無敵看板娘オリジナルストーリー
「君に送るエール (その1)

 

 

登場人物

 

鬼丸美輝
(ラーメン屋『鬼丸飯店』の看板娘。とにかく強い)

鬼丸真紀子
(美輝の母。もっと強い)

太田明彦
(美輝の隣に住む八百屋。筋金入りのヒーローマニア)

西山勘九郎
(美輝に挑み続ける復讐の鬼)

神無月めぐみ
(パン屋『ユエット』の看板娘。美輝に敵愾心を燃やす)

 

 

秋吉冬美
(女優。『スターレンジャー』『ブツレンジャー』に出演)

モモコ
(女優。『スターレンジャー』『シーレンジャー』に出演)

 

マネージャー

メイク

ワイドショーの出演者たち

ドラマのスタッフたち

町の不良・ヤクザ・暴走族たち

 

甲斐隆之
(スーパー『テッコツ堂』店員。美輝たちの商売敵)

伊原カンナ
(スーパー『テッコツ堂』店員。美輝に憧れる)

 

 

 

 

れたでしょう?

憎しみや怒りを忘れてに身を委ねて……、

大丈夫

はすべてを許し、すべてを包み、すべてを与えます……。

……ゆっくり休みなさい……。

 

スタッフ「はいカーッ!……OKでーす!」

 

(都内某スタジオ・特撮番組『海洋戦隊シーレンジャー』収録現場。

(スタッフの掛け声と共に静寂と緊張が解ける。

(あわただしく動き始めセットを転換するスタッフたち。

(クラーケンクイーン役のモモコ、セットを離れる)

 

スタッフ「モモコちゃん、セット組み替えまで休憩です!」

モモコ「はーい」

スタッフ「モモちゃーん、今のうちにお昼、食べといてよ」

モモコ「はーい」

 

(楽屋。モモコ、扮装を外しながら登場。

(中にいたメイク、仕出し弁当を用意してモモコを迎える)

 

メイク「モモちゃんおつかれさまー。
 クラーケンクイーン、何度観ても泣けちゃうわぁ」

モモコ「ありがとうございます♪」

メイク「ピンクスターの豪快なアクションから一転、技派女優開眼ってトコね」

モモコ「そんなぁ、演技派なんて……」

メイク「照れなくったっていいわよ。目指すは第二の秋吉冬美でしょ♪
 ……今お茶淹れたげるからね、さぁ……あれ?

 

弁当、いつの間にかメイクの手元から消えている)

 

メイク「おかしいわね、どこいっちゃったのかしら……」

モモコ「(あたりを見回し)……あーっ!」

 

(モモコの視線の先、

(いつの間にか入室していた冬美、椅子に腰掛け弁当を食べている)

 

メイク「冬美ちゃんっ!」

モモコ「秋吉さんっ! それ私のお弁当……」

冬美「悪いわねぇ、ご馳走になっちゃって」

メイク「(冬美に)お久しぶりぃ〜♪ 観てるわよぉ、『ブルーホーム』」

冬美「ありがと。梅ちゃんも元気そうね」

モモコ「びっくりしちゃいましたよっ、どうしたんですか?」

冬美「近くの局でワイドショーに出るの。懐かしくて寄っちゃった」

メイク「忙しいんでしょ? ドラマグラビアCM……超売れっ子だもんね」

冬美「まぁね。ご飯食べる時間もなくってね(と云いながら、猛然と弁当をかき込む)」

モモコN「(内心の声として)……だからそれ、私のお弁当……」

 

(空になった弁当箱)

 

冬美「あーっ、ごちそうさま……あいかわらず美味しいわね」

メイク「そーお? 毎度毎度だと飽きちゃうわよ」

冬美「現場離れると恋しくなるものよ。それじゃ(席を立つ)」

モモコ「あ、もう行っちゃうんですか?」

冬美「うん。みんなにも挨拶してかないと……またね」

メイク「ええ。がんばってね」

冬美「(頷く)」

 

(冬美、二人に背を向ける。

(立ち去り際、楽屋のドアの前で振り返り)

 

冬美「モモコちゃん

モモコ「……はい?」

冬美「観てるわよ。『シーレンジャー』」

モモコ「……?」

冬美「……がんばってね」

モモコ「はい」

 

(モモコ、楽屋を出る。

(ドアの向こうから『秋吉さんっ!』『お久しぶり!』と声)

 

メイク「……立派になったわよね、冬美ちゃんも」

モモコ「そうですよね」

メイク「みんな、戦隊モノをステップに大きくなってくのね。なんかさみしいけど」

モモコ「私も、がんばらなくっちゃな」

 

N「――女優・秋吉冬美。

 「特撮番組『超空戦隊スターレンジャー』
   『神聖戦隊ブツレンジャー』の2作品でf連続して敵役を演じる。
  と裏腹な邪悪ぶりを発揮し、コアなファンを獲得する。

 「放送終了後ドラマ『続・緋色の事件簿』に抜擢。
  主人公を支えるミステリアスな先輩刑事役を好演、
   迫真のアクションも評判を呼び一気にブレイク。

 「準主役として出演したスペシャル版『新・緋色の事件簿』もヒット。

 「その間も1st写真集、バラエティ番組、CMと立て続けに話題を巻き起こす。

 「そして今春、初の主演ドラマ『ブルーホーム』が高視聴率でスタート。

 「今や、押しも押されもせぬ人気女優に成長した――」

 

(ラーメン屋『鬼丸飯店』の店内。

(掻き入れ時の昼休みも過ぎ、客の途絶えた店内で一息つく鬼丸美輝・真紀子親子)

 

真紀子「美輝ぃ、お昼にしようかね」

美輝「あいよ、待ってました♪……う〜ん、労働のあとの食事はたまりませんなぁ」

真紀子「労働ってほど働いてるかよ」

美輝「失礼な! 今日のランチタイムだって、大勢のお客さん相手に……」

真紀子「『ひとり戦隊ショー』を披露して遊んでたんだろ?」

 

(回想。

(『必殺ーファングィニッシュ!

 『ぐえぇぇぇっ
  おのれ、覚えておれシーレンジャー!

と一人芝居を熱演する美輝の姿)

 

美輝「そ、そうだったっけねぇ……?

 

(店の片隅、据えつけられたテレビではワイドショーが放送されている)

 

テレビN「お待たせしました、次はいよいよ、あの秋吉冬美さんの登場です!」

美輝「(テレビに目をやり)……?」

真紀子「なんだい(とテレビを見る)」

美輝「こいつ……ヘルズバニー!?」

 

(ブラウン管に大写しになる冬美。

(画面に重なる
人気急上昇・秋吉冬美大密着!のテロップ)

 

真紀子「ヘル……ああ、秋吉ナントカかい。最近人気あるんだってね」

美輝「おのれヘルズバニー、
 今度はテレビを使って視聴者洗脳する作戦だな!」

真紀子「なに明ちゃんみたいなこと云ってんだい。さっさとお食べ」

美輝「へーい」

 

(テレビ、冬美の一日のスケジュールの様子を放送する。

(あわただしく移動し、ドラマの収録に臨む冬美のVTR。

(一転し、ワイドショーのスタジオ。

(司会者やコメンテーターに囲まれ、冬美座っている)

 

司会者「今日は秋吉冬美さんをお招きしてお話をうかがいたいと思います。
 ……秋吉さん、今日はお忙しいところどうも」

冬美「こんにちは。よろしくお願いします♪」

司会者「いやぁ、もうすごい人気ですね。初主演『ブルーホーム』」

冬美「ありがとうございます……

 

(扉が開き、太田明彦、ネギ入りの段ボール箱を抱えて登場)

 

太田「おーす美輝ちゃん、頼まれてたネギ持ってきたぜー」

美輝「太田さん、ちょうど良かった……
(テレビを指差し)これ見てよこれ!

太田「ん……なんだ?」

 

(太田、テレビに目を向ける。

(そこに映る、質問に受け答えする冬美の姿。

(太田、突然固まる)

 

美輝「しかしさぁ、ヘルズバニーも立派になったもんだよね。
 なんていうか……
  学校の同級生が出世したような気分かな。ねぇ? 太田さん」

太田「……」

美輝「太田さん……どうしたの?」

 

(太田、静かに踵を返す。

(背中に哀愁を漂わせながら、無言で出口に向かう太田)

 

太田「じゃあな」

美輝「太田さん、どうしたの。秋吉冬美だよ? ヘルズバニー、見てかないの?」

太田「ふっ……知らねぇなぁ、そんな女」

美輝「(少したじろぎ)ん? どういうこと」

太田「いいか美輝ちゃん。ああいう役者ってのはな、ちょっと名前が売れると……」

 

(太田、インタビューを模して、横柄な態度で以下のセリフ)

 

太田「『ああ戦隊モノ? 半分アルバイトの感覚でしたね』

太田「『子供向けは実は苦手だったんですよ』

太田「『いい歳して、ビーム!とか叫ぶんだよ? もう、恥ずかしくってさぁ』

 

太田「……となぁ、手のひらを返したように戦隊モノを見下すようになるんだ。
 中にはなぁ……公式サイトの経歴欄からも削除して、
  なかった事する輩までいるんだよ美輝ちゃん!
 戦隊モノで培った正義簡単に捨て去り

を塗ってくんだ、こいつらは!」

美輝「そ……そうなの……?(ちょっとヒいている)

太田「(頭を抱える)あいつらが訴えてた正義はどこ行っちまったんだよぉ……」

美輝「けどさ、どうせヘルズバニーは悪役だったからいーんじゃない?」

太田「そうじゃないんだよ美輝ちゃんっ!
 戦隊モノはな、スタッフとキャストのチームプレイなんだ、
 ヘルズバニーやアーシュラ卿だって、悪を体現することで逆説的に正義を訴えてたんだよ!
  ……そんなこともわからないのか美輝ちゃん!」

美輝「……(絶句。かなりヒいている)……」

太田「(テレビに向かってアゴをしゃくり)この女だってそうに違いねぇ……
 っぺらなトレンディドラマに現を抜かし、
  戦隊モノの事なんか、さっさと忘れちまいたいんだろ」

 

司会者「……ところで秋吉さんといえば、
 いまだに
『ヘルズバニー』だの『ヒーロー物』だのといった
  イメージを持ってる人も多いんですが、そう思われることについてはどうお考えですか?」

冬美「うーん……そうですね、それは……云っちゃっていいのかな?」

司会者「云っちゃってください」

 

太田「ほら、こいつも後足で砂を掛けてくんだ……」

 

(画面の冬美、口を開く。

(その瞬間、ブラウン管を覆い隠す巨大なフキダシで、以下のセリフ)

 

勘九郎「鬼丸美輝ーぃ!」

 

(突如扉が開き、西山勘九郎、挑戦状を手に登場)

 

勘九郎「お前に虐げられ続けた積年恨み今ここで晴らすっ、俺と勝負ニャ!」

美輝「……うるせーっ!」

 

(美輝、条件反射的に勘九郎につかみかかる)

 

美輝「今いいとこだっ、静かにしてろ!」

 

(美輝、勘九郎を投げ飛ばす。

(宙を飛ぶ勘九郎、店の奥側の壁に激突、

(白目をむいて失神、床に落ちる)

 

美輝「(両手をはたき)そうだよ、そうして黙ってりゃいいんだよ」

 

(美輝と太田、テレビに視線を戻す)

直後、

(ぶつかった衝撃で壁のテレビがずり落ち、

(真下にいた勘九郎を直撃する)

 

美輝「あ゛ーっ!」

 

(美輝、テレビに駆け寄る。

(アンテナ線が外れ、画面には砂嵐しか映ってない。

(その下で気絶してる勘九郎、やっぱり静かなまま)

 

美輝「テレビが……

貴様!(と勘九郎に)いいとこだったのに!」

 

(美輝、拳を組み、関節を鳴らしながら勘九郎に迫る。

(その背後から、美輝とは違う別の誰かの指を鳴らす音。

(気づいて、怯えた表情で振り向く美輝。

(真紀子、燃えさかる劫火をバックに立っている)

 

真紀子「店の中で暴れんじゃないって何度云ったらわかるんだい!」

 

(鬼丸飯店・店の外。

(扉の向こうから悲鳴破壊音響く喧噪の様子。

(一人店を後にする太田)

 

太田「ふんっ……」

 

(太田、空を見上げる)

 

太田「ま……とりあえず、がんばれよとは云っとくがな……」

 

(歩き去る太田)

 

(場面転じてテレビ局、ワイドショーの収録スタジオ。

(番組が終わり、現場を去る出演者たち。

(冬美、司会者に挨拶)

 

冬美「おつかれさまでしたー」

司会者「おつかれー。
 けど冬美ちゃんさぁ、ずいぶん大胆なこと云っちゃったねぇ……」

冬美「えっ、ああ……さっきの」

司会者「あれ聞いてヒいちゃった人もいるんじゃないの? もしかして」

冬美「そうか……そうかもしれませんね。でも」

 

(冬美、不敵な微笑みを浮かべる)

 

冬美「し立てすることじゃない、と思いますから」

司会者「そう……(ちょっと気圧される)」

冬美「ありがとうございました。失礼します」

 

(スタジオを出る冬美。足早に廊下を歩く。

(あわてて追いつくマネージャー)

 

マネージャー「おつかれさん」

冬美「ねぇ、次『ブルー』のロケでしょ? 場所決まったの?」

マネージャー「やっと落ち着いたわ。ほんと、ディレクターのワガママにも困るわね……」

冬美「今から間に合う?」

マネージャー「直行すればOKよ。花見町って所、そんな遠くじゃないみたいだし」

冬美「……花見町?(足を止める)」

マネージャー「? どうしたの?」

冬美「花見町って云った?」

マネージャー「ええ……聖川の河川敷っていうから、渋滞があっても時間は……」

冬美「マネージャー」

マネージャー「?」

冬美「……私もワガママ云っていいかしら?」

 

(to be continued)

 

おことわり:
 本作は佐渡川準原作・秋田書店刊「無敵看板娘」「無敵看板娘
」をモチーフにしたパロディです。
 本作に登場する、あるいは想起されるいかなる人物・団体・場所・事件・特撮番組その他も、
  実在のものとはまったく無関係です。

【続きを読む】 【メニューへ戻る】