナミに手渡す)

ツナ「これ・・・昼間、市で買ったんだ。・・・やるよ」

ナミ「え・・・、あ、ありが・・・」

ツナ「(背をむけ)いや、ついでだから・・・ごめんな。もっと高いの買ってやりたかったんだけどよ

ナミ「・・・ううん、いいの!」

ツナ「もっと・・・もっと強くなりてえんだ!

「そして・・・アカガネと一緒にえらい侍になって、この門に住むガキたちを守って・・・そして・・・ナミにも・・・盗むんじゃなくて、もっときれいな櫛を買って・・・櫛だけじゃない、その・・・きれいな着物や、高い紅を買ってやれるようになりたいんだ!」

ナミ「(ツナの後ろから寄り添い)ううん・・・いいの。ただ・・・」

ナミN「ただ・・・このままみんなで笑っていられれば、それだけでいいの

 

N「相次ぐ鬼の跳梁に朝廷は、北面の武士(朝廷や上級貴族の警備を目的とする武士団)に市中警護の任に当たらせ、その退治を命じた」

(逃げ回る鬼面のものども。騎馬で追う卜部六郎ら武士たち

鬼面のもの「チキショウ! しつこく追ってきやがる」

卜部六郎「わーっはっはっは! 我こそは北面にその名とどろく卜部六郎なるぞ!

「都を荒らす鬼ども、命が惜しくば縛につけぃ!」

アカガネ「みんな、ここはツナとくい止める。先に行けっ!」

ツナ「おう。いくぜ!」

 

(武士たちと闘うアカガネ、ツナ。

(精鋭武士の前に、おされ気味)

アカガネ「くそっ、囲まれるか

ツナ「アカガネ、逃げてくれ!

アカガネ「馬鹿っ、お前を残して逃げられるか!」

(武士たち、二人を包囲する。

(数名の武士包囲から離れ、逃げた仲間を追撃する)

ツナ「早くっ! ここはまかせろ、仲間を頼む!

(ツナ、包囲の武士につっこむ)

アカガネ「・・・すまん! ツナ・・・必ず帰ってこい」

アカガネN「ナミを・・・泣かせないでくれ

(アカガネ包囲を突破、武士を追いかける)

 

(武士たちに取り囲まれたツナ、金棒をふるって奮戦する)

ツナ「(武士を突き倒しながら)うおおおおおお!

ツナN「こんなところでやられるわけにはいかないんだ・・・ナミ・・・」

 

(ナミの面影)

ツナN「誰よりも強くなって、偉くなって、幸せになりたかった・・・ナミと一緒に」

ナミN「ただ、一緒に笑っていたかったのに

 

卜部「ほう、なかなかやるな!・・・だがっ

(四方よりのびる鉤付きの棒、ツナの体を捕らえる。

(その勢いで面が外れ、素顔があらわになる。

もがくツナに激しい殴打が加えられる)

ツナ「うっ・・・!(気絶する)」

武士1「人間だったのか・・・」

武士2「この野郎! 手間をかけさせて(刀を振り上げる)」

卜部「よせ! 捕らえて連れてこいとの、お館様のご指図だ」

 

(源頼光の館。縁側に頼光、卜部ら家人を従えている。

(庭先に縛られ、転がされたツナ。水をかけられて意識を取り戻す)

ツナ「(自分の様に気づき)・・・!」

頼光「気がついたな。なるほど・・・いい眼をしておる」

ツナ「てめえは・・・何者だ!」

卜部「黙れっ! お館に向かってその口は・・・」

頼光「まあいい、六郎・・・儂は、北面を束ねる源家の棟梁だ。人は、源頼光と呼ぶ」

ツナ「てめえが・・・頼光か!」

頼光「そうだ・・・お主が、羅生門に巣くう鬼だな。名は、何という」

ツナ「鬼なんかじゃねえ! みんな、親が死んだり、捨てられたりした連中だよ・・・お前ら侍に殺されたり、遊び半分で眼を潰された子供だっている・・・」

頼光「ふっ・・・それで鬼を騙って、貴族の屋敷を襲っているのだな」

ツナ「生きるためだ! さあ・・・貴族の飼い犬ども、さっさと殺しやがれ!」

卜部「ぶ、無礼な!(刀に手をかける)」

頼光「(制して)まあまあ。武遍の卜部を手こずらせただけあって、たいした度量だ・・・気に入ったぞ」

 

(頼光、庭に降りてツナに近づく。

(ツナの背後に回ると短刀を抜き、ツナを縛る縄を自ら切り払う

ツナ「(驚いて)・・・」

卜部「お館っ!

(自由を取り戻したツナ、呆然と頼光を見ている)

頼光「どうだ・・・儂に仕える気はないか」

ツナ「え・・・」

頼光「儂は・・・おぬしのような強い男を求めておる」

(ツナ、あたりを見回す。

(周囲にひかえる、頼光配下の武士たち)

頼光「確かに我らは、今は朝廷や公家の飼い犬に甘んじておる。だが、いつまでもこのままではいない

頼光N「この、乱れた世に・・・自らの力で生きていける、強い力を得るために

ツナN「強くなって、偉くなって、みんなで幸せになるんだ」

ツナ「いやだ・・・といったら」

頼光「おぬしは断らぬ・・・(卜部に)髭切をもてい

卜部「髭切を!・・・はっ、ただいま」

(卜部、ひと振りの太刀を持ってくる。

(頼光、立派な拵えの太刀をツナに渡す)

頼光「儂の佩刀だ、髭切の太刀という。・・・これを、つかわす」

ツナ「(太刀をとり)・・・」

 

(ツナ、やにわに太刀を抜き、頼光に斬りかかる

(頼光、短刀をかまえ、太刀をくい止める)

ツナ「!」

頼光「(動じず)ふむ、なかなかの太刀さばきだ・・・ますます気に入ったぞ!」

(しばし睨みあうツナと頼光。

(やがてツナ、勘念してうずくまる)

 

ツナ「くそっ! 好きにしろ」

頼光「そうか・・・おぬしばかりではない・・・羅生門にいる仲間たちも、ぜひ配下にしたい。どうじゃ、説得に向かってくれぬか」

ツナ「う・・・」

頼光「時がないのだ。・・・すでに、羅生門には追討の兵を差し向けることが決まっておる」

ツナ「何だと!」

頼光「追捕は明朝だ。その前に、ひとりでも多く迎え入れたい」

 

(解放されたツナ。羅生門に向かう)

頼光N「おぬしほどの技量を持つ者がいれば、何としてでも手に入れたいものよ

 

(羅生門、深夜。門の前でナミ、ひとりツナを待っている)

ナミN「お願い・・・ツナ・・・帰ってきて・・・

強くなくてもいい、何もいらない。ただ・・・みんなで一緒に・・・

ツナ「ナミ!」

ナミ「ああ、ツナ! 無事だったのね・・・その刀は?」

ツナ「説明は後だ、アカガネは!?」

ナミ「中よ。ツナをずっと待っているわ

 

(門内。アカガネ、ツナ、ナミ。その他の若者たち)

アカガネ「何・・・頼光が?」

ツナ「ああ。配下に迎えてくれるということだ」

若者「それじゃ・・・侍になれるのかよ!

アカガネ「早まるな! ・・・頼光という男、北面の武将の中でも奸智に長けた男だ。

「配下にするといって、投降した者を殺すこともやりかねない」

ツナ「そんなことは・・・頼光は、我らの力を欲しがっているんだ」

ナミ「兄さん、ツナを信じてあげて!」

ツナ「なあアカガネ、迷っている間はないんだ。明朝にはこの門に・・・」

若者「(外から駆けつけ)大変だ! 侍たちが、門のまわりを囲んでいるぞ

アカガネ「何っ!」

(窓から見えるかがり火、おびただしい兵士たち)

アカガネ「ツナっ、お前が手引きしたのかっ!

ツナ「ち・・・違う!」

 

(頼光の館。戦支度の頼光のもとに伝令が駆けつけている)

伝令「申し上げます! 平・藤原の一党、すでに羅生門を取り囲んでおります」

頼光「おのれ・・・功をあせりおって! 馬引けい、我々も出陣だ!」

頼光N「なんとしても、あいつらを・・・頼むぞ」

 

(羅生門。迫り来る兵士、応戦する若者たち。

(門内で、アカガネに殴り倒されるツナ)

ナミ「きゃあああああ、ツナ!」

アカガネ「ツナぁ、よくも裏切ったな!」

ツナ「違うんだ・・・アカガネ・・・話を聞いて・・・」

(アカガネ、ツナを殴り続ける。

(二人の間に立ちはだかるナミ。

(アカガネの一発がナミに当たり、はじき飛ばされる。

(ナミの体、照明の燭台にぶつかり、ナミ意識を失う。

(倒れた燭台の火、壁に燃え移る)

アカガネ「ナミッ!・・・おのれ、ツナぁっ!」

(アカガネ、金棒を手にツナに襲いかかる)

N「ただ・・・みんなで一緒に暮らしていたかっただけなのに

 

(ツナ、思わず髭切の太刀を抜いて応戦。

(門の周辺で戦う若者。次々にうち倒されていく。

(ツナの一閃、アカガネの腕を切り落とす)

アカガネ「うわぁあああああ!」

ツナ「・・・アカガネぇ!」

 

(門内に乱入する兵士たち。

(逃げまどう子供たち、女たち。

(頼光、部下とともに切りこんでいる)

卜部「女子供に手を出すなっ。抵抗せぬ者は殺すな!」

頼光「・・・(傍らの卜部に)あの男はいたか」

卜部「は、まだ見かけませぬ」

声「あっちだぜ

 

(兵士に混じって鬼切丸の少年、頼光を見据えて立っている)

鬼切丸の少年「・・・ほら、強い鬼気が感じられるだろう。頼光よ」

卜部「何奴っ!」

頼光「(気づいて)お・・・お前は・・・」

鬼切丸の少年「久しぶりだな」

卜部「お館、あやつは?」

頼光「古い知り合いだ・・・おぬしが出てきたということは・・・ここに、いるのか」

鬼切丸の少年「ああ! 先に行くぜ(走り去る)」

頼光N「・・・まごうかたなき、本物の鬼が。

その手にした刀は鬼の肉をも切り裂く、同族殺しの純血の鬼よ

鬼切丸の少年「(走りながら、鬼切丸を抜き払う)人間ひとが何をしようと、知ったことじゃねえ。だがそれが鬼なら、斬るまでよ・・・この、鬼切丸でな!」

 

門内。炎が拡がっていく。

(倒れたままのナミ、腕を押さえて苦しむアカガネ、髭切を手に呆然とするツナ。

(床に転がる、アカガネの腕)

アカガネ「うがあああああ!」

アカガネN「よくも・・・よくも・・・

(アカガネの回想。アカガネ、ツナ、そしてナミの三人で仲良く笑っている姿)

N「ただ、みんなで笑っていたかっただけなのに」

アカガネN「よくも・・・よくも・・・

(アカガネの姿、しだいに鬼へと変貌していく)

ツナ「ひっ・・・!」

 

(アカガネ、完全に鬼と化す。

乱入した兵士、その姿を見て恐慌する

兵士1「うわああああ、鬼だあ!」

兵士2「そ、そんな馬鹿な!」

(アカガネの鬼、兵士に飛びかかり、次々に喰い殺す)

 

ツナ「そ、そんな・・・」

(アカガネの鬼、ツナに襲いかかる。

鬼切丸の少年現れ、アカガネの鬼を斬る。

(アカガネの鬼、斬られて塵と化していく)

アカガネの鬼「よくも・・・ツナ・・・ナミ・・・

N「何もいらない」

 

ツナ「あ、アカガネ・・・」

(ツナ、太刀を手にしたままでアカガネの腕を手にする。

(ナミ、意識を取り戻す。

(その視界に、くずおれるアカガネの姿が入る)

ナミ「いやあああ、兄さん!」

N「本当は・・・みんなで笑っていられれば・・・それでよかったのに

 

炎にまかれる羅生門。

(捕らえられ、武装解除される若者たちと、救出される子供たち。

(ナミの姿、煙と炎の影に消えていく。

(追いかけようとしたツナ、卜部ら数名の武士に押さえられている)

ツナ「待ってくれ、待ってくれ! ナミぃいいいー!

 

(焼け落ちる混迷の羅生門をバックに、鬼切丸の少年の姿)

N「羅生門には、鬼が棲む

 

(TO BE CONTINUED)

(H11.1.12_R.YASUOKA)
(Based_on_'ONIKIRIMARU'
by_KEI KUSUNOKI)