THEビッグオー オリジナルストーリー

Intermission 01:

The PAPETT MASTER

Chapter 01

 

 

主な登場人物

 

 

ロジャー=スミス
(パラダイム・シティの交渉人(ネゴシエイター)。黒いメガデウス「ビッグ・オー」を操る)

 

R・ドロシー=ウェインライト
(アンドロイド)

 

ノーマン=バーグ
(ロジャーの執事)

 

 

ダン=ダストン
(パラダイム・シティ軍警察少佐)

 

 

アレックス=ローズウォーター
(パラダイム社社長)

 

 

ビッグ・オー
(黒い巨大ロボット(メガデウス))

 

 

E.アシハナ
(異国の殺し屋)

ハザマ
(アシハナの相棒)

 

 


(パラダイム社長秘書、という肩書きを今は持つブロンドの美女)

 

 

 

scene#1:HOTEL CORAL WIND#203

 

(踊るマリオネット、闇に浮かぶ。

(カリカチュアされたピエロのデザイン。

(何者かに操られて、

(軽やかにリズムを刻み、闇に踊る。

 

(オーバーラップして現れる、乗用車の内部空間。
(フロントガラスから差す
強い光

(黒白の、シルエットとして描き出している光景。

(黒い影となって映る、助手席に座る男。

くゆらす煙草の煙が漂っている。

 

(男、煙草を灰皿に押し込むように火を消す。

(数え切れない吸い殻が詰め込まれた灰皿。溢れた灰がこぼれ落ちる。

 

(線の細い印象の、細面の男の横顔、

(何かに気付いたように、まばゆいフロントガラスの向こうに視線を向ける。

(そして、ゆっくりと、

(何かをつぶやくように唇を動かす)

 

(暗転のように現れる闇。

(再び浮かび上がる踊るマリオネット。

(唐突にあらわれる、
(セピア調の
黒髪黒服の若い男のイメージ。

(一度でも『THE ビッグオー』を観たことの人ならば、

(その姿が本編主役のロジャー=スミスであることが、一目でわかる)

 

(電話のベル。

(E.アシハナ、ホテルのベッドで鬱おしげに眼を醒ます。

(散らかった部屋。捨てられたビール缶、吸い殻でいっぱいの灰皿。

(ツインの部屋。隣のベッドでハザマ、眼を醒ます。

(時たま窓の外から、ネオンや車のライトが差し込んでくる。

 

ハザマ「(起きあがり、電話に手を伸ばし)兄貴、あっしが……

アシハナ「いい。(と制し)あたしが出る」

 

(アシハナ、裸の半身を起こし、
(ベッド脇に
脱ぎ捨てられたワイシャツに手を伸ばす。

(ポケットをまさぐり、煙草とライターをつまみ上げ、くわえて火を付ける。

(鳴り続ける電話のベル。

(煙を吐き出すアシハナ。

(一服のち、アシハナ、ベッドの枕元の電話に手を伸ばす

 

アシハナ「もしもし……ああ、あんたかい」

 

(ハザマの視界から、受話器に話しかけるアシハナの口元。

(助手席の男と同じ角度、同じ輪郭、同じ唇。

 

アシハナ「……ふっ、何度言われても返事はノーです」

 

(アシハナ、煙草を枕元の灰皿に置く。

(先端がく燃え、灰が音もなく落ちる。

(ハザマ、部屋の隅の小さな冷蔵庫を開く)

 

アシハナ「まぁ、あの兄さんとメガデウスは、あたしに任せてもらいやしょうか」

 

(ハザマの手、冷蔵庫の缶ビールを取り出す)

 

アシハナ「おっとハザマ、コーヒーにしてくんな

「……いや、こっちのこってす……そう、パラダイムの旦那にも伝えといてくんな……んじゃ」

 

(アシハナ、電話を切る。

ハザマ、コーヒーを、ご丁寧にカップに移し換えて運ぶ)

 

アシハナ「おう、ありがとよ」

ハザマ「またあの女ですかい?」

アシハナ「ええ」

 

(アシハナ、煙草を灰皿に置き、コーヒーを一口)

 

アシハナ「……ハザマぁ」

ハザマ「へい?」

 

(アシハナ、灰皿から煙草を取り上げる)

 

アシハナ「……あんた、『記憶(メモリー)』が……」

ハザマ「え?」

アシハナ「……いや、なんでもねぇ」

 

(紫煙、闇に消えていく。

(オーバーラップして、踊るマリオネット、闇に浮かぶ)

 

 

scene#2:OLD J.F.K INTERNATIONAL AIRPORT

 

(50年代のアメリカを想起させる街、パラダイム・シティ。

(灰色の空の下、街角を走り行く黒いセダン『グリフォン』。

(グリフォンのハンドルを握る黒髪、黒いスーツの男……ロジャー=スミス)

 

ロジャーN「私の名前ロジャー=スミス。

「この、記憶をなくした街パラダイム・シティに必要な仕事をしている。

「この街……いや、この世界は、40年前のある日を境に、すべての記憶が失われた。

 

(走るグリフォン。

(ボンネットに飾られた、伝説獣エンブレムが風を切る)

(グリフォン、街を離れる。

(その背後に、パラダイム・シティの全景。

(スラム化した摩天楼、

(と、

(街を覆う巨大なドーム街が混在するメトロポリス)

 

ロジャーN「しかし、それでも人間というのは何とかしていくものだ。

「どうすれば機械が動き、電気が得られるのかさえわかれば、『文化』とやらは装える」

 

(グリフォン、住む者すらいない荒野に分け入る。

一帯の砂漠に埋もれているのは、

(ひび割れ波打ったアスファルトの滑走路、

(廃墟と化した管制塔、傾き錆びついたジャンボ・ジェット。

(そう……そこは、遙か昔は『空港』と呼ばれていた区域。

(走り抜けた路傍に『J.F.K……』『AIRPORT』と描かれた朽ちた案内板が転がっている)

 

ロジャーN「過去に何があったのか、何が無かったのか。

「気にせずに生活だってできる……いや、そう努力してきたのだ。

「記憶を失って哀しんでいるのは、この街の老人だけだ。

 

(グリフォン、崩れた建物の残骸に滑り込み、停車する。

(ロジャー、車に乗ったままあたりを見回す)

 

ロジャーN「しかしメモリーは、

悪夢のように

いきなりその姿を現す時がある」

 

(元は格納庫だったらしい巨大な、そして虚ろな空間。

(壊れた屋根から陽が射し込んで、室内の埃を照らし出している)

 

女「相変わらず時間に正確なのね、ネゴシエイターさん」

 

(ロジャー、声の方向を見る。

(タバコの煙。

(女、忽然と、しかしずっと以前からそこにいたかの如くに姿を顕す。

(ピンクのコート、首にスカーフを巻いたブロンドの美女。

(女、ゆっくりと、グリフォンへ歩いてくる)

 

 

ロジャー「今の君は何という名前なのかね、エンジェル」

女「お呼び立てしてごめんなさい。あなたと二人きりになりたかったのよ」

ロジャー「用件を話してもらおうか」

女「あら、冷たいのね……乗せていただけない? 

「座って話したいのよ」

 

 

(女、グリフォンの助手席側に廻り、ドアを勝手に開いて勝手に乗り込む。

(車内で、女、ハンドバッグから書類を取りだし、ロジャーに見せる。

(英文字で書かれた写真付きプロフィルは、E.アシハナとハザマのもの)

 

女「E.アシハナ、アサシネイター。金で人殺しをする殺し屋。

「あなたの仕事は、この男と交渉して依頼を中止させることよ」

ロジャー「アシハナ?」

女「奇妙な名前でしょ? 異国の人間かしらね」

ロジャー「君と同郷というわけか」

女「あら? 私はこの街で生まれたのよ」

 

(女、煙草を手にして、口にくわえる)

 

女「吸っていいかしら?」

ロジャー「女性喫煙には賛成できないな」

女「心配してくれてうれしいわ(火をつける)」

ロジャー「金で殺人を請け負う殺し屋……
それで、この男はいったい、誰の命を狙っているというのかね」

女「私の知ってる情報では、
彼はすでにパラダイムシティに潜入して、
アウト・オブ・ドーム52番街のカーニバルにいるわ。

「ロジャー、
あなたから
一番近いサーカスで、
人形芝居の芸人にまぎれこんでいるのよ」

ロジャー「人形芝居?」

女「そうよ。奇妙でしょう?」

 

(女、煙をくゆらす。

(ロジャー、スイッチを入れてエアコンを強化、

(煙がすべて吸い出される

 

ロジャー「居場所が判っているのならば、わざわざ私を雇う必要もないと思うが」

女「もちろんアプローチはしたわ。
「何度もキャンセルを申し出て、
実際に
依頼料も返金されているの……でも、
「どういうわけか知らないけど、
彼ら、この街から立ち去らないで、
「標的を狙うことをやめようとしないのよ」

ロジャー「なら、その男の好きにさせればいいじゃないか」

女「……そういうわけにはいかないわ」

ロジャー「道義的責任とでもいうつもりかね……
それにしても、アレックス=ローズウォーターに、
わざわざ殺し屋を雇うほどの敵がいるとも思えないがね」

女「確かに私は代理人に過ぎないけれど、私の依頼人を想像するのはあなたの勝手だわ」

ロジャー「……話を戻そう。それで、この男の標的は?」

 

(女、脚を組み替える。

(コートの裾からこぼれる
ミニスカート、
白い太腿。

(ロジャー、窓の外の風景に視線をやる。

(人のいない荒涼としたその風景に、一陣の風が吹く)

 

女「……」

ロジャー「この殺し屋は、誰を狙っているんだ?」

女「それは言えないわ」

ロジャー「私は依頼に関して、依頼人に
必要な情報を包み隠さず話してもらうことを求めている
……知らないわけでもあるまい」

女「法的に不利益になる事は話せないのよ」

ロジャー「法的にだと? この街をほしいままにしている
パラダイム・シティ支配者が、
いったいどんな法律に縛られるというのか」

女「あなたの意見は推測の域を出ないわ、ロジャー=スミス」

ロジャー「あくまでしらを切るつもりか……」

女「どうにせよ、あなたはこの依頼を受けざるを得ないのよ」

ロジャー「エンジェル。今の君がどんな名前であろうと、
私が気に入らない依頼を受けない主義であることも知っているはずだろう」

 

(女、口を閉ざす。

(しばらく逡巡する素振りを見せて後、

(女、まずタバコの火を携帯灰皿でもみ消すと、

(それから、ハンドバッグから書類を取り出す)

 

女「怒っちゃいやよ」

 

(女、書類をロジャーに差し出す。

(ロジャー、書類に目を通し……凍りつく)

 

女「手続ミスだった、と
依頼人は言ってるわ。
送るべきターゲットの資料と間違えてしまった、とね」

ロジャー「ふざけるな!

 

(ロジャー、書類を叩きつける。

(ダッシュボードに投げつけられた書類には、

(ロジャー=スミス自身の顔写真、プロフィルが記載されている)

 

女「(身をかがめ、書類を拾いながら)……ロジャー。言ったとおりでしょ。あなたは、この依頼を受けることになるわよ……ね」

 

(ロジャー、女を手伝い書類を拾いはじめる)

 

ロジャー「まるで道化だな……すると私は、
私を殺しに来る異国の殺し屋に、
どうか私を殺すのを思いとどまってくれ、とネゴシエイトしなければならないのだな!」

女「あなたは一流のネゴシエイターなんでしょ?」

ロジャー「エンジェル」

女「(書類をまとめて)あなたはこれまで、
高い確率で依頼人の有利になるように交渉を導いているわ。そうでしょう?」

ロジャー「私が殺された方が有利な結果になるのではないのか」

女「そうは言わないわ」

 

(女、ハンドバッグから厚い封筒を取り出す。

(封を開け、中に高額紙幣の束を取り出し、まるでロジャーに披露するように中を確認する)

 

女「報酬は前払いよ。仕事の成否に関わりなく
……失敗しても、返さなくていいの」

ロジャー「ブラックユーモアのつもりなら、相手を選ぶことだな」

女「(微笑)」

 

(女、ロジャーに封筒を手渡す。

(ロジャー、受け取る)

 

女「彼らの情報、集められる限りの情報を提供するわ。
私の依頼人は、できる限りの手を尽くすのが、あなたへの義務と考えているのよ。

「それに私自身、心からこのネゴシエイトの成功を望んでいるわ。ロジャー」

ロジャー「エンジェル」

女「送ってくださらなくともいいわ。迎えが来るから」

ロジャー「エンジェル!」

 

(女、グリフォンを降りる。

(外に出た女の前にタクシーが現れ、停まる。

(女、タクシーに乗り、走り去る。

(ロジャー、引き留めようとしたとき、

アラーム音が鳴り出したのに気づき、左腕の腕時計を見る。

(腕時計の文字盤がモニタになり、執事ノーマンの顔が映る。

(細面で、高齢だが精悍印象を与える白髪の、隻眼の紳士)

 

ロジャー「どうした、ノーマン」

ノーマン「お仕事中のところ申し訳ございませんロジャー様、
軍警察のダストン少佐から、緊急にお会いしたいと連絡がございました

ロジャー「ダストン……? わかった、彼の所に向かおう」

ノーマン「ありがとうございます。
ところで、今日のご夕食はお召し上がりになられますか?
 それとも外でお済ませになりますか?

ロジャー「ああ。今夜は家で食べようか」

ノーマン「左様でございますか。
では腕によりをかけてご用意させていただきます

ロジャー「ありがとう。楽しみにしているよ」

 

 

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