からくりサーカスオリジナルストーリー
「島原傀儡舞〜元治二年・払暁〜

 

 その41 

 

 

さすが土方さんだ、喧嘩の仕方を心得てますね」

 声を聞き、土方が見た。

 いつの間にか、

 いつの間にか、沖田が隣に立っていた。

「総司」そう呼んだ。「山南さんはどうした」

「奥にいますよ」沖田が応える。

「一人でか」

「そうです」

バカ、誰かに奪われたらどうする」

「奪わせましょうよ」

 沖田の表情は変わらない。

 その眼は、中庭で闘う正二郎たちに注がれていた。

 人形を操るアンジェリーナは無防備であり、そこを松原が狙う。

 それを阻もうと正二郎が動くと、対戦する斎藤がその隙を突いてくる。

 操作に専念できない《あるるかん》の動きを、原田が妨げている。

 それを、土方と沖田の二人が観ている。

「ほんとは土方さんだって、そう思ってるんでしょ」

 視線を外すことなく、沖田は続けた。

 土方は応えなかった。

「だけど……みんな、困ってますよ」

 返事を求めず、話を変えた。

 ……もとから、応えを訊こうとは思わなかったのだろう。

 土方は無言だった。

 闘い全体に、
 眼を配っている。

 構わずに、沖田は続けて云った。

「あいつらに負けたいのに、土方さんが負けさせてくれない」

「当たり前だ」

 表情も変えず、土方が静かに返す。「俺達は新選組だ」

「そうですか……我々は新選組だから、ですか」

 沖田がつぶやいた。

 納得したのか、してないのか、その表情から読むことはできない。

 そして、続けた。「ところで、私はどうします?」

「まだだ。眼を、馴らしておけ」

「そうですね」

拮抗させるだけでいい」

 土方は、動かなかった。

 鋭い眼を正二郎と、アンジェリーナに向けていた。

「そうですね」沖田は繰り返して云ってから、あたりを見回した。「永倉さんがいませんね」

 返事はない。

 しかし彼は、それを気に留めず、独り言のように言葉を続けた。

「そういえば、おじいちゃんもいないや」

 井上源三郎を、彼はそう呼んでいる。

 少し間をあけて、続けた。「……隊規違反じゃないですよね。二人とも今日は非番だから」

 土方は応えなかった。

「二人で野稽古かな。それとも……」

 彼は少し間を置き、土方の横顔を伺った。

 そして、小さく手を叩いて、云った。

そうか、土方さんの顔なんか見たくないのかな」

「云やがる」

 土方の返事は短く、低い声だった。

 沖田は短く笑うと、中庭の乱闘に眼を戻した。

 

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